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「パナメリカーナ」レースが根源

text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)editor:Taro Ueno(上野太朗)

パナメリカーナグリルが増えている。

【画像】メルセデスAMGの頂点とかつてのAMGの頂点【AMG GTとSLSを比べる】 全125枚

街を走るメルセデス・ベンツを見てそう感じたことはないだろうか。


メルセデスAMG GT R

パナメリカーナグリルとは、メルセデス・ベンツの車両に用いられる、垂直ルーバーが特徴的なフロントグリルのデザインのこと。

ルーツは、メキシコで開催された「パナメリカーナ・ロードレース」の参戦車両だ。1952年にそこで優勝した300SLのレーシングカーのグリルのデザインがモチーフになっている。

ちなみにパナメリカーナ・ロードレースとは、1950年から1955年まで開催された公道レース。

メキシコ政府のバックアップのもとに開催され、メキシコを縦断するコースは総延長3000kmを超える。標高3000mを超えるような山岳区間や未舗装路もあるそのルートを5日間かけて走破るレースだ。

区間ごとに時間制限があり、各ステージの合計タイムで順位がつけられた、ラリーに近い競技だった。

はじまったきっかけはアメリカ大陸縦断道路である「パンアメリカンハイウェイ」のメキシコ国内部分が完成したことを記念するイベントで、各自動車メーカーが参加。

キャデラックやリンカーンなど北米メーカーに加え、メルセデス・ベンツのほかフェラーリやポルシェなどの欧州勢も参加。専用開発されたレーシングカーが公道を走る、大胆なイベントだった。

レースの正式名称は「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」で、ポルシェ911の「カレラ」というネーミングもこのレースからとったもの。

さらに同社の「パナメーラ」もこのレースの名称が由来となっている。そのくらい偉大なイベントだったのだ。

メルセデスAMGに採用される

話をメルセデス・ベンツに戻そう。

パナメリカーナグリルが採用されるのは、メルセデス・ベンツのなかでも超高性能モデルの「AMG」のみだ。「AMG GT」を頂点とする市販モデルは「メルセデスAMG」というサブブランドのもとで、「究極のハイパフォーマンスを追求するモデル」と位置づけられている。


メルセデスAMG GLB 35

半世紀以上ぶりにパナメリカーナグリルが復活した市販モデルは、日本では2017年6月に発売された「メルセデスAMG GT R」。

「公道走行可能なレーシングモデル」として、メルセデスAMG GTをベースにさらなるポテンシャルアップしたモデルである。その顔にパナメリカーナグリルが組み込まれたのだ。

それを皮切りに、パナメリカーナグリルはメルセデスAMGの各車に展開し拡大。今では、日本においてはパナメリカーナグリルが設定されていないAMGモデルは「SL」、「CLSクーペ」、「SLC」、「Aクラス・セダン」のみとなっている。

「SL」と「CLSクーペ」はタイミングの問題で、「SL」はモデルチェンジ、「CLSクーペ」に関してはマイナーチェンジのタイミングで採用されることになるだろう。

「SLC」は次期モデルが予定されていないので、このまま終了となる。

一方、「Aクラス・セダン」にパナメリカーナグリルの採用がない理由は、Aクラス系のモデルはSUVを除き「35」系にはパナメリカーナグリルを組み合わせないから。

現時点では、より高性能な「45 S」系だけパナメリカーナグリルとなる法則にもとづいている。

ただしこの法則はあくまで現時点のものであり、後に登場した「GLA」や「GLB」などSUVモデルはAクラス系ながら「45 S」だけでなく「35」でもパナメリカーナグリルを組み合わせる。

だから、マイナーチェンジなどどこかのタイミングで変わるかもしれない。

ブランドの象徴的存在として

こうしてわずか数年で一気に増えたパナメリカーナグリルだが、どうしてここまで急拡大し多くのAMGモデルに装着されるようになったのだろうか。

「メルセデス・ベンツ内でサブブランドが増えて、それぞれに個性を与えて差別化をはかる必要がある。その一環」とメルセデス・ベンツは説明する。


メルセデス・マイバッハSクラス

いま、メルセデス・ベンツには通常モデルのほか「メルセデスAMG」、「メルセデス・マイバッハ」、そして「メルセデスEQ」などサブブランドが登場している。

AMGはパナメリカーナグリル、マイバッハは細かい垂直フィンのグリル、EQは水平の2本線+グリル上部の水平ライン、とブランドごとにグリルのデザインを統一。

見た瞬間にどのブランドなのかが直感的にわかるようにしているのだ。

過去の栄光をブランドづくりに

さらにもう1つ、メルセデスAMGに関していえば、かつてよりも標準モデルとAMGモデルの見た目の違いが感じにくくなっていることも理由として考えられる。

20年ほど前まで、標準車とAMGモデルには見た目の明確な違いがあった。コンサバな標準車に対し、AMGモデルは明らかに派手でスポーティだったのだ。


メルセデスAMG GLC 43

しかしここ20年ほどで、標準車にも「アバンギャルド」にはじまりその後「AMGスタイリングパッケージ」が用意されるようになり、AMGモデルじゃなくてもスポーティなスタイリングを選べるようになっている。

昨今のAMGスタイリングパッケージは、まるでAMGモデルのように流麗でスポーティだ。

その結果、外観においてAMGモデルの明らかない特別感が霞んできたのは否めないだろう。

そこで明確にAMGモデルだとわかるグリルを組み合わせることで、個性を高めているのだ。そう考えるとパナメリカーナグリルの復活と採用拡大が腑に落ちる。

「AMGモデルの差別化を図るため」

パナメリカーナグリルが増えている背景には、明確な狙いが存在する。それと同時に、自動車業界においては栄光のストーリーを伴う過去の遺産がブランドづくりにいかに重要かということも理解できる。