苑田尚之先生 東京大学理学部物理学科卒業。東進ハイスクールほか大手予備校で講座を持っている。子供の頃の夢は天文学者、オリンピック選手など。

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■数式は言葉です

黒いサングラスにロングヘアと、まるでロックミュージシャンのような苑田尚之先生が教えるのは物理。東進ハイスクールのCMの「数式は言葉です。計算じゃない」という言葉に象徴される通り、物理学の本質を学べる授業は、支持者が多数。「基本法則だけですべてを説明する考え方に圧倒された」「物理が楽しくて仕方なくなりました」(ともに東大合格者)という声もあり、東大の理系や医学部合格を目指す超ハイレベルの生徒たちからの絶大な信頼を得ている。めったに取材を受けない苑田先生が、今回インタビューに応じてくれた。

私が理科好きになったきっかけは、宇宙への興味です。生まれ育った長崎県の島原半島は自然豊かな場所で、美しい夜空を眺めているうちに、宇宙の果てがどうなっているのか知りたくなったのです。小学生のころから大人用の天文学の本を図書館で借りて読み、天体観測もしました。普段はねだっても物を買ってくれない親が珍しく天体望遠鏡は買ってくれたのです。

私は自分から理科的な興味を持って深めていった子供だったので、お子さんを理科好きにさせたい親御さんには私自身の経験は何も役に立たないかもしれません。

ただ子供が理科好きになるかどうかは、本人がどこまで興味を持てるかに尽きると思います。そして、教える人がどれだけ深い興味や理解を有しているかによって、子供の感じ方は大きく左右されると思います。

■小学生に授業をするならテーマは「宇宙」

私の授業を「面白い」と感じてくれる生徒が多いのは、私自身、物理が好きで、物理に対する愛情と理解のもとに授業をしているからだと思います。授業では、受験で必要な知識だけでなく物理の根源的な話もします。あくまでも「物理学の美しさと面白さ」を伝えるのが基本で、生徒を楽しませるような特別な工夫や準備はしません。だから今回の取材でどうやって生徒のやる気を引き出しているのかと質問されても、答えようがありません。今は東大や医学部を目指すようなレベルの生徒を対象に教えていますが、かつてはいろいろなレベルの生徒を教えていました。学生時代には小学生を教えたこともあります。学力に合わせて難易度は変えますが、自分が面白いと思うことを話すのは同じでした。それでもどんな年齢のどんな子でも、私の授業に何らかの面白さを感じてくれていたようです。

もしも小学生に理科の面白さを話す機会があるなら、私の理科好きの原点である宇宙の話をするでしょう。誰でも「宇宙の果てってあるんだろうか」とか「宇宙は有限か無限か」とか1度は考えたことがあるはずです。大人でも子供でも共通して面白いと感じる対象がそこにあるのです。

■「実験をさせればいい」には違和感

子供を理科好きにするには実験をさせるといいというのが世間の風潮ですが、私には違和感があります。自然科学における実験の重要性は言うまでもありませんが、私自身は実験が大嫌い。楽しさを感じたことは1度もありません。東大の学生時代には、実験の講義の単位を取るのに、データ解析や考察などレポートはいくらでも書くから実験そのものは免除してほしい、と先生に無茶なお願いをしたくらいです。

もちろん、実験を通じて理科に興味を持つ子供も中にはいるでしょう。ただし、それを一般化されては、実験嫌いな人間は困ります。理論の美しさには強く引かれるけれど、実験は嫌いな人間もいるんです。人間の興味の対象は多種多様であり、画一的なものではないのです。

私はこの仕事を天職だと思っています。この仕事は、自分が面白いと思う話に真剣に耳を傾けてもらえる。そして、私の話をきっかけに物理に興味を持つ生徒がいる。こんな幸せなことはありません。もともと予備校の講師は2、3年の腰掛け程度の気持ちで始めましたが、この仕事の楽しさに目覚めてしまった。

生徒にも将来を考えるとき「まずは好きなことをやってみたらどうか」とよく言います。進路選びも就職に有利とかつぶしがきくからという理由で選んで、幸せになれるとは思えない。そういう感覚は私にはありません。興味があること、好きなことが大きな原動力だと思うのです。

■戦って負けるならそれは結構。しかし、逃げて負けたら明日はないからな

「勉強は楽しくやるもの」と銘打ち、勉強意欲に難ありの高校生も次々と難関大合格に導く、英語講師の渡辺勝彦先生。「合格できたのは先生のおかげ」「モチベーションを高めてくれた」という受講した生徒からの声の通り、明快な口調とテンポよい授業は大人気だ。一般人を含めた講演会では数千人規模の観衆を集めるカリスマだ。

