学生の窓口編集部

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"Education is a progressive discovery of our own ignorance."
- Will Durant 
(勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。)
あまり勉強に熱が入らない大学生も多いのではないだろうか。もしそうなら、かなりもったいない。この連載では、勉強する意味を見出せていない諸君に向けて、文系・理系の様々な学問を探求する「知的好奇人」達からのメッセージをお届けする。ちょっとした好奇心が、諸君の人生をさらに豊かにしてくれることを祈って。

経済を語るには「数学」の素養が必須である!

嘉悦大学 高橋先生にお話を伺いました。

50年以上に渡って『数学』を探求し続ける、その理由。#学問の面白さってなんですか?

――現在は大学院 経営経済学部の教授でいらっしゃいますが、先生はもともと数学者になりたかったそうですね。

小さいころから数学的素養があって、それは天賦のものでした。

学校でやる授業は本当に退屈でたまらなかったし、先生よりも僕の理解のほうが進んでいるものだから、数学問題を吹っ掛けると勝ってしまうんだよ。イヤな学生だね(笑)。

だから高校までの授業はずっと勝手にしていた。先生もほったらかし。高校のときには「きみはもう学校に来なくていい」という先生もいたぐらい。

ただ、大学の数学科に進むと自分の好きな研究ができるし、数学は自分の頭だけで完結するものだから、とてもよかったですね。

――数学科では何の研究をしていたのですか?

ナンバーセオリー……日本語だと「整数論」。それと「代数幾何」ですね。数学の中でも先端の部分をやっていたわけ。

――数学科の後、経済学部経済学科にも入っていらっしゃいますが、それはなぜですか?

たまたまです。大学院に行こうと思ったら定員の関係で行けないと言われたので、それじゃやめとこうってなっちゃった。

そうすると就活でしょ? 統計数理研究所が採用してくれるというので、「経済でも勉強しとこうか」と思って経済学部に入ったんだけど……結局その採用はなくなっちゃった。

ひどい話だよね(笑)。だから経済学部卒業になったわけ。

――経済学は面白かったですか?

こんなことを言うと怒られるかもしれないけどつまらなかった(笑)。

経済学の問題は数式で考えることができるんだけど、そんなに難しい数学を使うわけじゃない。

――線形代数はよく使われるようですが。

線形代数より、ちょっと難しいものも使いますし、金融工学のほうにいくと少しは難しくなる。でも簡単だよ。

――経済学にも数学の素養は必要でしょうか?

それは必須でしょう。経済学者や評論家の中には、数学の素養がほとんどないような人もいますが論外です。

科学的に物事を考え、予測を立てるには数学が必要だもの。

誰が何を言おうと正しく論証した者の勝ち

――数学という学問の魅力は何でしょうか?

数学では、年齢や立場など関係なく、論証にも権威の必要はありません。自分の頭の中のロジックのみ。それが数学の魅力だと思います。こんなに楽しい学問はないですよ。

だって、先生や教官がなんと言おうが、正しいものは正しいし、間違っているものは間違っているからね。「学問に王道なし」です。

これは、数学者のユークリッドがプトレマイオス1世から「数学を学ぶのに近道はないか」と聞かれて答えた、私が大好きな言葉です。

数学は誰にもひとしく平等で、王様だろうがなんだろうが近道はない。正しく論証した者が勝ち、自分の力のみで道を切り開く面白さは、ほかにはありません。

それに数学は普遍的な言語なんですよ。ランゲージバリアがなく、どこにいっても共通のものなので、英語を知らなくても、数学で意思疎通ができるのです。

そのまま通用するかどうかは分からないけど、宇宙人と会話するときも、初めは数学的な話題だと思いますよ。

物事の根拠を提示するためにも数学は必要

――数学を学び、経済を理解することで得られることは何でしょうか?

数学は世の中のあらゆることに必要なものです。最近になって改めて「数学は重要」なんていわれていますが、正直遅過ぎます。

プログラミングも授業で教えるようになりましたけど、そもそもプログラミングも数学が前提なので、ちゃんと数学が分かっていないと苦しい。

自分は数学ができたので、プログラミングを覚えるのも楽でしたね。

――数学は理系の基本ということですね。

そうだと思います。数学ができるかできないかが、文系と理系の大きな差でしょうね。

プログラミングに限らず、理系の素養がないと難しいと感じることは多いと思います。

――文系と理系を分けるポイントが数学だと……。

文系の人は話をするのは好きだけど、論証がないからね。議論をしていても、こっちが明確な数字を出すとすぐに黙っちゃう(笑)。

問題になっている年金の話だって、数字で見れば簡単だもの。

年金はシンプルにいえば20歳から70歳まで保険料を払って、70歳から年金を受け取る、いわば保険。

じゃあ、20歳から70歳まで所得の20%を保険料として払う場合、50年間で所得の何倍の保険料を払うことになると思いますか?

