毎日、多くの人を乗せて日本各地を行き交っている夜行高速バス。その運転士の仕事とは、どんなものなのでしょうか。後進の指導にもあたっている現役ドライバーに、そのテクニック、やりがいなどについて詳しく話を聞きました。

「夜行高速バス運転士」はアシストする役目

「夜行高速バス運転士」とは、どのようなお仕事なのでしょうか。

 このたび話を聞いたのは、高速乗合バス(路線バス)「VIPライナー」を運行する平成エンタープライズ(埼玉県志木市)の高橋宏幸さんです。総合物流会社から同社に移り10年のキャリアを数える高橋さんは、「指導運転士」として新人ドライバーの教育にも当たっています。この日はちょうど仕事明けとのことでした。


キャリア10年の高速バス運転士、平成エンタープライズの高橋さん。後進の指導にあたる「指導運転士」も務めている(2019年10月9日、乗りものニュース編集部撮影)。

――お疲れのところ、ありがとうございます。一度の乗務で、どのくらい運転するのですか?

 ルートにもよりますが、今回は7時間前後ですね。バスタ新宿や東京駅でお客様をお乗せして、京都や大阪の難波までお送りします。到着後、休息して逆のルートで戻るのですが、我が社はツーマン運行(ドライバーふたり体制)なので、2時間半から3時間ごとに交代しながら走行しています。

――そもそも、どういうきっかけでこのお仕事に就いたのですか?

 元々、子どものころからバスの運転士には憧れていたんです。埼玉の長瀞の出身なのですが、「身近で、ネクタイをしているかっこいいおじさん」という感じでしたね。以前は総合物流会社でトラックやフォークリフトを運転していましたが、大型二種の免許を取得し、この仕事に転職しました。最初はお客様を乗せる、これだけの命をお預かりするということに大変緊張したのを覚えています。

――同じ運転にかかわる仕事でも、やはり違うものですか?

 高速バスの運転士は、お客様の乗せ降ろしに直接関わる接客業でもあります。ほとんどのお客様は、旅行で高速バスをご利用されているので、私たちは「これから楽しいことが待っている」という気持ちを削がないようアシストする役目だと思っています。ですので基本的に、どんなリクエストにも笑顔を絶やさないことを心がけています。

運転中、集中力を高める方法とは?

――運転前には、どんな準備をするのですか?

 毎回決まったバス車両に乗るわけではないので、自分の体に合った低反発座布団を持ち込んでいます。あとはリフレッシュのためにコーヒーを用意することもありますが、車内のお客様はもちろん、ガラス越しに外からも見えないカップホルダーに置くようにしています。

――思ったより「接客業」の色合いが強いのですね。

 マイクでの案内や、休憩時のSAでの対応含め、お客様にどれだけいい気持ちで乗ってもらうかが、プロのバス運転士の仕事です。

――ドライブシーズンなど、いい景色のなかで走れるのは、楽しそうですね。

 ほとんどが夜行なので、景色を楽しむことはなかなかできないのですが、夏場の早朝、東京へ向かう途中の浜松から先のあたり、ちょうど日が昇ってくるタイミングには富士山がきれいに見えます。いわゆる赤富士ですね。あと、大津SAが気に入っています。2階に行くと、琵琶湖が全面に見渡せて気持ちがいいですよ。


高速バス「VIPライナー」の3列独立シートタイプ「ロイヤルブルー」車内。隣が気にならない仕切りカーテンつき(2019年10月9日、乗りものニュース編集部撮影)。

――暗いなかの運転で、眠くなることはないのでしょうか?

 経験の浅い運転士だと、最初はきつく感じるかもしれませんね。最も注意が必要なのは、高速走行で2時間が過ぎたころです。科学的にも、運転開始から2時間前後には集中力や判断力が落ちるといわれており、特に新人はことごとく眠気に襲われます。基本的には交替しますが、そうした時にどう集中力を高めるかは、各々で違ってくるんです。私の場合は、過去にあった面白いことを思い出したり、休息時間に大阪でどんな美味しいものを食べに行こうかと考えたりして、気持ちをハイに持って行って眠気を払っています。

 新人でたまに、心のなかで歌っているつもりが口から出てしまっている者がいますね。「お客様に聞こえているよ」と注意したことがあります。

運転に自信のある人、トラックドライバー経験者が驚くわずか「1cm」

――プロのドライバーとして、心掛けていることはありますか?

 普段は夜間に走るので、高速道路には大型トラックが7割くらい、バスは1割くらいというバランスですが、年末年始や大型連休になると一般の乗用車が増えますよね。そうした際に心掛けているのは、我々は「引くことが仕事」ということです。割り込まれたら必ず引く、こちらの車線に入りたいと思っているようなら必ず譲る、そういうことが身についているのが、ほかのドライバー業と決定的に違う部分ではないでしょうか。クルマの免許では、大型二種以上の資格はないですから、そうしたプライドを持って走っています。


「お客様が、寝て起きたらいつのまにか着いていた、というのが理想です」と話す高橋さん(2019年10月9日、乗りものニュース編集部撮影)。

――プロの運転士になるには、どんなふうに学んでいくのでしょう?

 資格としては弊社の場合、普通自動車一種免許があれば高速バス運転士職への応募は可能で、入社後に大型二種免許を取得するための研修プログラムがあります。

 新人にはまず、事故をするとどれだけ大変なことになるかを伝えます。高速道路の事故は重大事故になりますから、たくさんの命をお預かりするという責任感の養成ですね。あとは、バスの挙動を実際に座席で体感してもらいます。ほんの1cmのハンドル操作でも、お客様の身体にはこれだけの衝撃が伝わるのだということに、運転に自信がある人やトラックの運転手から転職してきた人ほど驚きますね。一般的な運転のセンスや車両感覚の有無と、「バスの運転の上手さ」は別物なのです。

 極端な話、いつ車線変更して、いつシフトチェンジして、いつ止まったか分からなかった、というくらいの丁寧な運転が理想です。お客様が朝、マイク案内と照明の点灯で初めて到着に気付くくらいにできるといいですよね。そういう時にはお客様から「ありがとうございました!」といい笑顔をいただける、それがやりがいです。

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 乗務明けにお疲れな様子も見せず、安心感あふれる美声でお仕事の魅力を話してくれた高橋さんでした。

●「夜行高速バス運転士」のお仕事:平成エンタープライズ 高橋宏幸さん
・マイク乗り美声指数:☆☆☆☆☆km/h
・シフトチェンジ・スキル:☆☆☆☆☆km/h
・乗客安眠技術:☆☆☆☆☆km/h
・新人包容力:☆☆☆☆☆km/h
・車線譲り度:☆☆☆☆☆km/h