日本の「消しゴム文化」を支える創業111年シードの「消すものづくり」

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多くの人が一度は、この消しゴムを目にしたことがあるだろう。スカイブルーのスリープ(巻き紙)が目印のプラスチック消しゴム「Radar(レーダー)」は、大阪の消しゴムメーカー・株式会社シードが1968(昭和43)年に製造・販売を開始した大ベストセラーだ。デジタル化が進み、「手で書く文化」が失われつつある中、消しゴムはどこへ向かおうとしているのか。

子どもの頃から「レーダー」一択

子どもの頃から消しゴムは「レーダー」一択だった。今でも原稿をまとめる際、鉛筆を手にして、文章をああでもない、こうでもないと書いては消し、消しては書いて考えている。

寄る年波が一番大きな原因なのだろうが、パソコンで入力するだけでは考えがまとまらない。ボールペンを使うと筆先がひっかかったり走り過ぎたり、液だれが気になったり。消えるボールペンもあるが、なんか違う。

初心に戻って、やっぱり鉛筆と消しゴムが最良の筆記用具やなぁとしみじみ思っていたところに、「あの消しゴム作ってる会社、大阪の会社ですよ!」と教えてもらった。マジですか?

創業111年目を迎える老舗

株式会社シードの創業は1915(大正4)年。三木康作ゴム製造所として大阪市都島区で誕生した、今年111年目を迎える老舗メーカーだ。

1914(大正3)年に勃発した第一次世界大戦を受け、日本は物資の生産拠点となり工業化が進む中、三木康作ゴム製造所は天然ゴムを原料とするゴム製品メーカーとして出発。ゴム糊・ゴムテープ・輪ゴムなどの他、消しゴムを製造していた。

1923(大正12)年、現在の社名である「SEED(シード)」を商標登録、この名前を冠した消しゴムを世界に輸出するようになる。

シードの由来は、イソップ童話「カラスと水差し」の物語から。水差しに入った水を飲むためにカラスが石ころを水差しに入れ、水位を上げて飲んだという寓話から、何事もあきらめずに知恵を絞れば目的を達成することができる。その知恵の種=シードを地道に積み重ねることが将来の大きな力になる、という意味が込められていて、現在でもいくつかの商品には「カラスと水差し」のロゴマークが使われている。

1931(昭和6)年の満州事変以降、政府による統制経済が進む中、ゴム製品は軍需品として使われるようになり、生産を拡大。1943(昭和18)年には三木康作ゴム製造所は海軍指定工場となり、ゴムホースや望遠鏡・双眼鏡のゴム当て、ゴムパッキンなどの軍需品や消しゴムなどの民需品に至る様々なゴム製品を製造するようになる。消しゴムの生産も東洋一の規模を誇ったが、1945(昭和20)年6月の大阪大空襲で、事務所の一部以外の工場・建物などすべてを焼失する。

終戦後はすぐに工場や事務所を立ち上げ、物不足の時代にいち早くゴム製品を量産したことで、飛ぶように売れた。しかし、手広く投資していたことなどが仇(あだ)となり、経営危機に陥る。1951(昭和26)年には債権者団体から選ばれた社長が就任、不採算事業であったゴム履物などの生産を止め、学校教育事業が整備される中、これからは文房具市場が伸びると踏んで、消しゴム専業メーカー・シードゴム工業株式会社として再スタートを切った。

プラスチック消しゴムを開発

現在使われている消しゴムの多くは、ゴムの木から採れるゴムから作られたものではなく、石油から作られるプラスチック(合成樹脂)の一種、ポリ塩化ビニルなどを原料としたものだ。

鉛筆などで書かれた文字が消しゴムで消える原理は、消しゴムをこすりつけることで紙の上に乗っている黒鉛が消しゴムに付着、黒鉛を包み込んで消しカスとして剥(は)がれ落ちる。消しカスが除かれた消しゴムの表面にはまた真新しい白い面が現れ、ここに再び黒鉛が付着、という繰り返しで文字が消える。あのゴシゴシこする動作の中に、そんな複雑なことが行われていたとは!

消しゴムはその名前が示す通り、元々は天然ゴムを材料として作られていたが、いかんせん、天然ゴムは加工が難しい。固い塊の状態で輸入される天然ゴムに硫黄を混ぜて加熱、ゴムの分子を網目状に結びつけることで弾力性や強度を持たせる「加硫」という行程を経た上で、温度と湿度を同時に与えつつロールに巻き取り伸ばしながら他の材料を混ぜ込んでいく必要があり、設備投資に費用がかかる。

一方、プラスチック消しゴムは、ポリ塩化ビニルと可塑(かそ)剤(油)、炭酸カルシウムを加熱しながら混ぜ、液状になったものを型に流し込んだり、押し出したりして形を作る。製造工程が少ない上に加工もしやすく、天然ゴムに比べて低コストで生産できることから1956(昭和31)年、同社はプラスチック消しゴムの開発に着手。そして、1968(昭和43)年に最高級プラスチック消しゴム「レーダー」が完成、生産を開始する。

『暮らしの手帖』レビューで絶賛

「レーダー」は消しゴムの単価が10円が主流の時代に、大きさに応じて20円、30円、50円で売り出したこともあり、当初はなかなか売れなかった。しかし、1970(昭和45)年の『暮らしの手帖』誌上で行われた「消しゴムテスト」で、国内外の消しゴム33種類(ゴム製25種、プラスチック製8種)の消字力テストを行った結果、性能がトップであると絶賛される。

