復帰した「スピードワゴン小沢」に居場所はあるのか コンビ再始動の厳しい現実と今後の課題
約2年2か月ぶり
3月19日にお笑いコンビ・スピードワゴンの小沢一敬が活動再開を発表した。2024年1月からの活動自粛を経て、約2年2か月ぶりの復帰を果たした。「私のとった行動で不快な思いをさせてしまった方々、ファンの皆様並びに関係者の皆様には本当に申し訳ありませんでした」と謝罪していた。3月27日には相方の井戸田潤とともに東京・渋谷で行われたお笑いライブで漫才を披露して、コンビとしても再始動した。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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小沢の復帰コメントは一見すると穏当で誠実なものに見えるが、引っかかるところもある。謝罪の言葉はあるものの、何について謝っているのかが具体化されていないからだ。「私のとった行動」について反省を述べているが、それが何を指すのかが示されていない。

そもそもの発端は、2023年12月に『週刊文春』で松本人志の性加害疑惑が報道されたことだ。記事の中では、トラブルが起こった会合に小沢も同席しており、問題に深くかかわっていたとされていた。
事務所は当初、小沢の行動には「何ら恥じる点がない」として、報道内容を全面的に否定して、活動継続の方針を示していた。ところが、その後まもなく小沢は活動自粛に入った。最初は問題がないと断言していたのに、数日後には自粛に転じたという対応のねじれによって、むしろ疑惑は深まることになった。
問題がないのなら、なぜ自粛したのか。逆に、自粛が必要なほどの問題性を感じていたのなら、最初の強い否定は何だったのか。その疑問が解消されないまま時間だけが経過し、今回の復帰表明もそれに対する十分な説明にはなっていない。何があったのかということに関して表向きに説明ができないのであれば、メディア関係の仕事に戻るのは難しい。ライブ出演を果たすことができたとはいえ、本格的な地上波復帰にはまだ大きな壁がある。
小沢はもともと幅広い層に愛されるような明るく元気なタイプのタレントではなかった。繊細でキザなところがあり、ナルシシズムと照れが同居した独特の語り口を持ち、その不思議なたたずまいが魅力の人物である。
だからこそ、小沢がかかわったとされる今回の不祥事は、単にイメージに傷がつく以上の大打撃になった。彼の芸風は女性との距離感や色気のある感じとも無縁ではなく、女性関係のトラブルはそのキャラクターの根幹を揺るがすことになる。女性に「甘い言葉」をかけるような設定のネタでは笑いが成立しづらくなる。得意技の一つを封じられてしまったという点でも、彼は苦しい状況に追い込まれていると言える。
先輩の巨大な疑惑
その一方で、個人的な意見としては、小沢に対してただ断罪して終わることにもためらいがある。今回の騒動において報道の中心にいたのは小沢ではなく、あくまでも彼の先輩芸人をめぐる巨大な疑惑だった。小沢はその周辺人物として名指しされ、結果として巻き込まれてしまうことになった。
もちろん、そのことで小沢の責任が消えるわけではない。だが、芸人の世界における先輩後輩の序列の厳しさを考えれば、後輩の立場にある小沢が、先輩を差し置いて自分だけ具体的に弁明したり、騒動の中身を整理して語ったりすることは現実には難しかったはずだ。彼の沈黙の背後には、個人の判断だけではどうにもならない空気があっただろう。説明が不十分であること自体は批判されるべきだが、そこには同情の余地もある。
さらに言えば、小沢の復帰をめぐって完全に冷淡になりきれないのは、自粛期間中の彼の過ごし方にも理由がある。小沢は復帰後に公開されたYouTube動画の中で、自粛期間中に自分がものを知らないから勉強してみようと思い立ち、高卒認定試験を受けて、通信制の大学に進学したことを明かしていた。
少なくともこの2年余りの活動休止期間を、ただほとぼりが冷めるのを待つだけの時間として使っていたわけではないようだ。また、制作者任せにしていた自身のYouTubeチャンネルに関しても、企画内容を一新して、自ら積極的にかかわっていきたいと前向きな姿勢を見せていた。もちろん、勉強していたことが過去の問題を帳消しにするわけではないし、学んでいる姿勢を見せれば許されるという話でもない。ただ、止まっていた時間の中で自分を見つめて、人生を立て直そうとしていた形跡があるのなら、その点は人間として一定の評価に値する。
小沢にいま必要なのは、過去を曖昧にしたままなし崩し的に居場所を取り戻すことではない。不祥事を起こした過去を受け入れた上で、これからの仕事ぶりや言葉や振る舞いを通して、少しずつ信頼を積み直していくことだ。小沢の復帰はまだ成功したわけではない。彼が本当の意味で試されるのはこれからだ。
ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。
デイリー新潮編集部
