野球には常に危険が伴う

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 ヤクルトのホセ・オスナが4月16日のDeNA戦で川上拓斗審判、同25日の中日戦で石伊雄太捕手を相次いでバットで負傷させ、フォロースルーの危険さがクローズアップされている。この問題は今に始まったものではなく、過去にもフルスイングした際のフォロースルーが大きい打者が捕手を負傷させる事故は何度も起きている。【久保田龍雄/ライター】

【写真】ホセ・オスナ選手のフォロースルーで負傷した川上拓斗球審が母校の生徒に送ったエール

手首が動きません

 捕手を負傷させた外国人打者といえば、ロッテ時代のジョシュ・ホワイトセルを思い出すファンも多いことだろう。ヤクルト時代の2011年5月28日の交流戦、西武戦で、振り切ったバットが捕手・銀仁朗(炭谷銀仁朗)の顎を直撃したのが始まりだった。ロッテに移籍した翌12年は、“バット禍”も一気に増える。

野球には常に危険が伴う

 4月12日のオリックス戦では、7回に空振り後のバットが捕手・伊藤光の右側頭部を直撃。強烈なダメージに伊藤は起き上がることができず、担架で搬送された。さらに翌13日のソフトバンク戦でも、ホワイトセルの空振りしたバットが捕手・細川亨の右肩を直撃し、病院送りにしている。

 細川とは“悪縁”と言いたくなるほど相性が悪かった。同年8月25日の同一カードでも、6回無死一、二塁のチャンスに1ストライクからの2球目を振り切った際、バットが細川の左手首を直撃し、衝撃でミットが抜け落ちた。

 「また(ホワイトセル)?手首が動きません。今回は(ファウルで亀裂が入り)折れたバットだと思いますが」と1シーズンに2度目の不運を嘆いた細川だったが、話はこれだけで終わらなかった。

 同年9月7日にも、6回1死一塁のカウント0−1から空振り後のフォロースルーが細川のマスクを直撃。1シーズン3度目のバット禍となった。

 細川の受難はなおも続く。翌13年5月4日、4回、ホワイトセルが0−2から大場翔太のワンバウンドの球を空振りし、三振に倒れた際に、フォロースルーのバットが細川の右肩を直撃。一度はうまく避けたものの、もう一度“バット返し”が来るところまでは予期できなかったようだ。

 捕手は後逸を防ぐために、危険を承知で前に出て捕球しなければならない。一方、球を最後まで見極めようと打席の最後方で構える打者も多く、アクシデントが起きる確率はどうしても高くなる。

 もとよりホワイトセルも故意にバットをぶつけているわけではないのだが、被害が細川に集中したことから、当時は一部のファンから「ホワイトセルは細川に恨みでもあるのか?」の声も出た。

頑張れ、石原

 ヤクルトでホワイトセルとチームメイトだったウラジミール・バレンティンも、10日間で2人の捕手を病院送りにしたことで知られる。

 まず2016年7月24日の中日戦。5回2死一塁、中日の先発・小笠原慎之介のワンバウンドしたカーブを打ちに行ったバレンティンだったが、空振り後のバットが大きくフォロースルーし、ボールを止めようと膝をついた捕手・杉山翔大の左頭部を直撃した。

 杉山は救急車で愛知県内の病院に搬送され、「左頭部の打撲と切傷」と診断された。捕手出身の谷繁元信監督も「あのプレーは仕方ない。避けられない」と沈痛な表情を見せた。

 それから9日後、8月2日の広島戦。バレンティンは試合開始直後の1回2死一、三塁の先制機で、カウント0-1からジョンソンの低めに落ちる変化球を空振り。直後、フォロースルーのバットが捕手・石原慶幸の頭部を直撃した。

 バットがヘルメットに当たった瞬間、鈍い音がし、その場に倒れ込んだ石原は数分後、スタンドの「頑張れ、石原」コールを受け、救急車で都内の病院に搬送された。「脳しんとうと後頭部打撲」と診断された石原には同年6月から施行された「脳しんとう特例措置」が適用され、10日間の登録抹消期間を経ずして8月9日の阪神戦から実戦復帰。正捕手離脱後、4連敗するなど失速しかけたチームに再び元気を与え、25年ぶりVに大きく貢献した。

審判や捕手を守るためのルール整備を

 同じ日に2つの球場で、いずれも捕手が外国人打者のバット禍に遭うダブル災難が起きたのが、2017年4月4日の楽天対ソフトバンクと西武対オリックスである。

 前者では、楽天・嶋基宏が4回と6回の2度にわたってアルフレド・デスパイネのバットを頭部などに受けた。

 まず4回無死一塁、1ストライクから則本昂大の2球目、変化球を空振りした際にデスパイネのバットが嶋の後頭部をかすめ、マスクが取れるアクシデントが起きた。

 痛みをこらえて出場を続けた嶋だったが、6回1死一、二塁で、則本のワンバウンドのフォークを捕球しようとした際、デスパイネのバットの真ん中付近が後頭部、左肩、首付近に相次いでヒット。ワンバウンドしたボールが股間を直撃する不運も重なり、倒れて動けなくなった嶋は担架に乗せられて退場した。仙台市内の病院で検査を受けた結果、左頸部の打撲、むち打ち症と同じような状態と診断され、翌5日から2試合欠場した。

 一方、後者では、オリックス・若月健矢が3回2死二塁、エルネスト・メヒアのスイング後のバットを頭部に受けた。自力で起き上がり、プレーを続行したが、5回にもメヒアと木村文紀のバットが2打者連続で頭部を直撃したため、6回から大事を取って交代した。

 試合後、立川市内の病院で「頭部打撲」と診断され、嶋同様、2試合を欠場した。

今季は5月10日の中日対巨人でも、中日・木下拓哉のバットが巨人の捕手・大城卓三の頭部を直撃する事故が起き、オスナの一件以来、対策を検討していたNPBも翌11日に行われた実行委員会で、打者がスイング時にバットを手放す行為に対して、一発退場も含む新たな罰則規定を導入することを決めた(12日から適用)。

 野球は常に危険と隣り合わせのスポーツである。今回の新ルール導入が、審判や捕手を“バット禍”から守る大きな一石になることを願うばかりだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部