インディーゲームは「人生そのもの」だ! 大手では生まれないゲーム開発者たちとの夢を追うGoogle Play Indie Games Festival 2019の熱気

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●皆が熱く燃えた! 大興奮のGoogleゲームフェス
Googleは6月29日、都内にてインディーゲームの祭典「Google Play Indie Games Festival 2019」を開催しました。
インディーゲームとは、個人から数人といった、ごく少数の開発者によって作られるゲーム(主にビデオゲーム)のことです。

インディーゲームは大規模な開発体制を整えたゲームと違い、予算を多くかけられません。
そのためゲームボリュームが小さくなってしまう傾向がありますが、大手のゲームにはない楽しさ、特徴があります。
・アイデアで勝負をかける作品が多い
・ゲーム開始から出し惜しみなく、すぐに没頭して楽しめる
・複雑な操作を必要としないシンプルなゲームが多い
・無料もしくは低価格のゲームが多い
・少しのスキマ時間でも楽しめるゲームが多い

インディーズゲームにおけるこれらの特徴は、スマートフォン向けアプリとの相性がとても良いことから、Googleが2018年より本フェスティバルを開催しています。


ここから新たなゲーム開発者たちが育っていく

会場には、Googleの選考により予めノミネートされた20作品が自由に試遊できるスペースが設けられており、のべ数百名にものぼる一般来場者が実際にプレイし、投票が行われました。

ノミネート作品は以下の通りです。(ブースナンバー順)

・テラセネ
・クマムシさん惑星 ミクロの地球最強伝説
・Lunch Time Fish
・相撲巻 SumouRoll 横綱への道
・タシテケス
・はむころりん
・ペルセポネ
・キグルミキノコ Q-bit -第1章-
・ねこの手も借りたい洋菓子店 −ほのぼのケーキ屋さんゲーム−
・どこでもドラゴン
・ゴリラ!ゴリラ!ゴリラ!
・脱出ゲーム The Little Prince 星の王子さま
・Jumpion
・ALTER EGO
・くまのレストラン
・MeltLand - メルトランド -
・柴犬のクレープ屋さん
・カミオリ
・Infection - 感染
・ReversEstory


みなさんの知っているゲームはあるだろうか

ノミネートされたゲームは全てAndroidスマートフォン向けゲームです。
いずれも独創的・個性的な作品ばかりで、Google Playにて配信中、もしくは今後配信予定のものです。

来場者も初めて触るゲームが多い中、応援のために駆けつけたファンがいるゲームもあり、インディーゲーム市場が拡大し、多くの人に認知され始めていることを強く実感しました。


会場内を自由に歩き、展示されたゲームを試遊できる


ゲームへの投票は専用のコインで行われた

各ゲームブースには開発者自らが立ち、制作したゲームの魅力や楽しむポイントなどを解説。
時には展示ゲームから離れ、来場者と過去に作った作品の話題などで盛り上がっているシーンも見かけました。

ゲームプレイヤーと開発者の距離の近さもまた、インディーゲームの素晴らしさの1つです。


みんなの「面白かった!」がトップ10作品を決める


●僅差の激闘を制したものは? トップ10、トップ3の発表
ゲームの試遊時間が終わると、いよいよトップ10の投票です。
来場者に渡された専用コインによる投票で決定されたトップ10作品は以下の通りです。(ブースナンバー順)

・テラセネ
・クマムシさん惑星 ミクロの地球最強伝説
・Lunch Time Fish
・ペルセポネ
・キグルミキノコ Q-bit -第1章-
・くまのレストラン
・MeltLand - メルトランド -
・カミオリ
・Infection - 感染
・ReversEstory


選ばれた10作品の開発者には、改めてステージ上でのプレゼンテーションタイムが5分間与えられ、そこでゲームの魅力や開発のポイントなどが披露されます。
このプレゼンテーションの内容が一般来場者や審査員によって再び採点され、さらにトップ3が決定されます。

プレゼンテーションで人々の採点を分けたのが、開発者の「ゲームが大好きだ!」という「熱意」や「想い」であったことは間違いありません。
開発者は全身全霊で自分のゲームをアピールし、自分自身すらもアピールしていたのが印象的でした。

時には過去の経歴を絡めて「これが当たらなかったら死ぬしかない!」と笑いを取る人、
時には「予算がないので自分の裏声で女の子キャラの声役しました!」と衝撃のカミングアウトをする人、
こうした軽妙なノリと熱意で会場が一体となる姿も、インディーゲームの祭典らしさでしょう。


「Lunch Time Fish」プレゼンテーション。時には自虐ネタも交えつつ、自分なりのスタイルを表現していく


「MeltLand - メルトランド -」プレゼンテーション。「アイデア」の中には技術も含まれる。5年以上も複雑な物理計算を研究し、美しいアート的ゲームへと昇華した


「キグルミキノコ Q-bit -第1章-」プレゼンテーション。ゲーム作品のみならず開発者自身に固定ファンがいるのも、破天荒で底抜けに明るい人となりゆえだろう

プレゼンテーションの採点は一般来場者による投票のほか、審査員による厳正な評価も加味され、以下の3作品が選ばれました。(ブースナンバー順)

・くまのレストラン
・MeltLand - メルトランド -
・Infection - 感染

「くまのレストラン」は、
可愛らしいドットキャラクターで「死」という重いテーマを扱ったストーリー性が高く評価されました。
そして審査員からは
「日本のインディーゲームの代表格として、グローバルに通用すると感じた

