水揚げされるマイワシ(5月27日、鳥取県境港市の境漁港で)

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 栄養豊富で食卓に欠かせないマイワシが、日本海側で記録的な豊漁になっている一方で、太平洋側では不漁になっている。

 海で何が起きているのだろうか。(鳥取支局 安恒勇気、社会部 松田俊輔)

平年の1・7倍

 全国有数の水揚げ量を誇る境漁港(鳥取県境港市)。境港市では港での水揚げが1000トンを超えると、「祝 大漁」と書かれた大漁旗が市役所に掲揚される。今年の掲揚は5月25日までに計42回。昨年の28回をすでに上回り、最多だった2013年の37回も超えた。

 最大の要因が、マイワシの豊漁だ。鳥取県水産試験場によると、1〜4月の境漁港の水揚げ量は4万4840トンで、平年の1・7倍。5月下旬、記者が境漁港を訪れた際には、関東地方のナンバーを付けたトラックが仕入れに訪れていた。仲買人の島谷憲司さん(70)は「買い付けの注文は全国から入ってくる」と喜んだ。

 マイワシは、国内全体で見ると、漁獲量に占める割合が主要魚種別で最も多く、豊漁・不漁がその年の漁港の水揚げ量を左右する。

 境漁港は1992年から、マイワシを主力に5年連続水揚げ量日本一を誇った。市水産商工課の担当者は「こんなにとれるのはおよそ30年ぶり。港に活気が出ており、このまま何年も続いてほしい」と期待する。

 境漁港以外でも日本海側は豊漁の港が多く、漁獲量は富山県(2〜5月)と、石川県(1〜4月)もそれぞれ、平年の1・7倍となっている。

移動か

 一方で、2025年の都道府県別漁獲量で上位を占めていた千葉や宮城など、太平洋側の地域は、記録的な不漁に苦しんでいる。

 一般社団法人「漁業情報サービスセンター」(東京)によると、1〜4月の水揚げ量は、銚子港(千葉)は1万7033トンで昨年同期(8万8000トン)の19%、石巻港(宮城)は1040トンで昨年同期(1万7400トン)の6%にとどまっている。

 日本近海のマイワシは太平洋側と日本海側のグループに分けられる。いずれも日本近海で産卵し、日本海側のマイワシは韓国や中国の海域でも漁獲できる。

 京都大の坂本達也・特定助教(海洋生態学)は、マイワシの頭部にある「耳石(じせき)」の成分などを調べ、魚の生息環境を推定。太平洋側のマイワシの一部が日本海側に移動しており、その傾向は2023年以降、強まっていることを突き止めた。

 25年まで続いた黒潮の蛇行で魚の回遊ルートが変化したとみており、坂本特定助教は「太平洋から来た個体やその子どもにより、日本海側が豊漁となっているのではないか」と分析する。

90年代初期も似た現象

 日本全体のマイワシの漁獲量が減少へ転じる兆しかもしれないという懸念も出ている。

 国立研究開発法人水産研究・教育機構(横浜市)によると、日本近海のマイワシの資源量は数十年単位で増加、減少を繰り返し、漁獲量にも影響を及ぼす。海水温の寒暖が切り替わる「レジームシフト」の影響を受けているという説が有力だという。

 実際、国内の漁獲量は1980年代半ばには年間400万トンを超えていたが、90年代に急減。2005年には2万7600トンまで落ち込み、「幻の魚」とまで呼ばれた時期もあった。10年代からは回復傾向にあり、25年は70万8000トンとなっている。

 1990年代の減少段階の初期に、太平洋側が先に不漁になり、日本海側は豊漁になったといい、同機構浮魚資源部の由上龍嗣グループ長は「当時と今の状況が似ている。これを機に、再び全国的な減少段階に入る恐れがあり、動向を注視している」と話す。

 マイワシの多くは、食用のほか、魚粉として他の養殖魚のエサとなったり、豚などの家畜用の飼料として利用されたりしている。由上グループ長は「全国的な不漁に見舞われた場合、マイワシの争奪戦が起き、魚や肉の価格上昇を引き起こす可能性もある」と指摘する。