アメリカでは医師が必要だと判断した検査や治療であっても、保険会社が「医学的に必要ではない」と判断して医療費の支払いを拒否することがあります。ProPublicaとThe Capitol Forumは2024年10月23日に公開した共同調査記事で、内部文書や企業データ、元従業員や医師、医療業界専門家、規制当局、保険会社幹部などへの取材をもとに、保険会社から審査を請け負う外部企業が、検査や治療を保険適用の対象にするかどうかをどのように判断しているのかを報じています。

“Not Medically Necessary”: Inside the Company Helping America’s Biggest Health Insurers Deny Coverage for Care - ProPublica

https://www.propublica.org/article/evicore-health-insurance-denials-cigna-unitedhealthcare-aetna-prior-authorizations



"Not Medically Necessary": Inside the Company Helping America’s Biggest Health Insurers Deny Coverage for Care - The Capitol Forum

https://thecapitolforum.com/not-medically-necessary/

共同調査によると、アメリカ保険会社は、MRI検査、がん治療、心臓検査などを保険適用の対象にするかどうかを判断する「事前承認」の審査を外部企業に委託することがあります。事前承認とは、医師が検査や治療を行う前に保険会社側が「その医療行為を保険適用の対象にするかどうか」を判断する仕組みです。保険会社側は「事前承認には不要な治療や過剰請求を防ぐ目的がある」と説明している一方で、医師が必要と判断した治療の保険適用が拒否されることもあるとのこと。

この分野で大きな存在感を示しているのがCigna傘下のEviCoreです。EviCoreはUnitedHealthcare、Aetna、Blue Cross Blue Shieldなどの大手保険会社と関わり、約1億人分、つまり保険加入者のおよそ3人に1人に関する審査を扱っているとのこと。

共同調査では、EviCoreのような企業が保険会社に対して医療費支出の削減を売り込んでいると指摘し、この仕組みを「拒否で稼ぐビジネス」と表現しています。EviCoreは保険会社に対し「EviCoreに1ドルを支払えば医療費などの支出を3ドル減らせる」という3対1の投資対効果を売り込んでいたとのことで、売り込みの場で「医療費の支払い拒否が15%増えた」とアピールするEviCoreの営業担当者もいたそうです。

EviCoreの元従業員によると、EviCoreには保険会社から定額で審査を請け負う契約だけでなく「risk contracts」と呼ばれる契約もあり、これは例えば保険会社がMRI検査に年間1000万ドル(約15億7000万円)を支払っていた場合、EviCoreが支出をそれ以下に抑えれば、削減分をEviCoreが得る、あるいは保険会社と分け合うという仕組みとのこと。

一方で、EviCore側はこうした見方に反論しています。親会社であるCignaの広報担当者はEviCoreを代表して、EviCoreは医学的根拠に基づく基準を用い、患者が必要なケアを受け、不要な医療サービスを避けられるようにしていると説明した上で「事前承認の申請が拒否される最も一般的な理由は、医師が必要な情報を提出していないこと」だと主張しています。



共同調査が重く取り上げているのが、EviCore内部で「the dial」と呼ばれていたAI支援アルゴリズムです。このアルゴリズムは医師の診療所が入力したデータをもとに事前承認の申請を評価し、承認できると判断されれば自動で承認するというもの。逆に、拒否を出す場合は自動で拒否されるのではなく「人間による確認が必要」と判断され、EviCore社内の看護師や医師による審査に回されます。

EviCoreの元従業員5人によると、EviCoreは承認見込みスコアが一定の割合を下回る申請を人間の審査に回すよう、アルゴリズムのしきい値を調整できたとのこと。例えば、承認される可能性が95%未満の申請を人間の審査に回す設定にすれば、75%未満の申請だけを回す設定より審査件数が増えます。共同調査記事は「こうした調整が拒否件数に影響しうる」と指摘しています。

EviCoreの審査をめぐっては、医療団体や元従業員からも批判が出ています。American College of Cardiology、Society for Vascular Surgery、American Society for Radiation Oncology(ASTRO)などの医療団体は「EviCoreのガイドラインには欠陥があり、適切なケアの提供を妨げる可能性がある」とEviCoreや規制当局に伝えていました。

また、2023年の研究では、強い痛みを伴う下肢症状に対する脊椎画像検査についてEviCoreの承認ガイドラインが評価され、5人の評価者のうち2人が「ガイドラインの使用を推奨しない」と判断しました。

さらに、ProPublicaが情報公開請求で入手した2018年のCenters for Medicare and Medicaid Servicesの監査文書では、EviCoreががん関連ガイドラインを最新の状態に保っていなかったことで、30人の患者に対する不適切な拒否に関与したとされています。

元EviCore医師のゲイル・ミラー氏は、上司から1時間に少なくとも15件、つまり4分に1件のペースで判断するよう求められ、専門外の依頼を審査することも多かったと証言しています。