麻生久美子「1人目を出産したあと、救急車を呼ぶことになってわかったことがあるんです」

写真拡大 (全9枚)

麻生久美子演じる「家族にないがしろにされる専業主婦」に共感の声

毎日家族のためにおいしいご飯を作り、家事をして家を整え、家族を最優先にして生きている40代の専業主婦。大学生の長女も高校生の息子も家事を一切手伝わず、仕事で超多忙な夫は浮気の気配がして、この日も帰ってきたと思ったら「仕事」と称してすぐに出て行ってしまった。そんなときに娘が弟にこう言っているのを聞いてしまう。

「けど、外に目がいくのもわかる。お母さんって、ずっと家にいて世界が狭いじゃん?お父さん退屈なのかも」

一生懸命家族のために働いているのに……、そんな言葉はぐっさり胸に刺さってしまうのではないか

水曜ドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中にー(以下、月夜行路)』(日本テレビ系水曜夜10時〜)でそんな専業主婦・涼子を演じているのは、麻生久美子さんだ。

本作は、波瑠さんが演じる小説家志望のバーのママ・ルナと、麻生久美子さん演じる専業主婦の涼子が、「涼子の元カレを探す」という目的の中、多くの事件に遭遇、ルナが文学的知識とその観察眼で謎を解いていく「文学ロードミステリー」。原作は秋吉理香子さんの同名小説で、『最愛』『わたし、定時で帰ります』などで知られる清水友佳子さんが脚本をつとめる。

第1回が放送されると、ティーバー総合ランキングで1位となり、SNSにも多くのコメントが寄せられた。

“主婦としては頑張っても評価されないばかりか

いなくても別に構わないって言われちゃう涼子さんが不憫…”

“唐揚げ作ってもらってその言い草。母親の献身をあたりまえだと思うなよ。”

麻生さん自身、2人の母でもある。そこで「母である麻生久美子さん」にインタビュー。涼子を演じるにあたっての本音を聞いた。

自分の人生より家族を優先する涼子

涼子というキャラクターは、波瑠さん演じるルナに「自分の人生を生きてください」と言われる専業主婦だ。しかし、自分の人生より前に家族の時間を最優先にしている人は少なくないはず。共感して首ブンブン振る人が多いのではないだろうか。そう問いかけると、麻生さんは柔らかくこう言った。

「共感していただけると嬉しいです。『わかる、そうそう』と思う方はきっとたくさんいるんじゃないかと思います」

ドラマが始まる前の会見で、麻生さんは「家庭内で孤独を感じる主婦が全部そういうわけじゃないけれども、キャラクターを作るのが難しかった」と語っていた。第1話をご覧になった人はわかると思うが、涼子は自分の誕生日に気づいてもらえなくても、それを口にすることができない。自分を横に置いて全て家族に合わせている。キャラクターを出すのが難しいのは、だからだったのではないだろうか。

麻生:「そうなんですよね。人のために動いてる人というか、とにかく自分よりも家族を大事にして生きている人なので、個性の出し方が難しいなと感じました。いっぽうで、波瑠さん演じるルナさんはすごく個性的な人物なので、どうやってその隣に立つかはすごく考えました」

一人で頑張っている人には周りを頼ってほしい

1話を見ると、涼子にとってはルナに無理やり連れだされた「旅」が、産後初めての「冬休み」だということがわかる。これは物語のなかだけではなく、ケアワークをする人に多くあることなのではないか。長期休みになると「休みがなくなる」という親たちのため息がSNSにもあふれる。お金にはならなくても、誰かのケアをするという仕事が増えてしまう。子どもたちに愛があるないとは別に、自分の欲望を見ないふりするというか、横に置いておくしかない。では麻生さんは家事・育児に対してどのように向き合っているのだろうか。

麻生:「私は、子どもたちそれぞれの予定を調整するのが一番大変です。それぞれに好きなことをやらせてあげたいし、学びの機会もあった方がいいと思うと、どうしてもいろいろ増えてしまって。そのひとつひとつを調整していくのが、本当に大変なんです。

送り迎えは、周りに手伝ってくれる人たちが比較的いるので、二人目が生まれてからは、というか一人目の途中くらいから、かなりみんなに頼っています。

『人に頼る』ことの大切さは、本当に強く感じています。自分自身もそうでしたし、今ひとりで頑張ってる方にも、もっと周りを頼りながら、ご自身のバランスを取ってほしいなと強く思います」

電話で救急車を呼び、母に「娘をよろしくお願いします」

“2人目を産んでからは”と語った麻生さん。では、1人目の時はどうだったのだろうか。

麻生:「一人目の時は初めての子育てだったので、『自分の子どもだし、可愛いし、ずっと待ち望んでたし』という気持ちが強くて、赤ちゃんと私、2人の時間をすごく大切にしようとしすぎていたんです。だから自分が疲れていたり、本当に体がしんどかったりしても、『今しかないこの時間を大切にしなきゃ』と思ってしまって。しんどいのに頑張りすぎて、半年くらいほとんど誰にも頼らずに過ごしていました。本当に一人で突っ走った半年間でした。そうしたら、あるとき倒れてしまったんです。

