“テレビに映り込む”ために家も仕事も捨て…ホームレス生活の58歳に渋谷凪咲が感じた「人それぞれの幸せ」
●映り込みに人生を懸ける「エキストラの帝王」
元NMB48の渋谷凪咲が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)のナレーションに初挑戦した。担当したのは、3日に放送される「あしたもテレビの片隅で〜映り込みに捧げる奇妙な人生〜」。テレビ画面に“映り込む”ことに人生を懸ける男性の姿を追った作品だ。
収録を終え、主人公・増井孝充さん(58)の生き方に驚きながらも、「もしかしたらアイドルに向いてるかもしれない」とユーモアを交えて語った渋谷。そこには、“元アイドルならでは”の視点で見つめた、人の欲求や幸せのかたちへの気づきがあった――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した渋谷凪咲
○強いこだわりで周囲との摩擦も…
「ほんの一瞬でもいいから…カメラに映りたい」心に芽生えた欲求のために、家も仕事も捨てて人生のすべてを懸ける増井さん。彼が追い続けているのは、テレビや映画の画面に“映り込む”こと。自らを「エキストラの帝王」と名乗り、スポーツ中継や生放送の観覧席、映画やドラマのエキストラ出演など、カメラのある場所を求めて全国を渡り歩く。
ただの目立ちたがり屋ではない。カメラの位置や人の流れを読み、映る瞬間を予測しながら、何時間も前からその一瞬を待ち続ける。目指すのは、たった1カット。数秒でも画面の中に存在することが、自分がこの世界で生きている証になると信じてきた。
45歳で会社を辞めて以降は実家を離れ、日雇いの仕事で食いつなぎながらのホームレス生活を送る。すべては“映り込む”ためだが、その強いこだわりは時に周囲との摩擦も生み、現場で出入り禁止になることも。それでも「映りたい」という思いは尽きない。
13年ぶりに帰った実家で見つけた一着のダウンジャケット。そこには、彼の“映り込み人生”の原点があった。なぜそこまでして、画面の片隅に自分の居場所を求め続けるのか。映り込みに全力を捧げる男の奇妙な人生を見つめていく。
○「いつか一緒に映り込める日が来るのかな」
増井さんの強烈な生き方を前に、「人生、人それぞれの幸せっていろいろあるんだなって思いました」と率直に語りながらも、「おちゃめでキュートな方」と笑顔で表現した渋谷。「“好き嫌いがはっきり分かれる”方と自分でもおっしゃっていましたけど、だからこそ惹きつけられる魅力があるなと思って。私はその“好きな方”になりましたね」
渋谷が今回のナレーションを引き受けながら、増井さんの姿に妙な共感を覚えたのも無理はない。
「自分はテレビに出させていただけるようになって、好きなお仕事をさせていただいている。増井さんはテレビに映り込むということに一生懸命で、私はテレビの中で何をするかということが自分の中で大事なことで」と、同じテレビという舞台でも目指すものが異なることを受け止めながら、「画面の中は1つなので、いつか増井さんと一緒に映り込める日が来るのかな、なんていうのを、ちょっと楽しみにしたりしてますね」と笑った。
番組の中で増井さんが追い求めるように、「自分がここにいる」と実感できる瞬間は、渋谷にとっていつなのか。
「やっぱり求められた時ですかね。“渋谷凪咲さんでお願いします”とオファーを頂ける時は、すごくうれしいですし、呼んでいただいた気持ちをしっかり汲み取って、それ以上のことでお返しできたらというのが、自分の生きがいになっている気がします」
●「自分はそっちじゃない」得意分野に振り切っての今

WBCのパブリックビューイングに参加する増井孝充さん (C)フジテレビ
増井さんの話から、かつてのアイドル時代を自然と振り返った渋谷。グループで音楽番組に出れば、16人のうち自分が映るのは「本当に2〜3秒」。一瞬のウィンクや決め顔で勝負するメンバーたちがいる中で、「私はそれが結構苦手なタイプで…」と苦笑いする。
その代わりにたどり着いたのが、バラエティという「長い尺で自分らしさを伝えられる場所」での戦い方だった。
