思わぬ疑惑が浮上(ファミリーロマンスHPより)

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「レンタル家族」社長に恩を仇で返された「NHK」(1/2)

 独り身の侘しさを埋めたい。事情があって自分の親を交際相手に紹介できない。そんな人に“家族”を貸し出すのが「レンタル家族」である。このビジネスを手がける「ファミリーロマンス」の石井裕一社長(38)は海外からも注目され一躍時の人となったのだが……。

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 日本時間の5月26日未明まで開かれていたカンヌ国際映画祭で、ドイツの名匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督の新作が上映された。

 タイトルは、「ファミリーロマンス社」。客の依頼に応じて家族や恋人を演じる日本のレンタルサービス会社の日々を描き、世間体を気にする日本社会の悲哀も浮き彫りにしている。

思わぬ疑惑が浮上(ファミリーロマンスHPより)

 その主人公である代行サービス業の男性を演じたのが、石井裕一。実際に、「レンタル家族」を手がける代行業「ファミリーロマンス」の社長だ。

 彼はまさに、いまをときめく存在といっても差し支えあるまい。誰もが知る世界最高峰の映画祭の上映作で主演しただけでなく、この数年、国内外のメディアから引っ張りだこなのである。少し長くなるが、その例示にお付き合い願いたい。

 たとえば、一昨年。フランス国内でもっとも売れており、“知識人の週刊誌”と呼ばれる「ロプス」で活動が取り上げられた。昨年4月には、アメリカの一流誌「ザ・ニューヨーカー」が大特集。石井社長などへのインタビューを交え、レンタル家族の実態を報じた記事は、

〈60代会社員の告白「2年前から妻と娘を“レンタル”しています」〉

 と和訳され、会員制ウェブメディア「クーリエ・ジャポン」の今年2月号で25ページにわたり掲載されている。

 さらには、アメリカやドイツをはじめとする海外テレビでも紹介されてきた。そして今年4月には、なんと、あのハーバード大学でも講演しているのだ。

 むろん国内のメディアも“総ナメ”状態。NHKと民放キー局全局の情報番組からドキュメンタリーまで、あらゆる番組で扱われてきた。ラジオや新聞、雑誌の紙媒体もしかり。かくいう本誌(「週刊新潮」)も、昨年4月に“インスタ映え”の実態を特集した際、「リア充アピール代行」なるサクラの派遣サービスに関する石井社長の談話を20行ほど掲載している。

石井社長とは何者か

 なぜ、これほどまでにメディアが興味を持つのか。

 重宝される「レンタル家族」が現代日本の世相として面白いのだろう。あるいはそれを利用する人々の虚栄心を覗き見したい心理や、“他人の不幸は蜜の味”といった感情が働くからか。

 石井社長はそれを、注目を集めるビジネスに育て上げた。彼がいかなる人物なのかを、先の「クーリエ・ジャポン」から引くと、

〈東京都生まれで、千葉県の沿岸部で育った。父親は青果商で、母親は水泳教室のインストラクターだった。(中略)20歳のときに芸能事務所にスカウトされ、モデルや映画エキストラの仕事を何度かした経験もある。普段の仕事は高齢者の介護〉

 そんな彼は、シングルマザーの友人から悩みを相談されたことで“代行業”のきっかけを掴む。彼女の子どもの幼稚園の面接試験で父親役を演じたが、失敗。彼は、悔やんだ。このような役割のプロフェッショナルを提供できないか――。そう思い至った彼は、紆余曲折の末、2009年に「ファミリーロマンス」を立ち上げる。すると数年で軌道に乗り、スポットライトを浴びるまでになったのだ。

 しかし、浴びる脚光が眩(まばゆ)いほど、影も濃くなる。「レンタル家族」を扱ったドキュメンタリー番組には、決して表沙汰になってはならない“影”が存在していた。

 依頼する客として番組に出ていた人物が、実は、「ファミリーロマンス」の代行スタッフだったのである。

依頼者などいなかった

 その番組はNHKの海外向けサービス「NHKワールドJAPAN」の、「HAPPIER THAN REAL」。約30分のドキュメンタリーだ。

 妻を病で亡くした依頼者が、心の隙間を埋めるために妻と息子と娘の3人の「レンタル家族」と過ごす姿を追っている。昨年11月の放送で、以降、今年1月までに7回、再放送された。

「その撮影は、昨年の6月に行われたのですが」

 こう明かすのは、同社の元代行スタッフの鈴木剛志さん(仮名)。60代の元会社員で、演技と喋り方を勉強した経験があるという。

「私はレンタル家族の依頼者として、顔出しで登場しました。しかし私はもともと代行スタッフ。つまり、この件は依頼者などいなかったのです。スタッフである私が依頼者を、女性の代行スタッフが妻と娘、石井社長が息子を演じました。ドキュメンタリーとは言えない内容だったんですよ」

 撮影には、鈴木さんの実際の自宅が使われた。

「みんなで寿司を食べて団欒をし、家を出て近所の寺まで散歩する。“4人家族”のなにげない日常を紹介しています。番組スタッフは日本人と外国人の混成で、私たちの演技に気づいていない様子でしたね。これはあとから知らされたのですが、石井社長が、依頼者のフリをしてNHKサイドと打ち合わせていました」

 制作サイドとしては、騙された格好になるわけだ。しかし、このようなドキュメンタリー番組においては、依頼者が顔を晒(さら)して出演をOKした時点で、番組の価値は格段に上がる。そのためにチェックが緩くなった側面もあるのではないか。鈴木さんが続ける。

「そもそも、レンタル家族の依頼者は表には出せない面倒な事情や内面的な悩みを抱えているわけです。モザイクであっても、簡単にメディアに出ることはありえません。レンタル家族のサービスを行っているほかの会社は、メディアから“依頼者に直接話が聞きたい”と頼まれても断っているようです。しかし石井社長は“依頼者、用意できます”と言ってしまうのです」

 番組制作への忖度では済まされまい。となると、当然、ほかの番組でも怪しいケースが出てきそうなもの……。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年6月6日号 掲載