――所得×0.2×50だから、50年間で所得の10倍の保険料を払うことになると……。もし所得が400万円であれば4,000万円の保険料を払う、ということですね。

所得が実際いくらかは関係なく、誰もが所得の10年分を支払っているわけ。

じゃあ、年金給付水準の所得代替率(支給年金額と現役世代の給与との比率)を50%として、70歳から年金をもらう場合、何年で支払った分の保険料が返ってきますか?

――1年で所得の50%ですから、所得の10倍を得るには……。保険料が4,000万円だとすれば、400×0.5×X=4,000なので、Xは20。20年間必要ですね。

そう、70歳で死んでしまえばもらえないけど、70歳から20年生きれば、払った分のお金が戻ってくるし、それ以上生きれば、多くもらえる。

簡単にいえば、年金というのは早く死ぬ人から、長く生きる人への所得移転なわけで、シンプルなんですよ。それを文系の人があれこれと難しく言っている。

数字は根拠だけど、数学が分からないと、その根拠を示せないんだよね。

数学という武器を手にせよ

――よく「数学なんて勉強しなくてもいい」なんて言う大学生もいますが、大学で数学を学ぶ意味とはなんでしょうか?

さっきも「数学は根拠」という話をしたけど、数学の知識を用いて根拠を示すことは、何よりも強い武器になる。

だって数字は何よりも正しい答えなんだもの。その根拠を示すには数学を学び、理解しないといけない。それだけです。

――その武器は必ず社会に出ても役立つものですよね。

武器があれば強くなれるし、なければいろんなことが怖くなる。

私は数学だけでなく、英語や会計・統計といろんな武器を持っているから、これまでの人生でこれは困ったという場面に遭遇したことはない。なお、統計は、数学をやっていればマスターは簡単だ。

英語、数学、会計・統計の知識、この3つは大きな武器ですよ。これらの武器さえあれば、たいていは困らずに生きていけます。

――学生の皆さんも、社会に出る前に武器を得るべきでしょうか?

社会に出てからも英語を勉強したり、会計や統計の勉強をしたりできますけど、圧倒的に時間が足りません。

それなら、時間のある大学生のうちに、その力を得ておけばいいですよね。大学時代というのは、自分の武器を手に入れるための時間。そんなふうに考えてみても、いいのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

幼いころから数学の才能を発揮していた高橋先生。その数学をベースに、大学生のころからプログラミングや英語、会計、統計など、さまざまな武器を得てきたとのこと。それが現在も自身を支える武器になっているそうです。

「勉強しなくてもいい」「大学で学ぶ意味が分からない」と思っている皆さんは、大学を出てから後悔をしないよう、ぜひ大学生のうちに自分だけの武器を得られるよう、努力してみてもいいかもしれませんね。

数学から経済学へ、官僚も経験した高橋先生の実績

マスコミでマクロ経済や日本の経済政策について語るときに、最も信頼できる一人といわれるのが「嘉悦大学 大学院ビジネス創造研究科 経営経済学部・ビジネス創造学部 高橋洋一教授」です。高橋先生は、東京大学理学部数学科卒で「実は数学の研究者になりたかった」というほど数学的素養にあふれた方です。

高橋先生は、そのキャリアも非常に独特で、数学科を卒業した後は、東京大学経済学部経済学科に籍を置きつつ、統計数理研究所に内定。しかし結果として不採用となり、同経済学部を卒業後に、大蔵省(現・財務省)に入省し大蔵官僚として働き始めます。

そして、2001年発足の小泉内閣の下では経済財政政策担当大臣・竹中平蔵の補佐官、2006年に発足した安倍内閣では内閣参事官を務めますが、2008年3月31日に退官。その後は民間に転じ、政策・経済についての論客として、活動を続けています。

また、大蔵官僚時代の高橋先生の大きな功績として忘れてはならないのは、日本政府のバランスシート(賃借対照表)を作成したことです。当時「政府のバランスシートを明らかにする」というのは世界初の試みといってよく、非常に画期的なことでした。

忘れがちですが、企業と同じく政府にも「借り方」「貸し方」があり、それが明示されなければ、財政上の健全性についての議論などできません。高橋先生が作成したシートは、当時いったんお蔵入りになったのですが、世界の趨勢(すうせい)から日本でも明らかにせざるをえなくなり、将来の公表が既定路線となりました。この公表作業は、現在も財務省が続けています。

高橋先生が他の経済学者と一線を画すのは、きちんと数字の裏付けをもとにして、科学的、論理的に論じる点です。また官僚時代には、プリンストン大学に客員研究員として留学し、経済学についてベン・バーナンキ(元FRB議長)、ポール・クルーグマン(ノーベル経済学賞受賞)から、じかに学んでいます。 

【高橋洋一先生 プロフィール】
1955年、東京都出身。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任し、郵政民営化、政策金融改革を企画立案。その後、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問等を経て、現在は嘉悦大学教授、(株)政策工房会会長。

(柏ケミカル@dcp)