鳩山由紀夫氏

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 2026年2月に始まったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃。開戦当初は「数日で終える」と発言したドナルド・トランプ米大統領の思惑とは裏腹に、いまも着地点が見えない。これまで「友愛」を掲げ、対話による紛争解決と安定を重視する平和外交に尽力してきた鳩山由紀夫元首相は、現在の世界情勢と日本の外交姿勢をどう見ているのだろうか──。

【写真】高市首相はトランプ大統領と親密さをアピール

 トランプ大統領とアメリカ、高市早苗首相と日本について作家で日本ペンクラブ広報委員の日野百草氏が聞いた。【全3回の第1回】

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とても一国の元首、大統領とは思えない言葉ばかり

──トランプ大統領の印象を率直にお聞かせください。

鳩山:かつてはトランプ大統領を評価する部分もありました。大統領になったらウクライナ戦争をすぐ止めさせると言っていらっしゃいましたからね。アメリカは第二次世界大戦以降、多くの戦争、紛争に関わってきました。そういうアメリカを変えてくれるという期待感を持っていた期間がありました。

──それが変化したと?

鳩山:2期目になって、とくに最近は、ベネズエラのマドゥロ大統領拘束やイランに対する侵攻、侵略などを行っている。そういった状況を見て、私の評価は大きく変わりました。トランプ大統領は戦争を継続させている。止めると言っていた戦争を止めることができていない。国際法でなく自分自身が法だ、道徳だという考え方をしているようですから、いまは世界的な、国際的な観点で彼を評価することはできません。

―― とくに気になる点を挙げてください。

鳩山:とくに言葉づかいでしょうか。正直、とても一国の元首、米国大統領とは思えない、人としてどうかという言葉のパレードですよね。わかりやすい言葉といえば、そうなのでしょうけど。

バイデン前大統領にも責任はある

──それでも、アメリカ国民の一定数がトランプ政権を支持しているのは確かです。

鳩山:確かにそうです。しかしそれによって第二次大戦後のアメリカ史において民主党と共和党の分断はいまが一番厳しく開いてしまっています。とくにトランプ大統領は、1期目(2017年1月就任)ではオバマ大統領(在任:2009〜2017年)のやったことをすべてひっくり返し、2期目(2025年1月就任)はバイデン大統領(在任:2021〜2025年)のすべてをひっくり返し、分断を深めている。

──バイデン政権のほうがよかったということですか?

鳩山:私はバイデン前大統領がすべて立派だったとは決して思っていません。ウクライナ戦争が始まったとき、確かにロシアがウクライナに侵攻したのだけれど、むしろ背後にアメリカがいたことが影響して開戦につながったことは間違いないと考えています。

──近年のアメリカにはかつてほどの余裕がなくなったとする向きもあります。

鳩山:かつて世界は西と東、ロシア(ソビエト連邦)と中国に対して、(自分たちは)西側だといった冷戦下の分け方がありました。いまはもっと複雑で深刻な分かれ方です。2022年のウクライナ侵攻で、対ロシア制裁に同調しない国が多かったグローバルサウス(南半球に多い新興国)の存在感が増したことが、その代表的な例だと言えます。

──西側の勝者であるはずのアメリカの混迷が背景にあると?

鳩山:1989年に冷戦が終結して以後、それまで世界は欧米など先進国が中心でしたが、いまや中国にグローバルサウスの多くがついていますから、どちらが優勢かと言えない状況です。GDPだって先進国より新興国が優位になることも。そういった新しい対立の発生は、バイデン前大統領にも責任があると思います。それをさらに悪化させてしまっているのがトランプ大統領であると考えます。

──それが国際秩序に反した行動につながっていると。

鳩山:イラン侵攻に限らずベネズエラ攻撃と大統領拘束、グリーンランド領有構想などトランプ政権による外交は新たな覇権主義、さらには帝国主義だと言ってもいいかもしれません。グリーンランドを欲しいという発言など、全部自分のものにしたいという意味に受け取れます。第一次世界大戦、第二次世界大戦を引き起こした当時の植民地主義とは違う、「いまどきの帝国主義」ということでしょうか。

──ある意味、パクス・アメリカーナの夢よもう一度、でしょうか。

鳩山:現状、アメリカ自身の力がかつてに比べれば衰えているだけに、中国だけでなくグローバルサウス、またロシアの力を考えますと、アメリカのポジションも安定しているとは言えず、覇権を握りたいと思えば思うほど反発され他の力も強まる。それだけに、よりトランプ大統領は自分の力を誇示したいと動いているように思います。

高市首相の姿を恥ずかしく思った

──トランプ大統領は高市首相との首脳会談から手のひらを返すような言動も目立ちます。高市首相の訪米は失敗だったのでしょうか。

鳩山:3月に高市早苗首相が訪米して実現したトランプ大統領との会談は、もっと日本の首相としての矜持を見せてもらいたかった。車から降りてすぐにトランプ大統領に抱きついていった姿は、見るに堪えませんでした。ここまで日本がアメリカに頼らなければ生きていけない国になってしまった、それを世界に見られた、世界中に知られてしまった。

──トランプ大統領に厳しい姿勢をとるイタリアのメローニ首相やスペインのサンチェス首相とは対照的でした。

鳩山:あの会談は、2月28日にアメリカがイランを空爆したあと、3月19日(現地時間)に行われています。空爆後G7国で初めてトランプ大統領に直に面会する日本の首相として、国連憲章違反、国際法違反をしたと指摘すべきところを、ここまでアメリカに媚びている日本の姿を世界へ見せることになり、他のトランプ政権の行動に対して異を唱える国々と違う方向を向いてしまったこと、日本人のひとりとして、とても恥ずかしく思いました。

(第2回につづく)

(聞き手・構成:日野百草)

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や政治倫理、近現代史のルポルタージュを手掛ける。一般社団法人日本ペンクラブ広報委員会委員。