新入社員(イメージ)

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【全2回(前編/後編)の前編】

 入社式といえば、桜の季節の風物詩。しかし、近年は桜が散るよりも早く去って行く新入社員の方が、風物詩になりつつあるのかもしれない。一体どうしてこんなことになってしまうのか。人事・総務担当者ならずとも知っておきたい、驚愕(きょうがく)の最新事情に迫る。

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 新たな仕事仲間として迎え入れたはずの新入社員が、さっさと辞めてしまう。それも、代行業者に退職手続きを託し……。

 企業の人事担当者からすれば、泣くに泣けない痛恨事に違いない。まずは、いま現場で何が起こっているのか紹介しよう。

新入社員(イメージ)

 退職代行を請け負う「ガーディアン」の長谷川義人代表によれば、

「4月8日の段階で、すでに20名ほどから依頼がありました。退職理由で多いのは、給与や休日など雇用契約の内容が、事前に受けた説明と異なっていたというケースです。また、会社の雰囲気について、入社前には“アットホーム”“風通しがいい”と聞いていたのに、実際には怒鳴り声が飛び交っていた、ということで相談される方もいました」

「昨年の1.5倍以上のペース」

 8年前から退職代行を手がけている「川越みずほ法律会計」の清水隆久弁護士が後を継ぐ。

「毎年4月は依頼が急増しますが、今年は10日までに200件ほど、新入社員からの依頼がありました。昨年の1.5倍以上のペースになります」

 すさまじい件数だが、一体どのような依頼が舞い込んでいるのだろうか。

「サービス業の会社に入社した男性が、初日の4月1日に研修を4時間受けただけで、そのまま辞めたケースがありました」(同)

 スピーディー過ぎる退職の引き金となったのは、

「事前に渡されていたマニュアルを入社日までに読んでおらず、研修できつく怒られたことのようです。“パワハラだ。こんなに厳しいならついていけない”と即座に見切りをつけた。私は“行き過ぎた指導だったかもしれないけど、パワハラとはいえないんじゃないか”とお伝えしました」(同)

 この男性が清水氏に依頼の電話をかけてきたのは午前11時半。

「お昼休みだったようで“このまま仕事場に戻りたくない”“13時に研修が再開するから、ちょうど13時に辞めることを伝えてほしい”とのことでした。私は13時に会社の総務に電話して、退職の通知を送りたい旨を伝えてからファックスで書類を送りました」(同)

「“休憩室がないから”という理由で退職」

 入社後3日と持たずに辞めた事務職の女性もいる。

「隣の席の先輩が上司から怒られているのを見て、いつか私もこうなるんじゃないか、という恐怖があったようです」(清水氏)

 女性は清水氏に叱責現場の録音データも送ってきた。

「たしかに、叱責自体はパワハラを受けているなと感じるものでした。が、この女性は“隣で叱責するのは、職場環境を悪くすること。これは私に対するパワハラじゃないですか?”とおっしゃっていましたね。私は“叱責されている本人以外にはパワハラは該当しない”と説明しました」(同)

 ほかにもある。

「入社5日目で辞めた、金融業の男性もいました。“休憩室がないから”というのが理由でした。たしかに休憩室は、深夜業務のある会社の場合は労働安全衛生規則により設置義務があります。が、該当しない場合は努力義務にとどまります。男性の会社は会議室を休憩スペースにしていたのですが、打ち合わせで埋まっていることが多かったそうです」(同)

 残業代が争点になるケースも発生していた。

「あるシステムエンジニアの新入社員は、会社から“残業代なんて支払わない”と言われたようです。残業代も出ない会社にはいたくないから辞めるということで、そこまではよかった。しかし、彼からは残業代を請求してほしいとも依頼されまして、それは難しいと断りました」(同)

「法的な説明をしても、AIで作った文章で反論してくる」

 気になるのは残業の実態だが、

「内訳は朝20分、夜40分。朝というのは、おそらく上司に“早めに来いよ”と言われたのだと思います。当然ですが、朝、早めに出社しても、ボーッとしていたら就業したことになりません。私が“朝からガツガツ仕事していたんですか?”と聞けば“していません”と。それでは残業というのはきついです」(清水氏)

 加えて、この新入社員氏は、次のように尋ねてきたという。

「“残業代は1分単位で出ますよね?”と聞いてきました。働き始めなのにどうして知っているか気になったので“AIに聞いたんですか?”と問うと、“まあ、はい”。たしかに法的には1分単位で請求できますが、今回は研修中だし、本当に残業といえるのか難しい案件なんですよ。私は“まだ給料の締め日も来ていないのだから、その話をするのは早いのでは?”と言いました」(同)

 清水氏によれば、今年は顕著な傾向が見られるという。

「生成AIを使っていると感じるケースが増えました。私の事務所ではLINEでも相談を受け付けるのですが、一発でAIだと分かる文章が多い。それらは根拠もなく“不当だから慰謝料を請求できるはず”“先生にも成功報酬を払えるからメリットがある”などと言ってきます。こちらが法的な説明をしても、さらにAIで作った文章で反論してくる。これには本当に困ってしまいます」

 後編では、内定後に入社を辞退する学生、入社前に初任給の交渉を始めて成功させてしまう学生など、令和の新入社員の最新事情についてより詳しく報じる。

「週刊新潮」2026年4月23日号 掲載