『自分の体って、こんなふうになるんだ』と思うくらいで、このまま死んでしまうのかもしれない、脳の病気かもしれない、と本気で怖くなってしまって。自分で救急車を呼んで、それから母とマネージャーに電話して、『娘をよろしくお願いします』と伝えました。犬もずっと吠えていて、本当に大変でした。

あのとき初めて、自分の体がこんな状態になることがあるんだと知って、これはもう無理をしてはいけないと思ったんです。そこからは、母やマネージャーなど、頼れる人にはもうとことん頼って生きています」

「自分だけでしなきゃ」と縛っていた

『月夜行路』第1話に、佐々木希さん演じる愛子が過呼吸になるシーンがあった。麻生さん演じる涼子が慣れた様子で介抱し、「私もなったことがあるから」と語っていた。涼子も同じような経験をしてきたことを感じさせられるシーンだ。麻生さんのこの救急車の「事件」も体がサインを出したということなのだろう。

麻生:「そうですね、体は完全にサインを出していたんだと思います。やっぱり、無理をしてはいけないんだなとわかりました。

細かい記憶はあまりないんですけど、倒れる前に『手伝おうか』と言われても、『大丈夫、大丈夫』と答えていたことは覚えています。そのときは、手伝ってほしいとあまり思えていなかったのかもしれないし、遠慮もあったのかもしれません。『自分の子どもなんだから、自分で育てるものだ』と思ってたというか……『これくらい全然平気です』という感じでやっていたら、ああなってしまった、だから、無理をしすぎるのは本当によくないんだなと思いました」

専業主婦のみならず、家事育児をしている人が「誰かを頼れない」「自分でやらなきゃいけない」と感じ、つい頑張りすぎてしまう。これは自分がやるべきことだからと「べき」という言葉で縛ってしまう。そういう経験をしたことのある人は少なくないのではないか。麻生さんは仕事と家事育児のバランスをどのように考えていたのだろう。

麻生:「私は仕事への復帰も比較的早かったですし、妊娠中もわりと長く仕事をしていました。でも、子どもが生まれてしばらくは、というか、生まれる前からしばらくのあいだは、『今は仕事してるをしている場合じゃない』『子育てだけに専念しなきゃいけない』みたいな気持ちが、どこかにあった気がします。

子育ては本当に素晴らしい時間ではあるんですけど、『こうあるべきだ』という思いが強くなりすぎて、自分で自分を苦しめていたところがあったんだと思います。

今は、私にとっては仕事をしていることが、自分のバランスを保つことにもつながっているんだと感じています」

1人目のお子さんのとき、麻生さんの体が麻生さんに出したサイン。それをきちんと受け取り、やり方を変更したからこそ、いま麻生さんは健やかで、そして私たちに素晴らしい演技を見せてくれている。それを実感している麻生さんが涼子を演じるときに、説得力を感じさせてくれることは間違いないだろう。

◇インタビュー後編「2児の母・麻生久美子が「お母さんって世界がせまい」と言われて感じたこと」では、2児の母として、麻生さんが涼子と自身を重ねて感じたとを聞いていく。

麻生久美子(あそう・くみこ)

1978年6月17日生まれ。1995年、映画『BAD GUY BEACH』でデビュー。1999年『カンゾー先生』では、日本アカデミー賞新人賞とともに最優秀助演女優賞をはじめ、多くの賞を受賞。2001年『贅沢な骨』では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。以降ドラマ『時効警察』シリーズ(2006、2007、2019)、『MIU404』(2020)『オリバーな犬』シリーズ(2021、2022、2025年は映画化)、『おむすび』(2024〜2025)、映画『回路』(2000)『インスタント沼』『夕凪の街 桜の国』(2007)『モテキ』(2011)『とんび』(2022)『海辺へ行く道』(2025)ほか舞台やCMも多く出演。『月夜行路』が最新のW主演作となる。

『月夜行路 ―答えは名作の中にー』

仕事漬けの夫と反抗期の子どもたちに軽んじられる専業主婦・沢辻涼子。45歳の誕生日の日、偶然出会ったのは小説家志望で文学オタクのバーのママ・野宮ルナ。見事な洞察力を見せるルナと、なぜか涼子の元カレ探しの旅に大阪へ行くことに。そこで殺人事件に遭遇すると、ルナが文学作品から謎を解き明かしていく。笑って泣ける痛快文学ロードミステリー。日本テレビ系 水曜夜10時〜

インタビュー・文/新町真弓(FRaUweb)

【後編】2児の母・麻生久美子が「お母さんって世界がせまい」と言われて感じたこと