古川琴音(撮影=加古伸弥)

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 ミステリアスな空気をまとうタクシードライバーが、深夜の東京を走りながらワケありな乗客たちの人生にそっと寄り添う。6月1日よりスタートしたNHK夜ドラ『ミッドナイトタクシー』で、主人公・蘭象子(あららぎ・しょうこ)を演じる古川琴音。

参考:『ミッドナイトタクシー』中村蒼、伊藤万理華ら出演 古川琴音が運転席に座るビジュアルも

 乗客の人生の「通過点」として、バックミラー越しに絶妙な距離感で会話を繰り広げる本作は、1話15分という短い枠の中に濃密な人間ドラマが凝縮されている。自身も象子と同じく「30歳」という大きな節目を目前に控える古川。車内という密室空間での特殊な撮影の裏側や、象子というキャラクターのビジュアル誕生秘話から、年齢を重ねていくことへの等身大の思い、そして「演じる役を好きになれるか」という自身の作品選びの芯まで、たっぷりと話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

おかっぱ頭は「子供時代を引きずった見た目に」

ーー映像も物語も素晴らしく「いい1日だったな」と思える作品でした。古川さんのタクシー運転手姿もとてもしっくりきて驚きました。

古川琴音(以下、古川):うれしいです。自分でも「合ってるな」と思いました(笑)。台本を読んだとき、象子はお母さんに捨てられた心の傷を負っていて、寡黙で自立しているように見えても、心の内にはまだ子供の部分があると感じたんです。「子供時代を引きずったような見た目でいたい」と思い、おぼこい感じを出すために、監督に提案してキノコっぽいおかっぱになりました。

ーー運転手としての「無個性」と、確固たる存在感のバランスが絶妙です。象子の子供っぽくも大人びても見える年齢不詳な雰囲気が、物語に深く関わってきますね。

古川:ありがとうございます。象子は29歳という大人でありながら、子供のようなもろさも同居しているキャラクターです。その心の機微をビジュアルの段階から地続きで表現できたのは面白い経験でした。

ーー連続テレビ小説『エール』、特集ドラマ『アイドル』、そして先日まで放送されていた『魯山人のかまど』など、古川さんのキャリアの要所にNHKドラマが存在します。今回、主演を務めるにあたって特別な想いはありますか?

古川:そうですね。安心感があります。NHKのドラマ現場は「この物語を最高の形で成立させたい」という熱量を持った人たちが集まっていて、温かいホームのような信頼感があります。今回も、ゲストの役者さんたちが「これ、いいホンだよね」とおっしゃるのを聞いて、人見知りの私の緊張も一気に解けました。この美しい物語を通して、現場の全員が固く繋がっていたんだなと思います。

ーー同世代である兵藤るりさんの脚本ですが、面白さはどこにあると感じましたか?

古川:キャラクター全員がそれぞれの足でちゃんと立って生きている感覚がするんです。象子だけでなく、乗客みんなが独自のテンポと自意識を持っている。そして「日常のすぐ隣にあるロマンチック」に満ちています。第1話の字数制限のある会話や、飴が溶ける間だけの嘘など、人間への愛おしさに溢れていて、演じていて愛しくてたまらない気持ちになりました。

ーーその会話の濃度を「タクシー」という物理的な制限がさらに高めています。受け身に回るお芝居のバランスはどう意識されましたか?

古川:「いるけれどいない、いないけれど確かにいる」という透明感を持ったバランスにしたかったんです。ただの無機質な聞き役ではなく、お客さんの会話を聞いて「象子の中で今、どんな感情が動いているんだろう」という内面のドラマを、セリフ以外の部分で表現しようと。バックミラー越しの一瞬の視線や間の取り方など、細かいディテールに神経を集中させました。

余裕がなかった20代を経て変化した“軸”

ーー参考にされた作品はありますか? また、普段から運転はされるのでしょうか?

古川:一番最初に観直したのは映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』です。タクシーという閉ざされた空間の夜の空気感や、孤独と自由が同居した気分をインストールするのに良い刺激になりました。運転に関しては免許は持っていたのですが、見事なペーパードライバーだったので(笑)、出演が決まってからマネージャーさんに後部座席に乗ってもらい、「どうバックミラーを見るタイミングがいいんだろう」など、何度も練習を重ねました。

ーー限られた空間での会話劇は、1話15分とは思えないほどの濃密さでした。

古川:移動ができないという物理的な制限があるからこそ、「言葉のやり取り」の濃度が限界まで高まるんです。お互いのセリフの響きを1音も聞き逃さないよう、演者同士がものすごい緊張感と集中力を持ってぶつかり合っていて。まるで濃密なふたり芝居の舞台に立っているかのような、独特の興奮がありました。

ーー象子と同じく、古川さん自身も現在29歳で「30歳」という節目を控えていますね。

古川:ものすごく意識しています。20代の頃は周りの環境が目まぐるしく変化し、それに反応するだけで精一杯でした。どこかで自分の心に余裕がなくて、傷つかないように頑丈な殻で守っていたような気がします。でもここ最近、その殻が少しずつ解けてきて、外の世界ってこんなに面白いんだと素直に受け入れられるようになってきました。今は30代になる未来をすごく楽しみに、明るい気持ちで迎える準備ができています。

ーー役者としての決意も深まったのですね。ご自身の中で、作品選びの基準などはありますか?

古川:迷いがなくなり、「自分が何を表現できる役者になっていくか」を前向きに考えるようになりました。作品を決めるときは、「自分が演じるキャラクターを心から好きになれるか、憧れ続けられるか」を一番大切にしています。たとえ悪役やダメな人間でも、どこか一つでも愛おしいもろさや純粋さがあるか。その憧れの気持ちが、役をもっと深く知りたいというお芝居の一番の原動力になっています。

ーー『ミッドナイトタクシー』も古川さんの代表作になると感じます。本当に「夜に観る」ドラマとしてピッタリの作品です。

古川:この作品は、1話15分という短い時間の中に人間の愛おしさが詰まったドラマです。「1日の終わりに疲れた心でテレビをつけた人にとって、ささやかな癒やしや救いになれば」と願いを込めて撮りました。心にしこりが残ってしまったような夜に、象子が「私もそうだよ」とバックミラー越しにそっと背中をさすってくれるような温かい作品です。安心してこの物語に浸り、象子のカウントダウンを一緒に見届けていただけたらうれしいです。(文=石井達也)