“昼ドラ”のイメージが変わった! 高杉真宙初主演作『明日もきっと、おいしいご飯』が「隠れた名作」と言われる理由
●『今夜、秘密のキッチンで』と同じく料理がテーマ
ようやく出そろった今春ドラマの中でひときわ不思議な世界観の作品がある。
それは、つらい結婚生活を送る主婦と謎の料理人の恋を描いた『今夜、秘密のキッチンで』(フジテレビ系、毎週木曜22:00〜)。夫のモラハラに苦しむ主婦を支える謎の料理人を高杉真宙が演じ、「実はすでに死んでいる幽霊だった」というファンタジーの設定も含め、話題を集めている。
その高杉が連ドラ初主演を飾り、しかも同じように料理をする役を演じたのが2015年放送の『明日もきっと、おいしいご飯〜銀のスプーン〜』(東海テレビ・フジ系、FODで配信中)。当時18歳は、52年の歴史を誇る東海テレビ制作昼ドラで男性単独最年少主演となる抜てきだった。
昼ドラファンの間で「隠れた傑作」「未来の主演俳優間違いなし」と言われた作品だけに、その魅力をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

『明日もきっと、おいしいご飯〜銀のスプーン〜』の制作発表より
○帯ドラマだから描けた家族のあり方
東海テレビ制作の昼ドラと言えば「昼ドロ」と言われたように、1980年代の『愛の嵐』『華の嵐』などの嵐シリーズ、あるいは中島丈博が脚本を手がけた『真珠夫人』『牡丹と薔薇』などの過激な作風を思い浮かべる人が多いのではないか。
しかし、それは全214作の一部に過ぎず、さまざまなジャンルの作品が放送された。そして「昼ドロ」と並ぶもう1つのメインジャンルはハートフルなヒューマン作。『明日もきっと、おいしいご飯』は女手ひとつで育ててくれた母・恭子(富田靖子)の入院をきっかけに、弟・調(前田旺志郎)と妹・奏(田附未衣愛)のために料理を作るようになった早川律(高杉真宙)の奮闘や葛藤を描くホームドラマだった。
放送前から明かされていた情報を少しだけネタバレすると、第1話で恭子に悪性腫瘍が見つかり、第2話で律と恭子に血のつながりがないことが発覚する。これ以上ないほどのネガティブなスタートだが、それでも作品全体を包むムードは優しく温かい。
そんなムードが漂う最大の理由は、律の清々しい姿と恭子の笑顔。弟妹に今まで通りの生活を送らせようと料理をはじめ、その楽しさに目覚めていく律は誰もが応援したくなる主人公であり、彼を常に優しく包み込むような恭子の笑顔が視聴者を癒やしていた。
そんな律と育ての母・恭子。恭子と次男・調、長女・奏。律と生みの親。恭子の弟・圭介(小林博)、妻・みつ子(芳本美代子)と娘・環(岩田さゆり)。さらに律のアルバイト先「洋食みさき」の小川絹江(藤田弓子)、幼いころの律にそっくりな路加(山口祐輝)らを含めたさまざまな親子関係が描かれた。
血のつながり、やむを得ない事情、過去への後悔、それでもあふれ出る愛情、子どもなりの懸命な愛情表現……当作が親子関係をしっかり描けたのは、30分×5日×9週=全45話の帯ドラマならではだろう。東海テレビ制作の昼ドラは当作終了の8か月後に終了したが、令和の今振り返ると、ドラマ好きにとって貴重な平日の楽しみだったと思わされる。
なかでも離婚、死別、再婚、同性婚、事実婚、養子縁組、ステップファミリーなど家族のあり方が多様化する中、「形はどうあれ大切なもの」を考えさせられ、涙なしでは見られない最終回は必見だ。
●グルメドラマのトレンドに変化の兆し
そして家族の物語に次ぐ、もう1つの楽しみは食事にまつわる感動的なエピソード。
恭子の工夫で律のニンジン嫌いが克服されたエピソードを皮切りに、小学生のころつらかった出来事から救ってくれたオムライス、「みさき」のハンバーグに秘められた想いなどのエピソードに涙腺を刺激させられた。
その他でも、記念日を祝う料理や元気づけるためのおもてなしなどが要所で描かれ、“おいしい=優しい、温かい、笑顔になれる”という世界観を徹底。開始早々に律と恭子が血のつながらない親子であることを明かしたからこそ、食事を通して描かれる“それでも変わらない愛情”に心を動かされた。
