「バフェットの後継者」が東京海上に2874億円出資の狙い…バークシャーがこれから日本株に求める「3つの条件」
ウォーレン・バフェット氏がCEOとして最後に手掛けた新規投資は、ニューヨーク・タイムズだった。
バフェット氏自身は少年時代に新聞配達で生計を立てていたという経歴を有している。ニューヨーク・タイムズへの投資の裏には「新聞」というメディアへの深い愛着が透けて見える。
では、2026年1月にバフェット氏からCEOのバトンを受け取ったグレッグ・アベル氏はどうか。この問いに対する答えが、次にバークシャーが日本市場で何を買うかを決定づける。
アベル氏からの書簡に刻まれた転換点
バフェット氏に続き、アベル氏が初めて執筆した年次書簡には重要な事実が記載されている。それは、アベル氏が日本への投資を「米国の主要投資先と同等の重要性」と位置づけたことである。
バフェット氏時代の日本投資は、あくまで「純投資」という枠組みだった。2020年8月に公表された五大商社への投資は、割安な優良株をパッシブに保有し、長期で持つという古典的なバフェット流の延長線上にあった。保有比率は各社9〜10%台に慎重に抑えられ、経営への関与は最小限。円建ての借入でヘッジしながら、黙って座って待つスタイルだった。
アベル氏は違う。就任からわずか3カ月で東京海上ホールディングスに2,874億円を投じた。しかもこの投資は純投資を超えて、事業提携という戦略的な出資を前提としている。
アベル時代の日本株投資は、質的に異なるフェーズに入ったのだ。
日本株への投資は一発では終わらない
アベルの意思を、もう一つの角度から裏づけるデータがある。円建て社債の発行残高だ。
バークシャーは直近で2025年11月に3〜15年物の円建て債券で2101億円を調達した。
そして東京海上への出資を発表した直後の2026年4月、早くも次の起債に動いた。金額は不明だが、円を調達するニーズが引き続き存在している様子はうかがえる。
年次書簡と円の調達、この二つの動きを踏まえれば、アベル氏の日本株への投資は一発では終わらない可能性が高い。
では東京海上の「次」はどこか。ここで重要になるのが、バフェット氏が商社を選んだ理由として「バークシャーに似た多角経営体」と評価したことにある。
ミネラルウォーターから人工衛星まで扱い、トレーディング、事業投資、経営参画を一手にこなす日本の総合商社は、保険・鉄道・エネルギー・食品を束ねるバークシャーの写し鏡のような存在だった。バフェット氏が商社に「今後50年間売ることは考えない」旨を宣言したのは、単なるバリュエーションの話ではなく、事業構造への深い共感があったからだ。
この視座を踏まえると、アベルが次に選ぶ銘柄の輪郭がより鮮明になる。単に割安な大型株ではなく、参入障壁の高い事業を複数持ち、その複雑さゆえに過小評価されている企業こそが、バークシャーにとって最も旨味のある投資対象なのである。
バークシャーが日本株に求める条件
以上を踏まえ、アベル時代のバークシャーが日本株に求める条件を整理する。
条件1:本業との事業シナジー
この転換から逆算すると、アベルのバークシャーが次に狙う日本株の第一条件が浮かぶ。「バークシャーの既存事業と相乗効果がある領域」だ。
ヒントとなりうるのがアベル氏のキャリアである。同氏のキャリアは米国のエネルギー企業であるCalEnergyとバークシャー・ハサウェイ・エナジーで築かれた。
日本では電力自由化の進行、洋上風力発電の大規模案件、老朽化した送電インフラの更新需要が重なっている。
エナジー業界に身を置いてきたアベル氏にとって、これらは極めて馴染みのある地形のはずだ。同氏が米国で手掛けてきたビジネスモデルを、日本市場に移植できるパートナーがいれば、投資の合理性は高い。
条件2:バークシャーの投資サイズに見合った規模感
第2の条件は、バークシャーの投資サイズに適合する規模感だ。
アベル氏の年次書簡によれば、バークシャーは商社株とほぼ同額の資金を日本で借り入れているという。米国債の利回りが4%台で推移する中、1.2%で調達できる円建ての負債は、それ自体が実質的な投資収益の源泉となる。
しかし、この調達スキームが機能するには、投資先に十分な流動性が必要だ。数千億円単位の売買を迅速に行える時価総額が必要である。つまり、目安として最低でも数兆円クラスの時価総額が求められる。
東京海上の時価総額は約10兆円、商社5社はいずれも3兆〜15兆円規模。次のターゲットも同程度の器が必要になる。日本の電力・ガス大手、メガバンク、あるいは大手不動産など、水準次第では、いずれもバークシャーの「型」に嵌まる候補だ。
条件3:日本市場における相対的な割安感
第三の条件は、割安投資に該当するかである。
米国のS&P500がPER20倍台後半で推移する一方、TOPIXは15倍前後と依然として大きなディスカウントがある。アベルの書簡で日本を米国と「同列」に置いた背景には、バリュエーション比較がある。同じ利益水準の企業が日本にあるというだけで3〜4割安く買えるなら、それだけでも買いを入れる動機としては十分だ。
次の投資先も、同じ論理で選ばれるだろう。セクター全体が割安に放置されているが、事業の質は高い。そんな「まだマーケットが気づいていない日本の大型株」が候補となりうるのだ。
* * *
この3つの条件をもとに考えうる「東京海上の次」と言えそうな銘柄は何か。後編記事〈バフェット後のバークシャーが狙う「東京海上の次」を予想…「日本株6銘柄」を実名公開〉で実名を挙げて大予想する。
