今国会での消費税増税法案成立に「政治生命をかける」と明言している野田佳彦首相。先月26日には衆議院本会議で「社会保障と税の一体改革」に関連する法案を扱う特別委員会の設置が議決され、いよいよ連休が明けた今週から審議が本格化する。

 今後増え続ける一方の社会保障費を賄う政策として、消費税の増税しか目に入らない野田首相。この異様なまでの増税へのこだわりは、いつから始まったのだろうか。元経産官僚で慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏によると、つい数年前のことだという。

「野田さんはいつから増税を言いだしたか。彼は当選以来、増税なんて言ったことはなく、むしろ行政改革を強く打ち出していました。それが2009年に財務副大臣になると、突然、増税至上主義者になってしまった」(岸氏)

 2009年8月15日の街頭演説で野田首相は、「シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです」と、当時の政権与党であった自民党の政策を批判する演説をしている。だが、直後の同年9月に民主党が政権を獲得、鳩山内閣が発足すると、野田首相は財務副大臣に就任。そして突如、増税推進派になってしまったのだ。

 その理由について、岸氏はこう続ける。

「それは財務省が当たり前のことをした結果にほかなりません。当たり前のこととは、よく言えば役所の政策を理解していただくこと、悪い言葉で言えば“洗脳”です」

 財務副大臣に就任したら、まずは財務省の仕事、および方針を理解しなければならない。財務にそれほど強くなかった野田首相が、財務省の官僚たちに教えを請うのは当然の流れだろう。

「大臣や副大臣となって役所に入ってきた政治家には、所管事項説明と称し、役所がどういうことをしているのかの説明をします。そういう場で政治家を洗脳するわけです。基本的に政治家は個人商店のようなものなので、ひとりで役所に入って、そこで1週間も役所の局長に取り囲まれて説明を受けると、政治家としてよほど政策に関する知識や強い主張がなければ、その立場になってしまう。野田さんのような増税マシンの出来上がりです」(岸氏)

 とはいえ、個性の強い政治家を、そんな簡単に洗脳することなどできるのだろうか。

「財務省は説明が上手です。ほかの役所よりはるかにうまい。徹底して男芸者になります。政治家の先生は偉そうに話すわけですが、それに対して『先生、ごもっともです』とうまく取り入るのです。また、財務省は根回しのペースも頻繁です。一度で終わるのではなく定期的に行なう。そういう面で訓練されています」(岸氏)

 増税論者になって、実はまだ3年足らずの野田首相。“洗脳”が解けたとき、「政治生命をかける」と言ってしまったことを後悔しなければいいが。

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