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カリフォルニア州で通過した法案が、インターネット経由で単発の仕事を請け負うギグ・エコノミーの労働者たちにとって“福音”となるかもしれない。

9月11日(米国時間)にカリフォルニア州の上下両院を通過した州議会法案第5号(AB5)は、これまで「独立した委託契約者」とみなされてきたギグ・エコノミー従事者の保護強化を目的としたものだ。施行されれば、UberやLyft、DoorDashといった州を代表するテック企業のビジネスを揺るがすだけでなく、ビルの清掃管理員やトラックのドライヴァー、ミュージシャンなどにも影響が及ぶ可能性がある。

法案は上院では29対11、下院では56対15でいずれも可決された。ただ、成立するには州知事であるギャヴィン・ニューサムの署名が必要となる。ニューサムは9月2日のレイバー・デイに地元紙に寄せた文章ではAB5を支持する考えを示していたが、議会で可決されると、テック企業側との話し合いを続ける方針を明らかにした。法案の推進派と企業側が折り合える地点を模索するという。

Uberなどのテック企業への反発は全米で高まっており、ドライヴァーたちによる労働組合の結成といった動きも見られる。こうしたなか、ほかの州や都市でも同様のルールづくりが提案されるかもしれない。NPOのNational Employment Law Projectのレベッカ・スミスは、「全米がカリフォルニアの動きに注目しています」と話す。

ドライヴァー1人当たり約40万円のコスト増に

AB5は2018年にカリフォルニア州の最高裁判所が出した判決を成文化したものだ。この判決では、労働者が従業員か請負かを判断する上で、これまでとは異なる3つの判断基準が示された。従業員であると認められれば、企業は最低賃金や失業保険、労災、医療保険などを提供する必要が出てくる。

最高裁の示した判断基準では、労働者が業務の委託契約者と認められるのは、仕事中に企業の管理監督下に置かれていない、もしくは労働者が企業が提供する事業の「通常の範囲外」の仕事をしている場合のみに限定される。なお、AB5には団体交渉権に関する規定は含まれていない。

Uberのようなアプリをベースにしたサーヴィス企業のために働く人たちは、自らの裁量で労働時間を決められる。一方で、料金や手数料は企業側が管理しており、顧客評価システムを通じた監視も行われている。また、特定のエリアや時間帯は報酬が上がる仕組みがあり、これもある種のコントロールとみなされるだろう。

また、ドライヴァーや配達パートナーの業務は、これらの企業のビジネスモデルの中核をなすものだ。つまり、今回の法案が施行されれば、UberやLyftのドライヴァーは従業員とみなされ、市場専門家の試算ではドライヴァー1人当たり3,625ドル(約40万円)の追加コストがかかるようになる。UberとLyftの2社では、コストは年間8億ドル(約865億円)に達する。

早ければ来年から適用へ

ギグ・エコノミーにおいて個人で仕事を請け負う人々が従業員と規定されるようになれば、テック企業はビジネスモデルそのものを見直さざるを得なくなるはずだ。UberもLyftも顧客の待ち時間を減らすために、ドライヴァーにはできるだけ長くアプリにログオンするよう求めている。ただ、法制化が実現すれば、労働時間数を厳格に管理するために、利用が少ない時間帯はドライヴァーの数を減らすといった戦略がとられるようになるだろう。

一方で、Uberの顧問弁護士トニー・ウェストは、仮に新しいルールが制定されても、同社のドライヴァーは従業員には区分されないだろうとの見方を示している。ウェストはメディアの電話取材に対し、「判断基準は厳しいものですが、だからと言ってその基準を満たすことが不可能ということにはなりません」と説明している。

法案は知事が署名すれば2020年1月1日に発効する見通しだ。なお、法案審議の過程でいくつかの修正が行われており、サンフランシスコのような都市では企業が新法を守らない場合、提訴が可能になった。

こうした裏で、上院で加えられた修正案により、新聞配達員に関しては新しいルールの適用は1年間先送りされることになっている。これは『ロサンジェルス・タイムズ』や『サンフランシスコ・クロニクル』といった地元紙が、新聞配達員が従業員という扱いになれば会社が破綻すると抗議したためだ。不動産や漁業など一部分の野も、しばらくは新法の適用外になる。

州知事はテック企業との対話を継続

法案は議会を通過したが、法制化が実現するかは依然として不透明だ。州知事のニューサムは『ウォール・ストリート・ジャーナル』とのインタヴューで、テック企業および労働者の代表の双方と話し合いを続ける方針を示している。「Uber、Lyft、DoorDashを含む各社と交渉を続けています。AB5を巡ってどのような動きがあろうと、この交渉を中断することはありません」

UberとLyftは8月末、ドライヴァーに一定額の賃金を保証することを約束したほか、有給休暇や病欠、限られた条件での労災も認めると提案した。ただ、活動家などはこの内容では十分ではないとの見解を明らかにしている。また、フードデリヴァリーのPostmateと買物代行のInstacartも、やはり契約規約を見直す方向だ。

Uber、Lyft、DoorDashの3社は、交渉が行き詰まった場合の代替案を用意している。3社で9,000万ドル(約97億円)を拠出して、州の住民投票を実施するというのだ。具体的には、ドライヴァーを従業員と委託契約者との間のどこかに落ち着かせる内容の新しいルールを提案するという。

同様の動きは世界へ拡大?

Lyftは声明で、「ドライヴァーもLyftの利用者も必要としている自由を確保するために、この問題をカリフォルニア州の有権者に直接問う用意があります」と述べている。また、ドライヴァーの扱いを巡り異議申し立てが行われた場合、仲裁措置や訴訟を通じて解決していきたいとしている。

一方、労働者の権利を訴える活動家たちは、今回の動きがカリフォルニアだけでなく、全米から世界各地へと広がっていくとの見方を示している。ニューヨーク州では同様の法案の議会提出に向けた準備が進むほか、Uberはロンドンでやはりドライヴァーの待遇を巡る問題を抱える。

また、ニューヨーク市ではすでに委託契約者に最低賃金を認める政令が発効している。一方で、ブラジルの高等裁判所は9月初めにUberのドライヴァーは従業員とは認められないとの判断を下した。