(※写真はイメージです/PIXTA)

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厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、日本では同居20年以上の「熟年離婚」が、統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けているそうです。一方、その場の感情で後先を考えずに離婚し、後々後悔するケースも少なくありません。定年後の夫に嫌気がさし離婚を切り出した59歳女性の事例から、離婚後に後悔しないための注意点をみていきましょう。

離婚したい妻」と「離婚してもいい夫」

2年前、30年連れ添った夫と離婚したアケミさん(仮名・59歳)。離婚の具体的な理由は伏せますが、定年後に趣味もなく、かといって家事を手伝うでもなく、1日の大半を家でゴロゴロするだけの夫に嫌気がさしたことも理由のひとつでした。

「このまま、この人と残りの人生を歩んでいいのか……」と、突如、えもいわれぬ焦燥感に襲われたといいます。

子どもはすでに独立しています。「今日より若い日はない。一刻も早く動こう」と思い立ち、夫に離婚を切り出したのでした。

すると夫は、意外にもあっさり離婚を承諾します。実は、近ごろ明らかに冷たくなった妻の態度と、定年後の居心地の悪さから「子供も独り立ちしたし、妻の機嫌を気にせずのんびり暮らしたい」と考えていたようでした。

離婚に際し、アケミさんは財産の半分を要求。しかし夫は「自分に大きな非があるわけでもない」と、これを拒否します。結局、夫の3,000万円の退職金の半分1,500万円をもらうことで合意したそうです。

アケミさんの夢

アケミさんはそれまで夫の扶養内で働くパート主婦でしたが、少し前からある夢を持っていました。それはネイリストになることです。

まずは資格が取得できる学校へ通い、就職先を斡旋してもらう。そしてゆくゆくは開業したいと考えていました。

夫からの財産分与1,500万円とアケミさん名義の300万円が離婚時の全財産です。

「これだけあればなんとかなるわ」とスクール費用は夢の実現のための初期投資と考え、早速、入学手続きをしました。

次は住居探しです。ネット検索でいくつか物件をピックアップしてあるため、そこから選ぶつもりでいました。

「とりあえず、家が決まるまではここにいるから」と、自分勝手な宣言をしてマンション探しをするアケミさん。これから始まる新たな人生に胸を躍らせながら、不動産会社に内見の連絡を入れます。

あれ?…アケミさんの新生活を阻む壁

ところが、住みたいと思える物件に問い合わせてみるものの、一向によい返事がもらえません。

「59歳一人暮らし、パート収入」というアケミさんの属性が、賃貸契約のハードルを高くしているようです。

徐々に焦り始めたアケミさん。離婚していつまでも同居するわけにはいかないため、仕方なく繋ぎのアパートを借りることにしました。

「仕事が安定して収入が増えたら引っ越せばいいわ」と、このときはまだ楽観的だったそうです。

そして、念願の新生活がスタートします。

資格取得に全力を注ぐため、パートは辞めました。無収入の間は預金を取り崩すことになりますが、夢が実現すればすぐ取り返せると思っていました。

半年後、無事に資格を取得、就職先もスクールの斡旋によってなんとか見つけることができます。

ところが、ほどなくしてアケミさんは、ネイリストの仕事が想像以上に過酷であることを痛感しました。

高い集中力が必要で気の抜けない作業であるうえ、顧客を飽きさせないよう気の利いた話題も必要です。指名が入れば収入が増えますが、気に入ってもらえなければ収入は基本給のままでした。

念願の仕事について1年ほど経過したころには、「このまま、やっていけるのかしら……」と先が見通せなくなってしまったそうです。

言い換えれば「生きていくために働く」ことの過酷さを知ったのでしょう。アケミさんは「いまは未来に夢も希望もありません。こんなに辛いなら離婚なんてしなければよかった」と嘆きます。

離婚を後悔しないために

今回紹介したアケミさんのように、先の見通しが甘かった故の離婚後の後悔は少なくありません。特に、夫に扶養されていた妻が離婚を望む場合、少なくとも次のような事前準備が必要でしょう。

1.経済的自立が可能かのシミュレーションをしてみる

1,500万円という金額は、一見まとまった金額のようにみえるでしょう。しかし、たとえば月に15万円で生活する場合、年間180万円が必要になり、1,500万円は8年ほどで消えてしまいます。

2.「生きていくための仕事」をする覚悟があるか自分に問う

59歳という年齢の再就職の厳しさや、体力的な限界も認識しておく必要があるでしょう。また、「理想の仕事」が「生活のための仕事」にできなかった場合の想定も大切です。

3.高齢者の賃貸リスク

離婚後に賃貸住宅に住む場合、高齢になると「住み替え」が難しくなるというリスクも念頭に置いておきましょう。いずれ実家を相続する予定であれば一定の安心は得られますが、そうでない場合は何らかの対策が必要かもしれません。

4.社会保険料や税金の自己負担を理解しているか

夫の扶養から外れると、社会保険料や税金を自ら負担する義務が生じます。手取りにどの程度影響するのか事前にシミュレーションして生活設計を立てないと、思い描いた生活ができないことがあります。

離婚を決断する前の「3つの鉄則」とは

離婚を口にする前に、次の検証をしてみましょう。

1.100歳までの「キャッシュフロー表」を作成

現在の資産から、年金を含めた今後の予測収入と、大きな支出が予測されるライフイベントなどを表に当てはめて、将来の資産を可視化してみましょう。資産は100歳まで残りますか?

2.「稼ぐ力」を客観視

離婚を決断するまでに、自分が社会で「実際にいくら稼げるのか」をパートやアルバイト、派遣などでもいいので実践してみましょう。現実を直視したうえであらためて「離婚の覚悟」を決めるか、「離婚しない」を選択するのか冷静な判断をしてください。

3.「住まい」の確保

住まいの確保は不可欠です。賃貸住宅に住む場合は一生ランニングコストがかかります。勤労収入がなくなり年金収入のみとなっても同様です。実は現金で財産分与を受けるよりも、住宅ローンのない住居を確保するほうが、長期目線では安定する場合もあります。

自由には責任が伴います。離婚して「自己責任というコスト」を払いきれるのかを今一度検証する必要があるのかもしれません。感情的な解放感に流されずに数字に基づいた「出口戦略」を立てることが「後悔しない離婚」への条件ではないでしょうか。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表