「速く走りたいならフォームを気にしてはいけない」50m走がすぐに1秒早くなる3つのポイント
※本稿は、伊東純也『子どもの足がどんどん速くなる』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■「速く走れる子」と「足が遅い子」の決定的な違い
走ることが苦手な子どもに、「どうして速く走れないの?」とたずねると、たいてい次のような答えが返ってきます。
「だって、運動神経が悪いから……」
これを親の立場になって考えると「ウチの子は生まれつき運動が苦手で……」という言葉が返ってくることでしょう。
この言葉の裏には、運動の得意不得意は、生まれつき決まっているという思い込みがあります。なぜ、私たちは「足の速さは生まれつき」と考えてしまうのでしょうか。

これは水泳と比べると、分かりやすいかもしれません。
水泳の場合、はじめから泳げた、という子はいないと思います。たいていは水中で目を開けるところから始めて、次に水に浮かび、それからバタ足の方法を親や学校の先生に教えてもらってようやく泳げるようになります。
ゼロからひとつずつ積み重ねていくので、努力や工夫次第で水泳は上達する、という気になれます。
でも、足の速さは違います。だれに教わることもなく、いつの間にか自然に走れてしまうので、速い遅いは生まれつき決まっているものだ、と錯覚してしまうのです。
だからこそ、すべての子どもに速くなるチャンスがあります。速くなるための走り方を知る機会さえあれば、「走ることが苦手」と思い込んでいるあなたのお子さんも、速く走れるようになります。
■ランニングフォームに正解はない
では、速く走るために必要なこととはなんでしょうか。足が速くなる方法が書かれた本やサイトの多くには、正しい走り方について、ていねいな説明が書かれています。
「ひじは90度に曲げ、うしろに引くときの反動を利用して、逆の足を勢いよく前に出しましょう」
「足は重心のまっすぐ下に着地させてください」
これをお子さんに伝えても、頭で理解できたとして、伝えられた通りに体を動かそうとすると、わけがわからなくなってしまうと思います。理論的に間違っていなくても、説明が細かすぎたり難しすぎたりして、どう走っていいか混乱してしまうのではないでしょうか。
私はそもそもランニングフォームに「これが正解」というものは存在しないと思っています。
私自身、だれかに走り方を教わったという経験がなく、フォームは我流。これまで「たしかに速いけど、ジュンヤの走り方って変だな」と、チームメイトにしょっちゅうからかわれてきました。すり足で、ちょっと猫背で、腕をグルグルまわしていて……。自分で見ても、決してスマートな走り方ではないと思います。
それでも、実際に私は速く走ることができています。身体能力が優れていると言われるアフリカ系の選手にも負けないスピードを出すことができます。
世の中には、まったく同じ体の人はいません。
背が高い人がいれば、低い人もいる。
体が柔らかい人がいれば、私のようにものすごく硬い人もいる。
足が長い人がいれば、短い人もいる。
つまり、それぞれの体に合った走りやすいフォームがある。教科書通りの綺麗なフォームが、必ずしも「お子さんにとって正しいフォーム」ではないのです。

■速くなるために大切なことは3つ
私が自分の走り方の分析をしたきっかけは、ある関係者のお子さんから「運動が苦手なんですが、どうしたら速く走れますか?」という質問を受けたことでした。
それまで走りに関して「速く走れているのだからそれでいい」と思っていた私ですが、真剣な質問に対して、これは軽々しくは答えられないなと思いました。
また、自身の動きを確認するいい機会だと捉え、プレー中の映像を見返し、さらには、元陸上競技選手だった方にも映像を見てもらい分析しました。
決して綺麗とは言えない私のフォーム。それに加えて、実は体が本当に硬い。前屈でも指先がちょっと地面に触れるくらいです。考えれば考えるほど欠点だらけの私が速く走れるのはなぜなのか――。
その結果、速く走るために大切なことは、たった3つだけだったという結論にたどり着きました。
■腕と足で推進力を高める
ひとつ目は「腕振り」です。
腕振りは速く走るために重要なことですが、その際にひじを90度に曲げたりする必要はありません。腕振りの際に意識することはただひとつ。肩甲骨です。肩甲骨を意識すると腕の振りが速くなり、推進力がアップします。
練習方法は立った状態で、その場で肩甲骨を意識しながら両腕をすばやく前後に振るだけ。最初のうちは、違和感を覚えるかもしれません。ですが慣れてくれば腕の振りも速くなり、これだけでスピードが上がります。
ふたつ目は「足上げ」です。
走るときに「足(もも)をもっと高く上げろ!」と言われた経験はありませんか? 実はその言葉を鵜呑みにしてはいけません。足を高く上げすぎると上体が後ろに反ってしまい、スピードが出なくなります。
大切なのは自分にあった足の高さを知り、自然とその高さで走れるように練習しておくことです。
その場で片足立ちをしてみてください。その際に、上げた足で三角形を作り30秒間姿勢をキープ。これだけです。ぐらついてしまう人は目線をまっすぐに、地面から頭に軸が通っているイメージでお腹に力を入れましょう。
体幹も鍛えられ、背筋がピンと伸びたきれいな姿勢をキープできるようにもなります。

