例え身体が健康であっても、外見に思い悩むようであれば、それは「心身ともに健康」とは言えない

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 近年、医学部卒業後の初期研修を終えた若手医師が、一般医療の専門科を経ずに美容医療や美容外科へ進む「直美(ちょくび)」が急増している。

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 厚生労働省の統計によると、美容外科に従事する医師数は2024年に1,700人を超え、2008年と比較して6倍以上に増加している。特に若年層の割合が伸びており、2022年の時点で20〜30代の医師が占める割合は50%を突破。この10年間で約20%の増加を記録している。

 2025年12月1日の参院本会議では「医師1人を養成するのに1億円ともいわれる公費が投じられる中、未来ある医師がその国家資格を人の命と健康を守る医療の根幹に使おうとしないことは社会的な損失」とされ、厚労相は「多くの医師が特定の診療科を選択するのは好ましくない」との認識を示した。

例え身体が健康であっても、外見に思い悩むようであれば、それは「心身ともに健康」とは言えない

 こうした「直美」の広がりを受け、医師不足の深刻化や医療の質の低下を危惧する声が各方面で日増しに強まっている。

 1988年に京都大学医学部を卒業後、20年にわたり脳神経外科の第一線で活躍したのち、2010年より「SOグレイスクリニック」を開業し美容外科医としておよそ20年活動する近藤惣一郎医師に、自身の経歴に基づいた医療の本質と、美容医療そしてそれに携わる医師のあり方について聞いた。

美容医療は「公費で学べない」

 保険診療を中心とした一般医療の現場をほとんど経験せず、研修後すぐに自由診療である美容医療の道へ進む若手医師たち。こうした現状に対し、世間からは「楽に稼ぎたいだけではないか」「派手な暮らしを求めている」といった冷ややかな視線が向けられている。

 さらに、医者の育成のためには公費が投じられるため、なぜ医師不足が叫ばれる一般医療に貢献しないのか、「税金の無駄遣いでは」など、批判の声は根強い。

 実際、元医大生で人気YouTuberの藤白りり氏が、「保険診療医の働き方は自分には合わない」として、今年4月から美容外科医の道へ進むことを発表した際には、ネット上でも同様の批判が噴出した。

 しかし、近藤院長はこうした「直美」の問題について、決して頭ごなしに否定することはしない。

「医師も1人の人間ですので、職業選択の自由があります。自分が心底やりたい分野が美容医療であるなら、それを選ぶ権利はあると思います。ただ、自由には責任が伴います。直美の医師で1番問題になるのは、知識不足、技術不足の中で、直接患者さんの治療にあたること。いろいろな意味で未熟な医師が診療行為を行えば、当然、事故やトラブルか生じるリスクが高まります」

 そのため、医療の経験を積まないまま美容医療に携わる若い医師の「教育」が重要だと近藤院長は指摘する。

「大学では美容医療を学べません。“病気ではない悩み”を扱う美容医療は、公費外の自由診療です。その教育を、大学医学部で公費を使用して行うのは、現状では難しいためです。ですから、美容医療を志すならば、美容クリニックや美容外科クリニックに就職し、そこで学ぶことになります」

 近藤院長によれば、最近は教育担当医師や指導医師が存在する美容クリニックもあるが、教育システムはそれぞれのクリニックで方法もレベルもまちまちだという。良い指導医に恵まれる場合もあれば、逆にほとんど教育や指導を受けられないまま患者に治療を行わざるを得ない場合もあるのが現状だ。

「教育をそのような偶然に任せるのではなく、美容医療業界全体が、標準化された教育システムを作り出し、どこのクリニックに勤めていても、同レベルの教育を受けられるようにすることがとても重要です。そのためには、大手の美容外科など影響力のあるクリニックの経営者や責任者が、自らのことだけでなく美容医療業界全体を考え、協力し、真剣に努力する必要があると思います」

 直美の医師でも、器用で手術や治療手技が初めからそれなりにうまくできる人、表面上の技術だけなら習得できる人も存在するだろう。だが、医療には技術以上に大切なものがあると近藤院長はいう。

「たとえば、いくつかは存在する“利益至上主義の美容クリニック”にいきなり勤務し、売り上げが評価とモチベーションになってしまうと、医師として見る景色がまったく違ってしまいます。そのような環境の中では、患者さんのための医療が見失われてしまっても当然です。一般診療の経験で得られることは、単なる技術の習得だけはなく、疾病を診断し、正しく治療計画を立て、その中で患者さんやご家族との向き合い方、合併症が起きた際の対処方法など、責任ある医師としてのあり方を、時間をかけて習得して行くことだと思います。そのような経験があってこそ、医師は『医師という職業は、患者さんと社会のためにある』という根本的な”志”をしっかり持つことができるのです。