「それこそ、“センター”になるには“100年に1度の美少女”みたいなビジュアルが必要なんですけど、自分はそっちじゃないなってだんだん気づいて。人と話すことで笑っていただけることが自分も好きだったし、お笑いも元々好きだから、“人となり”とか個性を出していけば、いつかトップに行けるんじゃないかなと考えるようになりました。得意なことに集中して、楽しいことを探し続けた結果が今の自分につながったのかなと思います」
そして、元アイドルならではの視点でこう続けた。
「そう考えると、今回の増井さんって、もしかしたらアイドルに向いてるかもしれないですよね。マインドは(笑)」
番組の中では、カメラの裏側でも「助監督」さながらに動き回る増井さんの姿が。それを受けて渋谷が明かしたのは、かつて先輩に贈られた言葉だ。
「“まず、周りの人をファンにできない人が、テレビの前の人をファンにできないよ”と言っていただいたんです。だからスタッフさんやご一緒する皆さんに、“この子また呼びたいな”って思ってもらえる人でいようと。それが派生してやっと外に届くのかなと自分でも思ったので、そういうことは大切にしてきました」
○ツッコミ加減の難しさも…初めての『ザ・ノンフィクション』語り
『ザ・ノンフィクション』の語りは初挑戦となった渋谷。ナレーションの仕事を多く経験してきたぶん、その違いに最初は戸惑いもあったという。
「普段のナレーションは自分が思ってるより2〜3個テンションを上げて、声も明るめで、言葉をつぶだててしゃべるみたいな感覚なんですね。でもドキュメンタリーの"語り"はすごくゆっくりで、本当に人の耳や心にスッと入っていくような速度とテンションじゃないといけない。ツッコミを入れる場面でも“なんでやねん!”みたいな感じではなくて、その加減がすごく難しかったです」
その上で、「番組を見ている人の代弁である言葉を届けたいけど、温かくもいたい。すごく難しいけど、やっていてすごく楽しくて、やりがいがあって、学びになりました」と、充実の表情を見せた。
今回のオファーを最初に目にした時は「スケジュールに『ザ・ノンフィクション』と入ってるのを見て、一瞬“え!? 私が密着されるのかな?”って勘違いしちゃって、ちょっとドキッとしたんです(笑)」と明かし、笑いを誘った。それだけに、「名だたる方々が担当されてきた語りに自分が呼んでいただけたことがすごくうれしかったですし、頑張らなきゃと思いました」と、晴れやかな気持ちものぞかせた。
●「あなたの心の片隅に増井さんを」

公園でホームレス生活を送る増井さん (C)フジテレビ
最後に番組の見どころを改めて尋ねると、「“今、幸せですか”って聞かれたら、結構即答するのは難しいじゃないですか。いろんなものを手にして幸せなはずなのに、何かぽっかり心の中に穴が開いてる、みたいな感覚が私自身にもあったりして…。でも増井さんは“幸せです!”って、すぐにおっしゃっていたのが印象に残りました」という渋谷。
住む家もなく、映り込めるかどうかも分からないギャンブルのような毎日を送りながら、それでも「幸せ」と言い切る増井さんの姿から、こう感じ取ったそうだ。
「やっぱり人は“やりたいことをしている”というところに幸せを感じるのかなと思いました。私も今は自分がやりたいことをお仕事にできているから、もっとそれを追求して全力で生きてみようと思えたんです。たとえ多少のものがなくなったとて、人は幸せに生きられる。希望さえあれば、これだけ強くパワフルに生きられるんだと、増井さんの姿を見て、改めて思わされました」
取材の終わり、渋谷はこんな言葉も添えてくれた。
「キラキラした人から“頑張りましょう!”、“希望を持って!”と言われても、心にすんなり入ってこない時ってありますよね。キラキラした言葉が時に暴力的な言葉に感じられることもある中で、増井さんはそっちじゃない方面で、優しく生きる大切さを伝えてくださる。今、希望とか何かを失くされている方にちょっとでも寄り添えるような、“あなたの心の片隅に増井さんを”と言えるような放送になっているんじゃないかなと思います」
●渋谷凪咲1996年8月25日生まれ、大阪府出身。2012年、大阪・難波を拠点に活動するアイドルグループ・NMB48の4期生として加入。14年発売のシングル「高嶺の林檎」で初選抜入りを果たし、以降はグループの中心メンバーとして活動。グループ在籍中から独特の発想力と柔らかなトークでバラエティの頭角を現す。23年12月にNMB48を卒業。卒業後は24年7月に『あのコはだぁれ?』で映画初主演を務め、以降も連続ドラマに2クールで3本レギュラー出演するなど、バラエティ番組のみならず、様々なメディアへ活躍の場を広げている。25年、第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら
