2019年に25周年を迎える関西空港。大阪湾の海上に築かれた空港島は、世界に類を見ない土木工事によって誕生しましたが、現在も地盤沈下を続けています。そもそも沈むことを予期して造られた関空、この沈下との戦いは宿命ともいえます。

大規模な埋め立てで誕生した人工島に空港建設

 2018年9月に上陸した台風21号の影響で、関西空港では大規模な冠水が発生しました。第1ターミナルのある1期島は大半が海水に浸かってしまい、一時は閉鎖され、全便が欠航となるなど大きな被害が発生。じつはこれには、関空独特の立地条件が関係していました。


関西国際空港の第1ターミナル(風来堂撮影)。

 関空は大阪湾内の泉州沖約5kmに建設されたふたつの人工島、1期島と2期島からなります。沖合に建設することで、地域住民への騒音の影響を低減することに成功し、日本で初めて旅客・貨物両方の完全24時間運用が可能となったのです。広さは約1055ヘクタールにも及び、ふたつの旅客ターミナル、3500mと4000mの滑走路、その他空港関連施設が設けられています。

 海上空港は国内にいくつかありますが、関空ほど沖合に建設され、深くまで埋め立てた空港は類がありません。1期島は水深18m、2期島は水深19.5mを埋め立てています。やわらかい海底地盤の上に巨大な人工島を築くことは並大抵のことではなく、工事開始当時から、開港して24年経った現在も、さまざまな問題と戦い続けているのです。

あえて地盤沈下を促進? 関空の地盤改良工事とは

 埋め立て工事に先立って、まずは海底の地質を調べるボーリング調査が行われました。それにより、大阪湾の海底には、厚さ25mの沖積層が広がっており、さらにその下に厚さ1000mの洪積層があることが判明しています。沖積層は水分を多く含む柔らかい粘土層、洪積層は粘土と砂が交互に堆積した比較的硬い地層です。

 1987(昭和62)年に空港の造成工事が始まり、最初に着手されたのは、沖積層の地盤改良工事でした。沖積層に砂杭を打って土砂を投入し、その重みで粘土地盤中の水を砂杭から押し出すことで、人工的に地盤沈下を促進するサンドドレーン工法が用いられました。これにより粘土中の水分や空気が押し出され、圧迫されることで地盤が硬くなり、地盤沈下が止まるのです。埋め立て完了から1年ほどで沖積層の地盤沈下はほぼ完全に終了し、現在は沈下が起きていません。

 しかし、こうした地盤改良工事を行えるのは沖積層までで、さらに下の洪積層はあまりに厚く、地盤の強度を上げるための機械がありませんでした。洪積層は硬い地盤ではありますが、空港を建設するほどの大規模な埋め立てには耐え切れず、沈下は免れません。では、洪積層の地盤沈下にどのように対処したのでしょうか。


2018年台風21号による関空の被災状況(画像:関西エアポート)。

 じつは、洪積層の地盤自体には何もしませんでした。その代わり、地質調査をもとに沈下量をあらかじめ想定し、地盤沈下するぶんだけ人工島の高さを上乗せして埋め立てたのです。つまり、空港は現在も、洪積層の沈下が進んでいるのです。

 2017年12月の計測によると、1期島は開港の1994(平成6)年から3.43m、2期島は開港の2007(平成19)年から4.14m、それぞれ沈下が進んでいます。とはいえ、埋め立て当初は速かった沈下のスピードは徐々に鈍っていて、近年では年間10cm程度になっています。

沈下は織り込み済み! 関空ターミナルのヒミツ

 こうした地盤沈下は、人工島全体で同一のペースで起こるわけではありません。空港施設の建設などにより地盤にかかる重さが場所によって異なったり、また洪積層の砂の層と粘土の層で厚さが異なったりするため、沈下する速さにも差が生じてきます。これを「不同沈下」といい、関港が現在まで抱えている問題です。

 不同沈下はそのままにしていると、ターミナルビルなどの施設にひずみが生じ、ひび割れたり傾いたりと、大きな影響を及ぼします。そのため、長さ1700mにも及ぶ第1ターミナルビルは、建物が複数のパーツに分かれており、パーツどうしの連結部に蛇腹のようなジョイントを用いることで、不同沈下による影響を軽減しています。


建物や設備の接合部をジョイントにして沈下によるズレに対応(風来堂撮影)。

 また、ターミナルビルには全部で906本の柱があり、これらすべてに対してジャッキアップシステムが組み込まれています。ビルの傾斜角が管理値400〜500分の1を超えると、最大300tを持ち上げられる油圧ジャッキで柱を持ち上げ、フィラープレートという鉄板を挟み込んで柱の高さを調整します。こうして建物全体が平行に保たれるように調整しているのです。建物への影響を考慮して、持ち上げる高さは最大10mm。非常に大規模でありながら精密な作業が、深夜に行われているのです。

 また、埋め立てによって完成した空港島は、高波の被害も受けやすくなっています。地盤改良のあと、空港島は護岸工事が行われ、高波に対処してきましたが、近年では予想を上回る高波に襲われることもしばしば。開港後も計画的に護岸のかさ上げ工事や補強工事が行われてきました。2期島が2018年台風21号の被害をほとんど受けなかった理由は、2014年秋から2018年夏までかけて行われていたかさ上げ工事のおかげといえます。

※記事制作協力:風来堂、加藤桐子