近年のグルメドラマは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のような料理と食事シーンに重きを置いた作品が以前より減り、人間ドラマがベースの作品が増えつつある。ちなみに昨年放送のグルメドラマで最も視聴者の支持を得たのは『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)で間違いないだろう。
同作は持病で仕事や住まいを失った主人公が薬膳料理との出会いで前に歩き出す姿を描いた物語だが、『明日もきっと、おいしいご飯』も同系の静かな感動があった。余談だが『今夜、秘密のキッチンで』で高杉が演じるKeiは「薬膳にも精通したイタリアンシェフ」という設定であり、目指す方向性の類似を感じさせられる。

210センチの巨大オムライスが登場した『明日もきっと、おいしいご飯〜銀のスプーン〜』の制作発表
○11年間の成長を思わせる今春の役柄
最後に話を高杉真宙に移すと、ネタバレを避けるべく詳細は避けるが、律は制作サイドからさまざまなものを背負わされた主人公であり、おのずと演じる側の負担は大きくなる。
しかし、高杉はどんなに忙しくても、つらい事実を知っても、無力さに打ちひしがれても、前に進もうとする律を「高杉真宙そのものではないか?」と思わせるほど自然体の演技でやり切った。
大学の勉強をしながら家族のために料理を作り、アルバイトで家計を助け、発覚した家族の問題に向き合う律は、昼ドラに限らず“2010年代ドラマ屈指の純粋無垢な主人公”と言っていいかもしれない。
その後、高杉は禁断の恋に戸惑う青年、殺人事件の黒幕、残念なエリートサラリーマン、過酷な環境で疲弊する救命医、家事でズボラ女子を支える後輩社員、技術至上主義の天才外科医などの多彩な役柄を演じて評価を高めてきた。
そして今春演じるKeiはまるで成長した律のような役柄であり、だからこそ11年間にわたる高杉真宙という俳優の成長に重ね合わせたくなる。
家族で囲む食卓の幸せに気づかせ、生きづらさを抱える大人と未来ある子どもにエールを贈るような作品だけに、ゴールデンウィークでの一気見に勧めておきたい。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
ようやく出そろった今春ドラマの中でひときわ不思議な世界観の作品がある。
それは、つらい結婚生活を送る主婦と謎の料理人の恋を描いた『今夜、秘密のキッチンで』(フジテレビ系、毎週木曜22:00〜)。夫のモラハラに苦しむ主婦を支える謎の料理人を高杉真宙が演じ、「実はすでに死んでいる幽霊だった」というファンタジーの設定も含め、話題を集めている。
昼ドラファンの間で「隠れた傑作」「未来の主演俳優間違いなし」と言われた作品だけに、その魅力をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

○帯ドラマだから描けた家族のあり方
東海テレビ制作の昼ドラと言えば「昼ドロ」と言われたように、1980年代の『愛の嵐』『華の嵐』などの嵐シリーズ、あるいは中島丈博が脚本を手がけた『真珠夫人』『牡丹と薔薇』などの過激な作風を思い浮かべる人が多いのではないか。
しかし、それは全214作の一部に過ぎず、さまざまなジャンルの作品が放送された。そして「昼ドロ」と並ぶもう1つのメインジャンルはハートフルなヒューマン作。『明日もきっと、おいしいご飯』は女手ひとつで育ててくれた母・恭子(富田靖子)の入院をきっかけに、弟・調(前田旺志郎)と妹・奏(田附未衣愛)のために料理を作るようになった早川律(高杉真宙)の奮闘や葛藤を描くホームドラマだった。
放送前から明かされていた情報を少しだけネタバレすると、第1話で恭子に悪性腫瘍が見つかり、第2話で律と恭子に血のつながりがないことが発覚する。これ以上ないほどのネガティブなスタートだが、それでも作品全体を包むムードは優しく温かい。