個人や小規模で開発しているからこそ扱える「死」というテーマに向き合い、レビュー1つ1つへ丁寧にコメントを返しているところが素晴らしい」
こうした評価を受けていました。


「くまのレストラン」画像左が製作者。来場者は奥深いストーリー性に時間を忘れて没頭していた

「MeltLand - メルトランド -」は、総合力の高さが評価されました。
なめらかで美しく動き続けるシンプルなゲーム画面からは技術力の高さが否応にも感じられ、審査員からも絶賛されていました。

「努力が詰まっている。(画面に数字以外の文字UIが存在しない)非言語ならではのユニバーサルなリーチも魅力

ゲームやプレゼンに(開発者の)人柄がよく出ていた」


静止画ではなめらかに動く様子をお伝えできないのが実に惜しい「MeltLand - メルトランド -」

「Infection - 感染」は、ゲーム全体のバランスが良く、
「トップ10作品からトップ3を選ぶのは競争的で微妙である中、安定度などが抜けていたのが本作品だった」
このように高く評価されました。

この作品に限らず、審査員からは作品やプレゼンテーションの評価で、
「どの作品も僅差だった」
こうした言葉がよく聞かれました。

しかし、本フェスティバルは作品の優劣を付けることが目的ではないことから、
「(ノミネートゲーム)20本の代表的な作品だった」
このように評価されたのです。


人間の集団行動心理をゲームへ落とし込んだアイデア力の高さと、それを程良い難易度のパズルゲームとして昇華させた技術力が秀逸だった「Infection - 感染」

これらの作品以外にも、賞が複数用意されており、賞金1000万円やキャラクターIPの使用権などが与えられました。

・オンライン投票優秀賞:ALTER EGO
・少年ジャンプ+賞:ペルセポネ
・集英社キャラクタービジネス室賞:はむころりん
・エイベックス賞:くまのレストラン
・ゴジラ賞:相撲巻 SumouRoll 横綱への道

「くまのレストラン」は、トップ3とのダブル受賞を果たしました。
いずれの作品もキャラクター性やゲーム性の高さが評価されており、漫画キャラクターなどを用いたIPビジネスのパートナーとして適しているというのが選考の大きな理由となりました。


「相撲巻 SumouRoll 横綱への道」。次はゴジラを題材にした格闘ゲーム「ゴジラロール」が生まれるかもしれない


●インディーゲームは人生そのものだ!
今回の「Google Play Indie Games Festival 2019」は、
Googleが開催するインディーゲームの国内イベントとしては2回目となります。

プレゼンテーションや審査結果の発表では、YouTubeを通してストリーミング配信する試みも初めて行われました。
この新しい試みは、開発者からのフィードバックによって実現したそうです。

こうしたことが実現した背景には、Google自らがインディーゲーム開発者と近い距離で向き合い、ともにゲーム市場を創っていこうという強い決意と志があるように感じられます。

現在のインディーゲーム市場について、審査員を務めた株式会社シシララ 代表取締役 ゲームDJの安藤武博氏は、

「大きい会社でやれることはやりきってしまった感がある

大企業ではできないことを(インディーゲームで)」
このように語っています。

世界ではここ数年、ゲーム市場の広がりとともに「ゲーム」という定義の幅も広がっています。
その結果、
・大手ゲームメーカーがカバーしきれないカテゴリのゲーム
・大手ゲームメーカーが採算性から手が出せないニッチなアイデアのゲーム
こうした「ジャンルや指向の多様性」が生まれ始めています。

インディーゲーム市場は、こうした多様なゲームを展開できる重要な市場でもあります。

また安藤武博氏は、
「(SNSなどによる)自己発信が当たり前の世代のインディ」
このようにも語っており、自己表現力の場としての活用にも可能性を感じているようでした。

一方でインディーゲームには、
・容易ではない収益化
・長期的な開発体制の維持
・安定した開発ラインの確立
・メディア露出や一般消費者への認知の難しさ
このような課題も依然として残っており、「一発屋」で終わらないための方策については、まだまだ試行錯誤している様子も伺えました。

本フェスティバルは、このメディアへの露出や一般消費者への認知度の向上という点に、強くアプローチするための施策でもあります。


素晴らしいゲームアイデアを、どうビジネスへと転化するのかが重要


本フェスティバルはゲーム開発者たちの登竜門として機能するか

安藤武博氏に「これからのインディーゲーム」について質問した際、とても印象的な言葉をいただきました。

「まず『売れるより受ける』。生き様、人生がインディ。泣きそうになるほどの感動がそこにある」

ステージ上でのプレゼンテーションでも、自分の過去やゲーム制作に至るまでの想いを熱く語る開発者は少なくありませんでした。
また、作品やプレゼンに開発者の人となりが強く反映されていることも知り、審査員を含めた会場の人々の多くが、その点に高い評価を与えています。


Google Play Indie Games Festival 2019


大きな開発ラインの中で、多数の開発者たちが作品の「部品」を作ることに徹したゲームは、壮大で素晴らしいものになるでしょう。
しかし、たった1人の開発者が自分の全てをぶつけて生み出したゲームは「これが私の作品だ」というほどの存在感を生み、まさにその人の「人生そのもの」としてプレイヤーに映るのではないでしょうか。

ゲームから開発者の生き様や情熱を感じられること。
これこそがインディーゲームの最大の魅力なのだと強く感じました。


執筆 秋吉 健