■着地のリズムが回転力を生み出す
そして最後は「着地」です。
どのような着地の仕方をするかによって、次の一歩にスムーズに移れるかどうかが変わってきます。
走るのが遅くて悩んでいる子は、足の裏全体(ベタ足)で着地しているケースが多いのですが、速く走るためには、まずつま先で着地することを心がけましょう。それとリズムも大切です。リズムが刻めていないと体の動きがバラバラになって、前に進む力が失われてしまいます。
着地と着地のリズムの感覚をつかむために、おすすめの練習法が「グーチョキパージャンプ」です。
リラックスした姿勢から、足を閉じたグー、前後に開いたチョキ、左右に開いたパーの姿勢をできるだけ素早く、なおかつつま先立ちで軽くジャンプしながら行ってください。
すばやく行うことで、足の回転数も上がっていき、自分より歩幅が大きい相手や背の高い相手にも競り勝つことができるでしょう。

■「速く走れる」ただそれだけのことで子どもは変わる
私はただ、サッカーが上手くなりたい、負けたくないという気持ちだけでガムシャラに走ってきました。正直なところ、専門知識のない私がここまで「自分の走り」を突き詰める日がくるとは、思ってもいませんでした。そんな私ですが、ひとつだけ確信をもって伝えられることがあります。

それは「速く走れると、絶対にいいことがある」ということです。なによりも私が速く走れたことで、サッカー選手としての幅を広げることができました。
足が速くなかったら、日本代表のユニフォームを着てプレーするなんて、夢のまた夢。憧れのヨーロッパでプレーし、しかもリーグの年間ベストイレブンに選んでもらえることもなかったでしょう。いや、そもそもJリーガーにもなれてなかったと思います。
1時間ほどの練習で、50m走が1秒早くなったお子さんもいます。この1秒がとても大きな力を持っています。足が速くなると、夢の扉が開かれます。それはスポーツに限ったことではありません。遅かった足が速くなれば、そのコンプレックスから解き放たれて「やればできるんだ」という実感と自信をお子さんが持つことができます。
拙著『子どもの足がどんどん速くなる』を参考に、足が速くなるだけでなく、やればできるんだ、という成功体験をみなさんのお子さんに実感してもらえると嬉しいです。
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伊東 純也(いとう・じゅんや)
プロサッカー選手、FIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選日本代表
1993年3月9日生まれ。神奈川県横須賀市浦賀出身。地元の鴨居SCでサッカーをはじめる。その後、横須賀シーガルズ、神奈川県立逗葉高等学校、神奈川大学を経て、ヴァンフォーレ甲府に入団。プロデビューは2015年3月14日、Jリーグ1stステージ第2節名古屋グランパス戦。2016年に柏レイソルへ移籍。翌2017年に日本代表に初選出。同年8月13日の第22節清水エスパルス戦では、70メートルもの距離を、快足を生かしたドリブルで独走し、ゴールをマーク。その年のJリーグ優秀選手賞を受賞した。2019年2月からベルギー・ジュピラー・プロ・リーグ、KRCヘンクに在籍している。著書に『子どもの足がどんどん速くなる』(アスコム)がある。
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(プロサッカー選手、FIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選日本代表 伊東 純也)