これをきっかけに爆発的な人気となり、全国から注文が殺到、現在に至るロングセラー商品となる。「レーダー」は後に、日本字消工業会基準の消字テストで97%の消字力を記録し、品質の高さを証明。他にも巻き紙の四隅を小さく切り落とすことで消しゴムが折れるのを防いだり、フィルム包装にミシン目を入れ、指で押し上げるだけで簡単に開けられる仕様になっていたりと、随所に工夫が凝らされている。

多様化する消しゴムの世界

「消しゴムって色や形はもちろんですが、消し感というんでしょうか、固さや弾力性、消しカスの出方やまとまり方などにも好みがあります。文具は手に取って使っていただくものなので、人それぞれにこだわるところが違い、商品開発においては文具ならではの難しさがありますね」

株式会社シード代表取締役社長・徳山太(ふとし)氏は話す。

会社の顔となった製品「レーダー」以降も、同社では世相やトレンドに応じた消しゴムが作られてきた。

1977(昭和52)年には、粘土のように柔らかく、引っ張ったり伸ばしたりして自由に形を変えることができるねり消しゴムを発売。中でもコーラの香りと色をつけた「コーラねり消し」が、一部の学校では学校内に持ち込み禁止になるほど大人気となった。

1980年代に入ると、文字を消すという本来の機能に加えて、可愛い・面白い・集めて楽しむなど、購入の動機に新たな要素が加わった「ファンシー消しゴム」というジャンルが誕生。四角形だけではなく、花や動物、乗り物など様々な形の消しゴムが店頭に並ぶようになった。それらをパズル状に組み合わせた「パズル型消しゴム」を発表し、ギフト用の消しゴムという新たな市場が生まれたのもこの頃だ。

他にも消しカスが散らばらない「ノンダスト消しゴム」や、設計・製図用の超高性能消しゴムなどに次いで、著名人の似顔絵を消しゴム版画で表したコラムニスト・ナンシー関さんの影響から、消しゴムがハンコやスタンプの材料としても使われるようになり、スタンプ用の消しゴム「ほるナビ」が作られた。

二極化する消費傾向

同社は現在、商品開発と消しゴム生地の担当の7名が新製品の開発を行っている。昨今のSNS時代、映える商品として人気なのは、透明な消しゴム『クリアレーダー』や、太陽の光に当てると色が変わる半透明の『サンレーダー』。

高級志向の商品も静かなブームとなっていて、日本産の桜の木をケースに使った『桜の木レーダー』(定価500円)は受験生へのプレゼントに。また、かつて天然ゴムを使用して作っていた最高級消しゴムを、天然ゴムを使わず合成ゴムを使って復活させた『ハイバーゴールド』(定価600円)は、高校生など学生が買っていくという。

学生でも100均ショップなどで安くモノを買う人と、多少値段が高くてもいいものを長く持ちたいという人に二極化しているそうだ。消費動向も二極化していると聞いて、驚いた。

「カドループ」で文房具屋大賞受賞

今年1月には、タブレットやスマホ操作ができるペン型消しゴム「タッチレーダー」を発売。タッチパネルを操作できる消しゴムで、学校教育にタブレットが導入される中、デジタルとアナログを融合させた商品だ。

2月には「カドループ」という消しゴムが「文房具屋大賞2026」を受賞した。使ううちに角が丸くなった消しゴムを温めて柔らかくし、直方体のカドモドシートに押し込むことで角を復活させることができるという商品で、「消しゴムは角(かど)が命」という考えから生まれたのだそうだ。

「当たる、と思っても当たらない。当たらないと思っても当たる可能性があるだけで、昔のようなホームランは出ない。ヒットが出ればいいところです。ものすごくコアなものが当たる時代ですが、それも長続きしないですね。

当社はカセットテープ状の修正テープを世界に先駆けて開発した会社で、これまでも、これからも『消すものづくり。』にこだわった商品づくりをしていこうと考えています。消しゴムの原理を活かして、壁や水周り、スニーカーや上履きなどの汚れを取る、シールを剥がすなど、掃除グッズになり得る商品にも力を入れています」(徳山氏)

日本の「消す文化」を消さないで

世界的に見ると、文字を消しゴムなどで消すのは珍しいのだそうだ。欧米などアルファベットを使う国は間違った箇所には線を引いて残すことが多いが、アジア圏、とりわけ日本は「間違ったらキレイに消しなさい」という文化で、消しゴムをよく使う。

ペーパーレス、デジタル化が進む中、紙に文字を書くことがどんどん減ってきている。しかし、スウェーデンなど教育現場でデジタル端末の使用を先んじて推進してきた国々では、子ども達の成績低下や心身の不調が見られるとして、アナログ回帰が進んでいるという。

手を使って文字を書き、消しゴムで消すことと、パソコン入力を両方行っている私の個人的な意見だが、手を使って文字を書く方が明らかに脳の活性化にはいいと思う。自分で文字で紙に書くのと、画面上にある文字を見るのとでは、文字を紙に書いた方が圧倒的に頭に入る。

たかが消しゴム、されど消しゴム。消しゴムがない机周りや筆は、画竜点睛を欠くようでつまらなくて寂しいし、消しゴムで文字を消す感覚は、他の何物にも代え難い。日本の文具は世界でも類を見ないほど高品質でバラエティに富んでいて、消しゴムもまた日本の文具文化を代表するものだ。

日本の「消す文化」がこの先も残ってほしいと思うのは、私だけではないはずだ。

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株式会社シード

〒561-0894 大阪府豊中市勝部3丁目2−17

電話: 050-3160-3801

URL:https://www.seedr.co.jp/

公式インスタグラム:https://www.instagram.com/seed_radar/?hl=ja

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