日本初の11人乗り自動運転バスが運行開始! 果敢に実現させた茨城県堺町 橋本町長の思いと決意

写真拡大 (全12枚)

●日本初の11人乗り自動運転バス実用化!
茨城県堺町は11月25日、日本初となる公道での11人乗り自立運転バスの実用化に伴う出発式(運行開始セレモニー)を開催し、26日より町内での運行が開始されています。

自動運転車の研究は国内外問わず自動車業界の最先端研究となっています。
今回実用化されたのは、フランス・Navya(ナビヤ)社製の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」です。

運用開始時の車両は3台用意され、車両提供はマクニカが担当しました。
運用はBOLDLY(旧・SBドライブ)が担当し、車両内での保守および利用者への対応や外部からの遠隔監視を行います。


自動運転バス「NAVYA ARMA」。11人乗りの町営コミュニティバスとして運用される


出発式は生憎の雨模様だったが、式を祝うようにテープカット前に雨が止む一幕もあった


●町長の決断が町を動かした
堺町による自動運転車実用化の背景には、橋本正裕町長の決断と迅速な行動がありました。

堺町では、町民の高齢化や過疎化から住民の移動手段の確保が急務となっていました。
橋本町長は、2019年11月に当時のSBドライブによる自動運転バスの実証実験を知り、翌12月には同社に打診、2020年1月には町議会で自動運転車の運用予算を議決するなど、速やかな取り組みが行われてきました。

これまで自動運転車は、
・法律や安全上の問題
・交通渋滞への懸念
・運用実績がなく導入の敷居が高い
これらの理由から、公道での正式運用になかなかつながらない状況でした。

そうした中、橋本町長は、
「誰かが自動運転車実用化の前例を作らなくてはならない」と、
移動手段がないために運転免許証の返納ができずにいる高齢者の現状などを町議会で訴え、5年計画による予算を勝ち取ったのです。


現在45歳の橋本正裕町長。その若さを活かしたスピーディな采配が期待される

橋本町長は語ります。
「自動運転バスは本来4月には実用化されるはずだった」
2020年度初めからの導入を目指して準備を行う中、新型コロナウイルス感染症の問題が発生します。

橋本正裕町長
「まずはコロナ問題への対応と予算の確保を行う必要があり、実用化を半年延ばさざるを得なかった」

今やらなければいけないこととは何なのか。
その選択と決断を迫られた2020年だったのです。


●自動運転レベル4まで対応する「NAVYA ARMA」
NAVYA ARMAは、BOLDLYがSBドライブ時代より長年実証実験を繰り返してきた実績のある自動運転方式の電気自動車です。

車体の前後方にはLiDAR(ライダー)と呼ばれる対物センサーが複数取り付けられており、GPSや3Dマップとの組み合わせることで、特定のエリア内で人による運転補助を必要としない「自動運転レベル4」までの自動運転に対応しています。


バンパー部にあるのが2D LiDAR。背の低い障害物や子供などの検知を行う


車両上部の3D LiDAR。車両の周辺360度を見渡すように監視する

今回の実用化では、自動運転レベル4での運行を可能とするための道路交通法などの法的な整備が間に合っていないため、車内に運転補助要員1名、車両の安全の確保と利用者の補助を行う保守要員1名、合計2名が常時乗車する方式を取っています。


自動運転バスをどのように利用すればよいのか誰も分からない現在だからこそ、利用補助を行う保守要員は必須だ



自動運転バスは町内の5ルートで運用される


車両にはゲームコントローラが接続されており、緊急時などの手動運転をこれで行う

さらに現在の道路交通法に則り、自動運転車両を外部で監視するシステムも導入されています。
システムの運用はBOLDLYが担当し、遠隔で車両内の様子や車両周辺の状況をカメラからの映像で監視。
緊急時などには車両内のスタッフへ指示を送ります。


NAVYA ARMAを外部から監視するためのアプリケーション


●課題は多いが「始めなければ始まらない」
出発式後、実際にNAVYA ARMAへ乗車する体験会も開催されました。
そこではいくつかの課題も見えてきました。

まず大きな課題となるのは、住民や周辺地域に住む人々の理解です。

NAVYA ARMAは時速18kmでの運用が見込まれていますが、公道を走る上で速度が若干遅いことが懸念材料です。
堺町では普段から交通量の少ない道路を選んでルート設定をしていますが、今回の試乗時は雨天ということもあり晴天時よりも若干交通量が増加していました。
NAVYA ARMAの自動運転走行は非常にスムーズでしたが、時速18kmという走行速度から、後方に渋滞を作る場面が少なからずありました。
堺町ではこの問題を解決するため、ルート上にある店舗の駐車場などを待避所として利用できるように契約していますが、15分ほどの走行ルートの途中、複数回の退避を余儀なくされていました。

自動運転車の存在する世界では、これまでの手動運転による自動車運用とは大きく異なった運用や価値観が必要になります。
しかし現状では、誰も自動運転車の存在する世界を知らないため、
・自動運転車とはどういったものなのか
・自動運転車が走っていることへの許容(渋滞への許容)
・自動運転車を利用する世界に慣れ、馴染むこと
こうした地域社会の理解を進める必要があります。

橋本町長も出発式の壇上に立ち、

橋本正裕町長
「まずは社会実装ができたということが画期的なこと。(自動運転の)技術ばかりが取り沙汰されるが、社会実用性の実証もまた重要だ」

このように語り、日本で初めて公道を自動運転車が走り、自動運転車とは一体何なのかというところから人々に理解してもらうことが大切であると力説しています。


自動運転車が街を当たり前に走る世界は、ここから始まる

また技術的な課題としては、雨天時の安定性が挙げられます。

今回の試乗は雨天の中で行われましたが、LiDARセンサーに雨滴が付着し、センサーが誤動作して緊急停止するという状況が複数回ありました。
こういった状況判断や誤動作への対応には人による運転介入が必須です。

運行速度の低さや雨滴による誤動作などは、今後の調整や技術の進歩によって必ず改善されていくものと確信するところですが、そのためにも早期の社会実装が持つ意義は大きいと感じます。


社会実装してみて初めて分かる課題や問題も数多くあるだろう


●未来の日本のために今を走る
堺町では自動運転バスの運用に令和6年度までの5年間で約5.2億円の予算を計上しています。
橋本町長は、「5年で計画を終えるつもりはない」と断言します。

橋本正裕町長
「今まで常運行がなかったので、まずは5年間を設定した。
5年後には法的にも技術的にも良いものができているはず。
この5年で、持続可能な、どんな自治体でも取り組めるスキームを作り上げたい」

この計画を発表してから、堺町では全国の100以上の自治体から問い合わせを受けたそうです。
多くの自治体が住民の高齢化に伴う移動手段確保の問題を抱えています。
民間事業としてのバスやタクシーといった移動手段は、採算性や運転手を確保できないなど、持続性への懸念が数多くあります。

橋本正裕町長
「高齢で運転免許を返納したくても移動手段がなくてできない、そういった人たちに年間1億円すら掛けられないのか。という話を議会で行った。そうやって予算を通した」

そう語る町長の眼差しはマスク越しにも分かるほど鋭く、決意を帯びたものでした。

自動運転車の社会実装は、もしかしたら時期尚早かもしれません。
しかし、それを誰かがどこかで行わなければ、新しい未来は来ないのです。
堺町の果敢なチャレンジに、大きなエールを送りたいと思います。
執筆 秋吉 健