【西脇 章太】ユニクロが逆立ちしても真似できない…中国EC「SHEIN・Temu」が欧州の小包シェアを40%に急増させた《ヤバすぎる戦略》
日本のアパレル界に絶対王者として君臨するユニクロ。その背後に、今、不気味な影が迫っている。中国発のECプラットフォーム、SHEIN(シーイン)とTemu(テム)だ。
日本のメディアでは、彼らのビジネスを「格安ゆえの危うさ」や「持続可能性への懸念」といった文脈で語ることが少なくない。
だが、その実態は単純な安売りサイトではない。そこには、最先端のデジタル技術と、極めて泥臭い「アナログな移民ネットワーク」を融合させた合理的戦略が隠されていると、世界40カ国以上でビジネスを展開し、各国のルールの“間隙”を知り尽くす海外企業のM&Aアドバイザー、企業コンサルティングを行う佐野 Mykey 義仁氏(以下、マイキー佐野氏)は言う。
彼が目撃した、SHEINとTemuが仕掛ける、通称“アリの引っ越し”戦略の正体とは。
規制を受けても伸びる、中国ECの実情
世界市場において今、巨大な地殻変動が起きている。
発端は、米国による規制の強化だ。トランプ政権下で議論が加速した「デミニミス免税(800ドル以下の小包に対する関税免除)」の撤廃・縮小の動きは、中国からの直接配送を武器にする彼らにとって、本来は致命傷になるはずだった。
しかし、彼らの生存本能は日本のビジネスパーソンの想像を遥かに超える。米国という巨大市場に固執するのではなく、瞬時に「欧州」へと主戦場を切り替えたのだ。
「中国の関税データを見れば、その動きは残酷なほど明快です。米国向けの輸出は明らかに減少していますが、代わって欧州向けが爆発的に伸びている。2024年の数字では、中国から欧州向けの小包は、わずか2%だったものが40%という異常なボリュームまで膨れ上がっています」(マイキー佐野氏、以下「」も)
マイキー佐野氏は、この素早い「ピボット(方向転換)」に彼らの強さの本質があると言う。EU側も規制導入を検討しているが、現状では彼らの「物量作戦」を止める決定打にはなっていない。
こうした市場浸透を支えているのは、価格の安さだけではない。マイキー佐野氏は「彼らが本当に強いのは、デジタルをアナログに落とし込む力です」と話す。
「IT企業はデジタルだけに依存すると、どこかで成長の限界にぶつかります。実は今、Googleは『Pixel』を、Metaは『Meta Quest』を自社で作り、Netflixですらリアルな遊園地を作ると言い始めています。デジタルとアナログの融合こそが最強の戦略であることを、世界の巨人は熟知している。SHEINやTemuも、その系譜にあります」
実際にSHEINはパリでリアルなブティックを展開し、TikTok Shopはカリフォルニアでライブコマースを体験できる物理的な店舗を広げている。
つまり、オンライン上のデータだけでは埋められない“最後の信頼”を、彼らは物理的な空間を使って押さえにかかっているのだ。
物流を支える「アリの引っ越し」戦略
そして、この「アナログ」の力が最も表れているのが、物流の仕組みだ。マイキー佐野氏はこれを「アリの引っ越し(Ants Moving Home)」と表現する。
「大きなコンテナで一度に大量の商品を運ぶのではなく、たくさんの個人が、少しずつ荷物を運び続ける。ひとつひとつは小さな動きでも、それが積み重なることで、結果的にものすごい量の商品を動かせるのです。その土台になっているのが、現地に根付いた中華系移民のネットワークです」
欧州各地には、中華系の移民コミュニティが広がっている。彼らが空港近くに倉庫を借りたり、副業として配送や在庫管理を担ったりすることで、巨大な物流会社とは別の、細かく分散した物流網ができあがっている。
マイキー佐野氏は、この仕組みこそがSHEINやTemuの強さの一つだと見る。
「荷物を細かく分けて動かすことで、一度に大きなリスクを抱えずに済む。税関対応や関税の負担も、戦略的にコントロールしやすくなります。これは、一つの企業がすべてを中央で管理する物流システムでは、なかなか真似できません。現地の事情をよく知る人たちが、アリのように小さく、しかし組織的に動くことで、市場のすき間を少しずつ埋めていくのです」
新しいようで古い「仲介ビジネス」の強さ
ただし、この仕組みはまったく新しいものではない。マイキー佐野氏は、むしろ昔からある商売の原理を、現代のデジタル技術で大きく広げている点に注目する。
「ポイントは、自国の商品をよく知っている人たちが、移住先の物流や販売ルートも押さえていることです。中国の商品を誰よりも理解していて、なおかつ現地の配送ルートや商習慣にも詳しい。この両方を持っていることが、大きな強みになります」
学術的には、こうした動きは「トランスナショナル・アントレプレナーシップ」、つまり国境を越えてビジネスを展開する起業家精神として説明されることがある。また、移民が出身国と移住先の両方に深く入り込む状態は「Dual Embeddedness(二重の埋め込み)」とも呼ばれる。
これについてマイキー佐野氏は、「要するに『中国側の商品供給』と『現地側の販売・配送』の両方を握っている、ということです」と話す。
そのうえでマイキー佐野氏が挙げるのが、「ミドルマン・マイノリティ」という考え方だ。これは、ある特定の移民コミュニティが、生産者と消費者の間に入り、仲介役として大きな経済的成功を収める現象を指す。
「100年前からあるアナログな商売のやり方を、現代のデジタル技術で一気に拡大しているのが、今の中国企業です。彼らは単に安く売っているのではありません。国境を越えることで生まれる情報の差や、制度の違いを、とても巧みに使っているのです」
日本代表格のユニクロが、簡単には真似できない理由
では、日本を代表するユニクロは、なぜ同じような戦い方ができないのか。マイキー佐野氏は、日本企業の強みでもあり、同時に限界にもなる部分を指摘する。
「日本企業は、ブランドの信用やコンプライアンスを非常に大事にします。特に上場企業であれば、世間からどう見られるか、ルールに照らして問題がないかを慎重に考える。これはもちろん大切なことですが、その分、ルールの境界線を攻めるような戦略は取りにくい」
SHEINやTemuのような中国系EC企業は、ルールを破るというより、各国の制度や商習慣を徹底的に研究し、その中でとりわけ有利な動き方を探っている。
日本企業は、世界中に分散した移民ネットワークを使って、細かく商品を動かすような仕組みを作るのが得意ではない。日本から海外に出て、現地で商売や物流の一部を担う人の数も、中国系コミュニティほど多くはない。
「ユニクロは、世界中に洗練された店舗を構え、クリーンで信頼されるブランドを築いてきました。だからこそ、移民ネットワークを使って小口配送を広げていくような戦略は取りにくい。SHEINやTemuとは、そもそも戦っている土俵が違うのです」
私たちがSHEINやTemuを「安すぎて怪しい」と見ている間にも、彼らは各国の制度や物流のすき間を見つけ、少しずつ市場に入り込んでいる。
とはいえ、ユニクロにはユニクロの強さがある。クリーンなブランド、世界中の店舗網、品質への信頼、そして長年かけて築いてきた収益力だ。
こうした異質なライバルが台頭するなかで、日本最強のアパレル企業であるユニクロは、どのようにしてその地位を守っていくのか。
後編記事『競合が「円安」に苦しむ中、なぜ「ユニクロ」だけが独走するのか?地政学リスクすら“追い風”にする《圧巻の生存戦略》』では、迎え撃つユニクロの「本当の強さ」と、投資対象として見たときの生存戦略を掘り下げていく。
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