元NMB48の渋谷凪咲が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)のナレーションに初挑戦した。担当したのは、3日に放送される「あしたもテレビの片隅で〜映り込みに捧げる奇妙な人生〜」。テレビ画面に“映り込む”ことに人生を懸ける男性の姿を追った作品だ。
収録を終え、主人公・増井孝充さん(58)の生き方に驚きながらも、「もしかしたらアイドルに向いてるかもしれない」とユーモアを交えて語った渋谷。そこには、“元アイドルならでは”の視点で見つめた、人の欲求や幸せのかたちへの気づきがあった――。

○強いこだわりで周囲との摩擦も…
「ほんの一瞬でもいいから…カメラに映りたい」心に芽生えた欲求のために、家も仕事も捨てて人生のすべてを懸ける増井さん。彼が追い続けているのは、テレビや映画の画面に“映り込む”こと。自らを「エキストラの帝王」と名乗り、スポーツ中継や生放送の観覧席、映画やドラマのエキストラ出演など、カメラのある場所を求めて全国を渡り歩く。
ただの目立ちたがり屋ではない。カメラの位置や人の流れを読み、映る瞬間を予測しながら、何時間も前からその一瞬を待ち続ける。目指すのは、たった1カット。数秒でも画面の中に存在することが、自分がこの世界で生きている証になると信じてきた。
45歳で会社を辞めて以降は実家を離れ、日雇いの仕事で食いつなぎながらのホームレス生活を送る。すべては“映り込む”ためだが、その強いこだわりは時に周囲との摩擦も生み、現場で出入り禁止になることも。それでも「映りたい」という思いは尽きない。
13年ぶりに帰った実家で見つけた一着のダウンジャケット。そこには、彼の“映り込み人生”の原点があった。なぜそこまでして、画面の片隅に自分の居場所を求め続けるのか。映り込みに全力を捧げる男の奇妙な人生を見つめていく。
○「いつか一緒に映り込める日が来るのかな」
増井さんの強烈な生き方を前に、「人生、人それぞれの幸せっていろいろあるんだなって思いました」と率直に語りながらも、「おちゃめでキュートな方」と笑顔で表現した渋谷。「“好き嫌いがはっきり分かれる”方と自分でもおっしゃっていましたけど、だからこそ惹きつけられる魅力があるなと思って。私はその“好きな方”になりましたね」
渋谷が今回のナレーションを引き受けながら、増井さんの姿に妙な共感を覚えたのも無理はない。
「自分はテレビに出させていただけるようになって、好きなお仕事をさせていただいている。増井さんはテレビに映り込むということに一生懸命で、私はテレビの中で何をするかということが自分の中で大事なことで」と、同じテレビという舞台でも目指すものが異なることを受け止めながら、「画面の中は1つなので、いつか増井さんと一緒に映り込める日が来るのかな、なんていうのを、ちょっと楽しみにしたりしてますね」と笑った。
番組の中で増井さんが追い求めるように、「自分がここにいる」と実感できる瞬間は、渋谷にとっていつなのか。
「やっぱり求められた時ですかね。“渋谷凪咲さんでお願いします”とオファーを頂ける時は、すごくうれしいですし、呼んでいただいた気持ちをしっかり汲み取って、それ以上のことでお返しできたらというのが、自分の生きがいになっている気がします」
●「自分はそっちじゃない」得意分野に振り切っての今

増井さんの話から、かつてのアイドル時代を自然と振り返った渋谷。グループで音楽番組に出れば、16人のうち自分が映るのは「本当に2〜3秒」。一瞬のウィンクや決め顔で勝負するメンバーたちがいる中で、「私はそれが結構苦手なタイプで…」と苦笑いする。
その代わりにたどり着いたのが、バラエティという「長い尺で自分らしさを伝えられる場所」での戦い方だった。
「それこそ、“センター”になるには“100年に1度の美少女”みたいなビジュアルが必要なんですけど、自分はそっちじゃないなってだんだん気づいて。人と話すことで笑っていただけることが自分も好きだったし、お笑いも元々好きだから、“人となり”とか個性を出していけば、いつかトップに行けるんじゃないかなと考えるようになりました。得意なことに集中して、楽しいことを探し続けた結果が今の自分につながったのかなと思います」