 私はそれを若い時代、周りにいた初先輩や同輩の脳外科医から学んで、今があります。教育とは、注射や手術といった技術教育だけでなく、医師としてのあり方、志の持ち方、それも含めてのことだと思います。ですから、今現在美容医療に携わる私たち先輩医師が、その手本を日々の診療の中で示し、背中を見せることが大切だと思います。直美の良し悪しは、単純にそれを選択する若手医師だけの問題ではないと私は考えます」

脳外科から美容外科へ異色の転身 そのワケ

 1988年に京都大学を卒業した近藤院長は同大学脳神経外科教室に入局、脳神経外科顕微鏡手術の父と呼ばれる菊池晴彦名誉教授に師事。同門には現iPS細胞研究所長・高橋淳医師をはじめ、医学界を牽引する人材が集まる環境に身を置いてきた。脳外科専門医として、およそ2,000件の執刀経験を重ねる傍ら、脳動脈瘤の病理発生を究明し医学博士号も取得している。

 そんなエリート街道にいた近藤院長がなぜ美容外科医になったのか。

「命を脅かす脳疾病や外傷、日常生活に支障をきたす病を治す『疾病治療」は、医師の必然的使命です。しかし、病気でなくとも、先天性や加齢による容姿の悩みを抱える方は非常に多くいらっしゃいます。医療の力を疾病治療のみに留めず、抗加齢・美容分野へ拡げ活かすことで、我々医師はより多くの人々の役に立てるはず。病気、病気でない、保険診療、自由診療、そんな枠組みを超えたグローバルな”患者のための医療”を真剣に行いたいと考えたのです」

 美容医療でコンプレックスを解決した人々が自信を取り戻し、笑顔で社会に参加することは、個人の人生を変えるだけでなく日本社会を支える力にもつながる。さらに容姿の改善は健康へのモチベーションとなり、健全な生活習慣を実践する予防医学的効果ももたらし得る。

「WHOによる健康の定義とは、病気ではない状態でなく”肉体的、精神的、社会的に満たされた状態”とあります。この観点からも美容医療は人々の健康に貢献すると考えます」

決別したはずの脳外科キャリアが武器に

 そんな考えのもと、近藤院長は脳神経外科のキャリアと決別。44歳で京都から単身上京を決めたとき、まずは大手美容外科クリニックの門を叩いた。

「20年間、脳外科医としてそれなりのレベルでやれたのだから、60歳までの20年、努力すれば、美容の分野でもトップレベルになれるはず。人生をかけた決断でした」

 脳外科医としては一流だが「44歳の研修医」として、美容分野をゼロから学ぶ覚悟で挑んだ。同じ医療とはいえ、来院する患者の悩みは脳外科とまったく異なる。自由診療ゆえの商業的側面に戸惑うこともあったそうだ。

「しかし数週の研修期間で、美容外科に来院される患者さんの顔面・頭頸部の悩みを解決する際には、かつて疾患や外傷で治療してきたものと同じだと気づきました。脳外科医として培った解剖学的知識と診断・治療技術が活かせると気づきました」

 形成外科専門医や皮膚科専門医としての経験がなくても、脳外科医として責任をもって患者と向き合える――「美容外科医」として活躍できると確信したという。

最後に、直美を考える若い医師にメッセージ

 直美を考える若手には、こんなメッセージを送る。

「ひとり独りが主人公の人生です。自分が選ぶ道を進んだら良いと思います。医師という職業は、患者そして社会のためにある職業です。人を幸せに笑顔にできなければなりません。自信を持って美容医療に携わる医師として必要な教育を受け、医療技術だけでなく、医師としての責任感を習得できるといいですね。

 ただ、やはり一般医療の医師として働けないよりは、働けた方が良いことは確かです。それは患者さんや社会にとってはもちろんですが、皆さんご自身のためにも。私が脳外科という“故郷”を持っているように……」

SOグレイスクリニック
近藤 惣一郎院長 医学博士 美容外科専門医(JSAS) 医療法人SO 理事長
脳外科専門医として、京都大学脳神経外科などで20年にわたり研鑽を積み、44歳で美容外科へ転身。「2007年切らない目の下のクマ・たるみ取り」を命名、確立した先駆者で、圧倒的な症例数を誇る。また脳外科医の技術を活かした顔に傷を作らないリフトアップ術「クイックチタンペックリフト®」を開発し20年で3,000人の患者に施術。2010年東京と大阪に「SOグレイスクリニック」を開設、今年16周年。「ロンリー侍ドクター」としてメディアでも活躍中。

デイリー新潮編集部