そんなムードが漂う最大の理由は、律の清々しい姿と恭子の笑顔。弟妹に今まで通りの生活を送らせようと料理をはじめ、その楽しさに目覚めていく律は誰もが応援したくなる主人公であり、彼を常に優しく包み込むような恭子の笑顔が視聴者を癒やしていた。
そんな律と育ての母・恭子。恭子と次男・調、長女・奏。律と生みの親。恭子の弟・圭介(小林博)、妻・みつ子(芳本美代子)と娘・環(岩田さゆり)。さらに律のアルバイト先「洋食みさき」の小川絹江(藤田弓子)、幼いころの律にそっくりな路加(山口祐輝)らを含めたさまざまな親子関係が描かれた。
血のつながり、やむを得ない事情、過去への後悔、それでもあふれ出る愛情、子どもなりの懸命な愛情表現……当作が親子関係をしっかり描けたのは、30分×5日×9週=全45話の帯ドラマならではだろう。東海テレビ制作の昼ドラは当作終了の8か月後に終了したが、令和の今振り返ると、ドラマ好きにとって貴重な平日の楽しみだったと思わされる。
なかでも離婚、死別、再婚、同性婚、事実婚、養子縁組、ステップファミリーなど家族のあり方が多様化する中、「形はどうあれ大切なもの」を考えさせられ、涙なしでは見られない最終回は必見だ。
●グルメドラマのトレンドに変化の兆し
そして家族の物語に次ぐ、もう1つの楽しみは食事にまつわる感動的なエピソード。
恭子の工夫で律のニンジン嫌いが克服されたエピソードを皮切りに、小学生のころつらかった出来事から救ってくれたオムライス、「みさき」のハンバーグに秘められた想いなどのエピソードに涙腺を刺激させられた。
その他でも、記念日を祝う料理や元気づけるためのおもてなしなどが要所で描かれ、“おいしい=優しい、温かい、笑顔になれる”という世界観を徹底。開始早々に律と恭子が血のつながらない親子であることを明かしたからこそ、食事を通して描かれる“それでも変わらない愛情”に心を動かされた。
近年のグルメドラマは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のような料理と食事シーンに重きを置いた作品が以前より減り、人間ドラマがベースの作品が増えつつある。ちなみに昨年放送のグルメドラマで最も視聴者の支持を得たのは『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)で間違いないだろう。
同作は持病で仕事や住まいを失った主人公が薬膳料理との出会いで前に歩き出す姿を描いた物語だが、『明日もきっと、おいしいご飯』も同系の静かな感動があった。余談だが『今夜、秘密のキッチンで』で高杉が演じるKeiは「薬膳にも精通したイタリアンシェフ」という設定であり、目指す方向性の類似を感じさせられる。

○11年間の成長を思わせる今春の役柄
最後に話を高杉真宙に移すと、ネタバレを避けるべく詳細は避けるが、律は制作サイドからさまざまなものを背負わされた主人公であり、おのずと演じる側の負担は大きくなる。
しかし、高杉はどんなに忙しくても、つらい事実を知っても、無力さに打ちひしがれても、前に進もうとする律を「高杉真宙そのものではないか?」と思わせるほど自然体の演技でやり切った。
大学の勉強をしながら家族のために料理を作り、アルバイトで家計を助け、発覚した家族の問題に向き合う律は、昼ドラに限らず“2010年代ドラマ屈指の純粋無垢な主人公”と言っていいかもしれない。
その後、高杉は禁断の恋に戸惑う青年、殺人事件の黒幕、残念なエリートサラリーマン、過酷な環境で疲弊する救命医、家事でズボラ女子を支える後輩社員、技術至上主義の天才外科医などの多彩な役柄を演じて評価を高めてきた。
そして今春演じるKeiはまるで成長した律のような役柄であり、だからこそ11年間にわたる高杉真宙という俳優の成長に重ね合わせたくなる。
家族で囲む食卓の幸せに気づかせ、生きづらさを抱える大人と未来ある子どもにエールを贈るような作品だけに、ゴールデンウィークでの一気見に勧めておきたい。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