本日のお題は、「子供にやる気を出させる方法」でしたね。私の最も得意なテーマですよ。

「目指すのは、そこそこの大学なんかではなく、難関大!」。生徒に対していの一番に言う言葉です。生徒はたいていこう反論します。「絶対無理、だって俺、頭悪いもん」と。まだ勉強をしてないのに、なぜ決めつけるのか。中学受験をする小学生でも似た傾向があるでしょうか。

私は、頭の良しあしに関係なく、誰でも難関大に合格させる自信があります。英語を楽しみながら成長させる技を持っている。それはプロの英語講師だからで、親が子供に直接教えてもそうはいきません。だから、教えるのは塾の先生に任せて、親は夢を語りましょう。「北風と太陽」のストーリーの通り、無理やり勉強させても、子供は前向きになりませんからね。

中学受験なら「難関の御三家に合格するぞ!」。現在、その射程圏内にいるかどうかはともかく、どうせならトップを目指そうと言ってください。すると、子供はなぜ御三家なのか? と疑問に思うかもしれません。そこで、将来のビジョンを子供と話し合うなかで御三家合格のメリット、そして受験することの意味を熱く語ってやるのはどうでしょう。

高校生たちの勉強のモチベーションを上げるため、私がしばしば利用するのがビジネス誌です。そこには、例えば、「出身者の年収が高い大学ランキング」のような記事が掲載され、難関大学の名前がずらりとリスト化されています。お金がすべてじゃないけれど、ないよりあったほうが、人生の自由度が増すし、大切な人を経済的に守ることもできるよ。そうやって客観的なデータで説明すると、彼らは難関大に入ること、また勉強することへのモチベーションが上がるんです。

しかし、高校生は聞いてきます。なぜ、企業は難関大の学生を求めているんでしょうかと。「いい、質問だ」、私はこう伝えます。

「勉強ができるからではない。そして、受験勉強は点取り競争ではない。企業が難関大の学生を採用するのには、ワケがあるんだ。難関大合格者は受験を乗り越えるため、計画を立て、実行し、地道な作業をサボらずに頑張った。合格は、人間としてしっかり成長した証し。企業は、そういう試練をクリアした人を求めているんだ」と。

もし、小学生や中学生が相手でも、私は同じようなことを言うと思います。

■驚異の急成長のために今からできること

小学生の子供が宇宙飛行士に憧れていたとします。本気で目指すのなら、「難関大出身のほうがなれる確率が高い」というデータを示せばいいでしょう。また、テレビのドキュメンタリー番組でビジネスヒーローもの、例えば(少し古いですが)「プロジェクトX」などを見て、「この巨大な橋脚をつくるには最新の技術が必要で、それを請け負う大企業の社員になりたいなら、一流の教授とハイレベルな仲間がいる難関大に入るのが近道だよ」と、道筋を立ててやると理解しやすいでしょう。

それと後から学力が伸びる子にするためには、小学生のうちから「前倒し勉強」を習慣づけるといいと思います。宿題を提出期限ぎりぎりでやるのではなく、余裕をもって終わらせる、いわば先行逃げ切りスタイルです。

大学受験の勉強を真剣に始めるのは多くの場合、高校3年になってから。しかし大学受験の勉強量は膨大です。だから高校1年から真剣に受験勉強を始め、英語は高校2年のうちに完成させるのです。勉強のスタートを早くすることで、後に驚異の急成長を遂げ、ラクラク難関大に合格できるのです。

この論理は、y=2xの指数関数のグラフを描くとわかりやすいです(図を参照)。最初はゆっくり成果が上がっていきますが、後半は、急激にグイーンと伸びる。英語だけでなく、ほかの教科でもこの成長曲線の論理が成立します。つまり、スタートが早いほど、「あと伸び」は果てしなく続くということです。逆にスタートが遅いと学力の伸びは中途半端なままなのです。中学受験のための通塾もその成長曲線の論理で考えていくと、小学生の子供たちも「今、頑張る意味」がきっとよくわかるでしょう。

机に向かってコツコツやることが、難関大合格や憧れの仕事につながり、また、人のためになったり、安定した生活を得られることにつながると思えば、「勉強をやらされる」から「自らやる」姿勢に変化していくでしょう。

東進ハイスクールのCMで私は言っています。「戦って負けるならそれは結構。しかし、逃げて負けたら明日はないからな」。逃げないで戦うこと。やる気のない子供にもぜひ聞かせてやってほしいと思います。

(大塚常好=構成 干川 修=撮影)