- 日本通信のデータ通信可能なSIMカードが変えるガラパゴス市場 -
日本通信はデータ通信可能なSIMカード「通信電池 b-mobileSIM」を4月5日から販売開始すると発表した。世界的な「SIMフリー」の流れを日本でも推進するための製品とのことで、今後の日本でのSIMロック解除の動きに大きな影響を与えそうである。一方。この製品の登場は海外の端末メーカーにとって大きな朗報だろう。海外メーカーの日本市場参入ではSIMロックが大きな障壁となっていた。「メーカー端末で現実的に利用できるSIMカード」いよいよ販売されることで、海外のようなメーカー端末市場が日本でも形成される可能性が高まるからだ。

日本やアメリカでは携帯電話は通信事業者が販売することが一般的であり、特に日本では事業者専用の端末を購入することが当たり前だろう。同じシャープの携帯電話でも通信事業者ごとにモデル名も異なれば細かい機能も異なるのが日本では当然だ。メーカーとしては同じ通信方式を採用する事業者には同じモデルを販売したほうがコストが大幅に下げられるものの、日本では通信事業者ごとにハードウェアに直結したサービスが採用されており、メーカー端末の同じモデルを各社が販売する例はない。

この日本式のビジネス手法に当てはまらない代表例としてソフトバンクのiPhoneがある。iPhoneはAppleが開発し、Appleのブランドとして世界中で販売されている。だが日本ではソフトバンクが販売していることから「iPhone=ソフトバンクから買うもの」と、メーカー端末であっても通信事業者との関係が密接なものとして認識されている。4月に発売されるSony EricssonのSO-01B/Xperia(X10)もNTTドコモから発売されるため、「ドコモがソフトバンクに対抗してフルタッチスマートフォンを投入」という見方をされることだろう。

海外のGSM/W-CDMA圏ではSIMカード文化が根付いており、端末は通信事業者の回線(SIMカード)とは分離されメーカーの製品として販売される。イギリスのVodafoneやドイツのT-MobileがXperiaを発売したからといって「VodafoneのXperia」という表現はされないし、消費者もそのような認識はしない。XperiaはあくまでもメーカーであるSony Ericssonの製品として各通信事業者が販売するだけなのである。
海外の携帯電話販売店パンフレット。メーカー端末と通信事業者(左下)の組み合わせは自在だ

このようにメーカー端末が当たり前の海外では、そのメーカー端末と通信事業者のSIMカードの組み合わせは自由だ。Sony EricssonがSIMロックの無いXperiaを自社で販売すれば、あとはVodafoneなりT-MobileのSIMカードを入れれば当たり前のように利用できる。フランスの通信事業者Orangeが「うちはXperiaを販売しないから、Xperiaの動作保証はしない」といった対応もありえないのだ。ただしスマートフォンなどハイエンド端末は高価であるため、契約縛りをつけて端末を安価に提供するために通信事業者がSIMロックをかけて販売することもある。すなわち海外では端末のSIMロックあり、SIMロックなしは選択できるものなのだ。
通信事業者の派手な「無料端末」の広告は、たいていSIMロックと契約縛り販売品だ

日本でもSIMロック解除の議論が続いているが、そもそも日本の端末は通信事業者専用品である。NTTドコモの端末をSIMロック解除しても、ソフトバンクのUSIMカードを入れて使えるのは音声通話くらいだろう。データ通信契約をしていても、そのデータ通信をすることすらできないのだ。

このように通信事業者が自社専用端末を販売することが常識の日本の携帯電話ビジネス環境下では、海外メーカーが単独で市場に参入することは不可能だった。過去にはNokiaやHTCがSIMロックなしのスマートフォンを販売していたが、日本の通信事業者がこれらのメーカー端末を使う"現実的な環境"を提供することは一切なかった。iモードが使えないのは当然としても、メーカーのスマートフォン向けのパケット定額プランは用意されなかった。これではわざわざメーカー端末を買うメリットは無く、気が付けば日本からはメーカー端末はほぼ消滅してしまったのである。

すなわち海外メーカーが日本市場に参入するためには、日本の通信事業者に自社端末を採用してもらう以外に方法が無いのが現実だ。Googleが今年に入ってから発売したNexus Oneにしても、パケット定額を満足に利用できる通信プランが無ければ日本では売りようもない。また携帯電話事業者の販売店によっては「SIMカードだけの契約はできない」と明言しているところも多い。本来は回線と端末を切り離されるために導入されたSIMカードがその意味を成しておらず、日本ではメーカー端末だけを買っても回線の確保すら難しいのだ。SIMカードだけの契約やプリペイド販売が一般的に行われている環境の海外とは大きく状況が異なっているのである。
SIMカードのみの契約やプリペイド販売も海外では一般的だ

こうした状況を突き破って日本通信のb-mobileSIMが登場したことで、海外メーカーにとって頭の痛かった「メーカー端末で利用できるSIMカード」の問題がようやくクリアされるというわけだ。これで海外メーカーは、自社で日本での製品認証を取得するだけで日本国内で端末を販売できるのだ。もちろん販売先の確保や日本語対応などの問題はあるが、現実的な通信手段を提供できなかったこれまでの環境に比べれば、日本市場参入の敷居は一気に下がっただろう。前述したNexus Oneなど、海外メーカーのスマートフォンは日本語表示対応のものも多く、端末のローカライズもメーカー側に取っては今やそう難しい問題ではない。

もちろん日本の携帯電話は高機能であり、生活に便利なサービスも備わっている。よって今後日本の携帯電話が海外メーカーの端末に大きくシェアを奪われるということは考えにくいが、一方で、iPhoneが証明したように海外の端末でも日本でヒットする可能性のある製品が多数登場している。今まではそんな優れた海外製品が日本に入ってくることは難しかったが、日本通信のSIMカード単体販売の開始により道は大きく開かれたのだ。今年は海外では多数のスマートフォンが登場する予定だが、そのうちのいくつかがメーカー端末として日本に上陸する可能性もあるかもしれない。日本通信のSIMカードには大きな期待が持てるだろう。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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