そして、元アイドルならではの視点でこう続けた。
「そう考えると、今回の増井さんって、もしかしたらアイドルに向いてるかもしれないですよね。マインドは(笑)」
番組の中では、カメラの裏側でも「助監督」さながらに動き回る増井さんの姿が。それを受けて渋谷が明かしたのは、かつて先輩に贈られた言葉だ。
「“まず、周りの人をファンにできない人が、テレビの前の人をファンにできないよ”と言っていただいたんです。だからスタッフさんやご一緒する皆さんに、“この子また呼びたいな”って思ってもらえる人でいようと。それが派生してやっと外に届くのかなと自分でも思ったので、そういうことは大切にしてきました」
○ツッコミ加減の難しさも…初めての『ザ・ノンフィクション』語り
『ザ・ノンフィクション』の語りは初挑戦となった渋谷。ナレーションの仕事を多く経験してきたぶん、その違いに最初は戸惑いもあったという。
「普段のナレーションは自分が思ってるより2〜3個テンションを上げて、声も明るめで、言葉をつぶだててしゃべるみたいな感覚なんですね。でもドキュメンタリーの"語り"はすごくゆっくりで、本当に人の耳や心にスッと入っていくような速度とテンションじゃないといけない。ツッコミを入れる場面でも“なんでやねん!”みたいな感じではなくて、その加減がすごく難しかったです」
その上で、「番組を見ている人の代弁である言葉を届けたいけど、温かくもいたい。すごく難しいけど、やっていてすごく楽しくて、やりがいがあって、学びになりました」と、充実の表情を見せた。
今回のオファーを最初に目にした時は「スケジュールに『ザ・ノンフィクション』と入ってるのを見て、一瞬“え!? 私が密着されるのかな?”って勘違いしちゃって、ちょっとドキッとしたんです(笑)」と明かし、笑いを誘った。それだけに、「名だたる方々が担当されてきた語りに自分が呼んでいただけたことがすごくうれしかったですし、頑張らなきゃと思いました」と、晴れやかな気持ちものぞかせた。
●「あなたの心の片隅に増井さんを」

最後に番組の見どころを改めて尋ねると、「“今、幸せですか”って聞かれたら、結構即答するのは難しいじゃないですか。いろんなものを手にして幸せなはずなのに、何かぽっかり心の中に穴が開いてる、みたいな感覚が私自身にもあったりして…。でも増井さんは“幸せです!”って、すぐにおっしゃっていたのが印象に残りました」という渋谷。
住む家もなく、映り込めるかどうかも分からないギャンブルのような毎日を送りながら、それでも「幸せ」と言い切る増井さんの姿から、こう感じ取ったそうだ。
「やっぱり人は“やりたいことをしている”というところに幸せを感じるのかなと思いました。私も今は自分がやりたいことをお仕事にできているから、もっとそれを追求して全力で生きてみようと思えたんです。たとえ多少のものがなくなったとて、人は幸せに生きられる。希望さえあれば、これだけ強くパワフルに生きられるんだと、増井さんの姿を見て、改めて思わされました」
取材の終わり、渋谷はこんな言葉も添えてくれた。
「キラキラした人から“頑張りましょう!”、“希望を持って!”と言われても、心にすんなり入ってこない時ってありますよね。キラキラした言葉が時に暴力的な言葉に感じられることもある中で、増井さんはそっちじゃない方面で、優しく生きる大切さを伝えてくださる。今、希望とか何かを失くされている方にちょっとでも寄り添えるような、“あなたの心の片隅に増井さんを”と言えるような放送になっているんじゃないかなと思います」
●渋谷凪咲1996年8月25日生まれ、大阪府出身。2012年、大阪・難波を拠点に活動するアイドルグループ・NMB48の4期生として加入。14年発売のシングル「高嶺の林檎」で初選抜入りを果たし、以降はグループの中心メンバーとして活動。グループ在籍中から独特の発想力と柔らかなトークでバラエティの頭角を現す。23年12月にNMB48を卒業。卒業後は24年7月に『あのコはだぁれ?』で映画初主演を務め、以降も連続ドラマに2クールで3本レギュラー出演するなど、バラエティ番組のみならず、様々なメディアへ活躍の場を広げている。25年、第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

