台湾・馬英九元総統の認知症説めぐり、側近と家族の間で広がる「亀裂」―香港誌
台湾ではこのところ、馬英九元総統の「認知症説」がこれまで以上に関心を集めている。興味深いのが、妻や姉といった家族は、認知症の名こそ出さないが、馬元総統の心身の健康を気遣う考えを表明した一方で、馬英九基金などにも関係する古くからの側近が「認知症説」を完全否定していることだ。馬元総統の一部側近には、金銭面などでの不正行為があったとの疑いも出ている。香港誌の亜洲週刊が伝えた。
馬元総統の妻の周美青さんと姉の馬以南さんは最近になり、馬英九基金については、すべてを理事会に委ねて法に基づき処理すべきだと主張し、馬元総統が、政治における闘争という重荷を真に肩からおろし、心安らかに晩年を楽しむことを望むとする異例の見解を表明した。
周美青さんは表明のなかで、馬元総統の将来の医療と介護の必要性を考慮し、馬以南さんが主要な調整と対外的な説明を担当することで、馬の家族はすでに共通認識に達したと説明した。「認知症」という言葉は用いられなかったが、馬元総統の心身の状況に対する家族の憂慮がにじみ出ていた。
事態を複雑にしているのは、馬元総統の側近の中で、「政治闘争」が発生しているとみられることだ。馬英九基金は最近になり、基金の最高幹部層だった蕭旭岑氏と王光慈氏を背任と横領の疑いで提訴した。蕭氏は現職の国民党副主席(副党首)だが、不正行為があれば国民党副主席を辞任すると表明した。しかし、台湾メディアの壹蘋新聞が6月5日に発表した世論調査の結果では、回答者の66.5%が「(国民党には)損害がすでに発生しており、ただちに辞任すべきだ」との考えを示した。
馬英九基金による蕭旭岑氏と王光慈氏の提訴では、馬元総統の側近ではあったがこれまでは「裏方役」を務めてきた金溥聡氏が、急速に表舞台に立つことになった。金溥聡氏らは、提訴は馬元総統の意志に基づくものと強調した。一方で、これまでのところは蕭氏と王氏の提訴について、客観的な証拠は示されていないとされる。
馬英九基金は5月22日に一連の動画を発表して、馬元総統の認知能力と健康状況に対する疑問に反撃した。最も意味深長だったのは、動画を通じて金溥聡氏と基金の戴遐齢執行長が、まるで「影」のように馬元総統に寄り添い続けていたことだった。このため、この2人こそが現在は基金の運営を主導しており、動画発表は、馬元総統を「政治の舞台から真に退出させるつもりはない」と外部に宣言したのと同じと受け止められた。
だとすれば、金溥聡と戴遐齢の両氏は、馬元総統の晩年の役割と主導権について、馬元総統の家族とも正面から対立していることになる。
金溥聡氏は動画の中で馬元総統に対して、「現在では多くの人が、あなたはもう駄目だと思っており、すべての声明は実はすべて金溥聡が書いたものであり、あなたは金溥聡の道具になったとさえ思っている」と述べた。
馬元総統は金の言葉に応じる形で、すべての声明は自分の意志によるものであり、他人に操作されてはいないと述べ、さらに「外部が引き続き根も葉もないことを言い、わざと中傷するなら、私は提訴を辞さない」と述べた。馬元総統は次に、金氏に導かれて、その場で毛筆を振るって揮毫し、「このことが、私がとてもはっきりしていることを証明しています」と述べた。
馬元総統は前後して発表された動画の中で、姉である馬以南氏との関係について、「1カ月に1回会う程度」「そこまで親しくない」と強調した。基金側は同日、馬元総統の直筆による、周美青氏と馬以南氏が彼の同意を経ずに対外的に声を上げたことに馬元総統は「驚愕と遺憾を感じざるを得なかった」とする声明文も発表した。
馬元総統はこれまで「愛妻家」として評価されており、妻や姉の意見を十分に尊重してきた。そのため、馬元総統をよく知る人は、妻や姉を公然と批判したことに強い違和感を覚え、「その行動スタイルは過去とまるで別人のようだ」とさえ述べた。
基金側が発表した動画に出演した馬元総統にはそれ以外の部分、例えば話し方や感情の反応、さらには古くからの側近に対する強烈な態度に至るまで、かつての冷静で克己心の強い印象とは、大きな違いがあった。
精神科医である沈政男氏は、馬元総統が生配信で揮毫する際に、何度も顔を向けて傍らの人に「次は何と書くのか」と尋ねたことなどに注目した。このことは、周囲の人が協力して馬元総統に注意を促す必要があることを示しているという。沈医師は、筆跡が過去より乱雑で、内容は比較的簡略であり、しかも感情が終始基金会の財務の争いに集中していたことにも注目した。
沈医師はさらに、馬元総統が「親痛仇快(味方が悲しみ敵が喜ぶ。敵を利するだけで味方には不利なことをする)」という四文字成語を書く際に、思い出すことができず、周囲に尋ねたことにも注目した。沈医師によると、四字成語は長期記憶に属し、理論上は比較的忘れにくい性質を持つ。
また、馬元総統は署名に添える日付を書く際に、腕時計を見ても日付を書くことができず、そばにいた戴遐齢氏に「今日は5月22日です」と教えてもらった。また、その場にいた弁護士の名も思い出せなかった。沈医師は、その日の日付がすぐに分からないことは、軽度の認知症患者によくみられる症状の一つと指摘した。(翻訳・編集/如月隼人)
