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不動産投資や資産運用などで資産形成を進めている富裕層の方々は、2025年分の確定申告を終えて、ひと息ついている方も多いのではないでしょうか。しかし、前年12月31日時点で国外にある財産の合計額が5,000万円を超えている場合、6月末までにもう1つ提出しなければならない書類が存在します。「国外財産調書」のしくみと、富裕層の節税と税務調査が繰り返してきた“いたちごっこ”の実態について、2026年4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か--税制が映し出すアメリカの真実』を刊行したばかりの奥村眞吾税理士がわかりやすく解説します。

国外資産を持つ人は要注意…6月30日〆切の“もう1つの義務”

確定申告が終わったからといって、すべての税務手続きが完了したわけではありません。国外に多額の資産を保有する場合には、6月30日までに「国外財産調書」の提出義務が課されており、これを怠るとペナルティの対象となる可能性があります。

かつては、海外にある日本人の資産は簡単には把握できないものでした。しかし、それはすでに過去の話です。現在では、ある意味簡単に把握される時代になりつつあります。その背景にあるのが、CRS(Common Reporting Standard)による情報交換です。

国税庁が公表した「各国との情報交換事績」によると、日本人が海外に保有する個人口座は約272万件、金額にして9兆6,000億円にのぼるとされています。

しかし、これは氷山の一角に過ぎないと考えられます。これらの口座は日本のパスポートを提示して開設されたものに限られており、パスポートを提示せずに開設された口座は対象外です。また、この情報交換には米国が含まれていない点にも注意が必要です。

スイスからアジア、そしてタックスヘイブンへ

かつて、海外隠し預金の代表格といえばスイスでしたが、オバマ政権下で金融の透明性が大きく進み、現在では世界でも屈指の透明性を持つ金融市場へと変わりました。

その結果、一部の資産家は資産の移転先をシンガポールや香港、さらにはケイマン諸島やパナマといったタックスヘイブンへと移してきました。しかし、これらの地域においてもCRSによる情報捕捉が進んでいます。

その後、米国のデラウェア州やネバダ州へ資産を移す動きも見られましたが、シンガポールや香港ほど容易に金融口座を開設できるわけではなく、完全な逃避先とは言い難い状況です。

暗号資産という“新たな逃げ道”も塞がれつつある

こうした“いたちごっこ”のなかで、近年増えているのがビットコインやイーサリアムといった「暗号資産」を利用した資産移転です。これは日本に限らず、米国のIRS(内国歳入庁)など各国の税務当局が対応に苦慮している手法でもあります。

この状況を受け、OECDはCARF(Crypto Asset Reporting Framework)という「暗号資産等報告枠組み」を整備しました。この制度は2027年から本格的に運用が開始される予定です。

CARFは、各国の税務当局が、自国の暗号資産交換業者から非居住者の取引情報の報告を受け、それを租税条約に基づいて自動的に交換する仕組みです。なお、2027年に交換される情報は2026年分、すなわち今年の取引データが対象となります。

このような動きからもわかるとおり、暗号資産を用いた海外への資産移転も、今後は税務当局に把握される可能性が極めて高くなっています。

国税当局は調査の際、「海外資産」「海外取引」「海外投資」の3つに分類して分析していますが、海外が関与する事案は、不正や申告漏れ、さらには追徴税額が多額になる傾向があるとされています。

これまで「国内業者を使えば把握されるが、海外業者なら把握されにくい」とされていた暗号資産取引も、今後はその前提が大きく変わることになります。

各国間で交換される暗号資産の情報項目は、以下のとおりです。

・利用者の氏名・住所

・居住地国

・外国の納税者番号

・当該年の取引対価の総額

このように、極めて具体的な情報が共有されることになります。

資産家に重くのしかかる「承継リスク」

こうした国際的な監視体制の強化により、日本の資産家にとっては財産承継の難易度がさらに難しくなっていくと考えられます。

相続税の負担が大きい日本では、「築いた資産が3代続かない」とも言われますが、実際には2代目の段階ですでに大きな負担となるケースが少なくありません。今後は、より慎重な資産管理と税務対応が求められる時代になるでしょう。

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表