男性が女性にセクハラをしてしまう2つの科学的理由とは?

職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)はなぜ起きるのかについて、過去の研究では主に2つの科学的要因が挙げられていました。最新の研究は、2種類の研究を再検討する形で、男性がセクハラをする理由をよりよく説明している理論を突き止めました。
Comparing Gender Hierarchy and Evolutionary Psychology Explanations of Workplace Sexual Harassment | Sexuality & Culture | Springer Nature Link
Why do men sexually harass women at work? Science offers two explanations - but only one of them holds up
https://theconversation.com/why-do-men-sexually-harass-women-at-work-science-offers-two-explanations-but-only-one-of-them-holds-up-278894
職場で男性が女性に対してセクハラを行う理由について、従来の研究では進化心理学に基づく見方と、社会科学に基づく見方の2つの理論が議論されてきました。スタンフォード大学のモーガン・ウィービング氏やシドニー大学のケイト・リンチ氏、メルボルン大学のコーデリア・ファイン氏は、2つの理論について説明した上で、理論の妥当性を比較する研究を実施しました。
まず、進化心理学の考え方では、約258万年前から約1万1700年前までを指す更新世に、子孫を残す上で直面したさまざまな課題を解決するために、男性と女性は異なる心理的メカニズムを進化させてきたと考えられています。男性の場合は、適応メカニズムによりカジュアルな性的関係により積極的であり、女性の関心を過大評価しやすい傾向があるとされます。一方で女性は性的自律性に対する潜在的な脅威に対してより敏感になるように進化してきたため、男性からのアプローチを嫌がらせと捉える傾向があります。
異なる心理的メカニズムを進化させてきた結果、「男性は女性に好意的なアプローチをするが、女性はそれを不快なハラスメントとして受け取りやすい」というのが男性から女性のセクハラが起きやすいことの進化心理学的な説明です。

一方で、社会科学の研究者は社会心理学者による「性欲ベース」の説明には限界があると指摘しています。そこで近年の社会科学的研究では、セクハラは単なる性的関心の問題ではなく、「職場における権力や地位の不均衡」を背景とした行動だとする見方が有力です。
つまり、セクハラは単なる性的欲求だけでは説明できず、仕事の役割を男性の領域として維持し、職場における男性の高い地位を脅かす女性に抵抗するメカニズムとして、上下関係や支配関係を強化するための行為だという説明です。実際に、職場環境に関する研究では、男性が多く権力を握る組織や上下関係が強い職場ほどセクハラが発生しやすいことが報告されています。

2026年3月に学術誌のSexuality&Cultureで発表された研究では、セクハラ行動の発生要因として「性的動機(進化心理学的な説明)」と「権力志向(社会科学的な説明)」のどちらの理論がより広い現象を説明できるかなどを比較しました。研究では、「職場における幅広いセクシャルハラスメント現象を説明する上で優れているのはどちらか」「セクハラの予測を生み出して検証する研究プログラムを生むのはどちらか」「効果的な介入策を特定する上で優れている理論はどちらか」という3項目で、進化心理学と社会科学のどちらの理論が適切かを検討しています。
結果として、いずれの項目でもジェンダー階層の維持を目的とした社会科学理論がより有力だと結論付けられました。

セクハラには多くの場合で性差別的な冗談や下品な会話が含まれていますが、これらすべてに性的欲求を満たす目的が含まれているわけではないため、「男性が女性の関心を過大評価する傾向などによってセクハラが発生する」という進化心理学の考え方は不足していると指摘されています。また、どちらの理論もセクハラを予測し検証する実りある研究プログラムを生み出してきたことがわかりましたが、「権力構造によってセクハラが増えている」ことは検証できても、「より高い生殖成功率を目指してセクハラが発生している」ということは比較検証が不可能であるため、進化心理学の理論は課題が残るとしています。
特に、効果的な介入策を特定する上で、進化心理学の理論は不利であると研究者らは述べています。セクハラが男性に本質的に備わっているものであるならば、脳と遺伝子を変えることしか根本的な対処はできません。一方でセクハラが社会構造にあるならば、組織階層をフラット化したり、地位と男性らしさの結びつきを弱めることで、組織内のセクハラの発生しやすさを下げることができるとのこと。
論文では、具体的なセクハラの予防策として、心理的衝動にブレーキをかけるハラスメント研修だけではなく、チームや管理職のジェンダー均衡を進めて階層を平らにしていくことで、人の心理の背後にある職場構造を見直すことが重要だと結論付けています。
