『名探偵コナン 隻眼の残像』は挑戦作であり原点回帰でもある “喪失”をめぐる普遍的テーマ
4月10日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』(以下、『隻眼の残像』)が地上波初放送される。同日全国公開される『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』公開を記念した『名探偵コナン』劇場版シリーズの4週連続放送も後半戦に突入。昨年公開された『隻眼の残像』が本編ノーカットで放送されるということで、コナンフリークならずとも注目度の高い放送となりそうだ。
参考:『名探偵コナン 隻眼の残像』が大ヒット&高評価 一方でもったいなかった毛利小五郎の役割
『隻眼の残像』は昨年4月に公開されるとオープニング3日間での興行収入が34億円、最終興行収入は147億円という歴代シリーズでも2位というメガヒットを記録。近年では常に圧倒的な興行収入を叩き出す『名探偵コナン』シリーズの国民的アニメとしての風格が感じられる記録だ。
『隻眼の残像』のメインキャラクターは毛利小五郎、そして大和敢助、上原由衣、諸伏高明からなる長野県警組。たとえば2024年公開の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』(以下、『100万ドルの五稜星』)のメインキャラクターが服部平次、遠山和葉、怪盗キッド(黒羽快斗)であったことを考えれば、その年齢層の高まりを感じられるだろう。
こうした座組であることからも、本作はこれまでの作品と比べてもグッと大人なムード、そしてハードボイルドな匂いのする作品となった。特に山中での銃撃戦は本作が『名探偵コナン』であることを忘れてしまうほど、ヒリヒリとした緊張感が漂う。普段はコメディリリーフの小五郎がいつになく格好良く描写されるだけでなく、ストーリーとしても原作においても示唆されていた敢助にまつわる重要な秘密が明かされるなど、総じて渋みの際立つ1作となっている。
こうした構成もあり『隻眼の残像』は、エンターテインメント的な要素をふんだんに盛り込んだ『100万ドルの五稜星』や、シリーズの黒幕に関わる『名探偵コナン 黒鉄の魚影』といった直近の作品とはもちろん、どのシリーズ作品とも異なる空気のする作品となった。『名探偵コナン』というシリーズが歴史を重ねる中で常に様々な作風にチャレンジし、シリーズとして描く内容の幅を拡張し続けてきた新機軸であり同時に集大成のような1作となっている。
そして『隻眼の残像』のメインテーマは“大切な人の喪失と愛情”だ。毛利小五郎、上原由衣は作中で大きな喪失を経験することとなり、諸伏高明は作中で実弟であり亡くなったはずの景光ととある形で対面することとなる。自身が愛する大切な存在を失うことで、その愛がより鮮明になる。そもそもが常に殺人事件というシビアでシリアスな題材を取り扱い、人の生死を描き続けている『名探偵コナン』というシリーズにおいて、大切な人の喪失というのは不変のテーマでもある。コナンがシリーズ中においてたとえ殺人犯であろうとも殺さずに捕まえることを信条としているように、あるいは『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』において犯人が愛する人を亡くすことのつらさを説いたように。
振り返れば特に初期の劇場版『名探偵コナン』は常にコナンが蘭をなんらかの窮地から救うことがお決まりとなっており、この部分においても自身にとっての大切な存在=蘭を失わないためにコナンは常に奮闘しているという意味で“大切な存在の喪失”は『名探偵コナン』のテーマを表しているといえるのではないだろうか。『隻眼の残像』は『名探偵コナン』という作品のテーマにおける根幹に今一度挑む作品にもなった。
上記したメインキャラクターのチョイスにおける新しいアプローチと、メインテーマにおける原点回帰。相反するようでどちらも挑戦的な試みであり『名探偵コナン』が国民的なアニメシリーズ作品として常に新作が歴代興行収入ランキングで上位に君臨し続ける中でもこのチャレンジを絶やさない制作スタイルこそが、ヒットの秘訣なのかもしれない。
もちろん今作もコナンの名推理、少年探偵団や灰原哀によるサポートや阿笠博士によるダジャレクイズ、魅力的なオリジナルキャラクターまで『名探偵コナン』映画定番の要素は欠かしていない。全体を通してハードボイルドな作風となったからこそその反動でいつになくぶりっ子キャラを演じかわいげを振りまくコナンや、科学者としての片鱗を覗かせる灰原など、まだまだ見どころにあふれている『隻眼の残像』。ぜひ『ハイウェイの堕天使』とともにチェックしてほしい。(文=ふじもと)
