「1杯290円の味を母国へ」博多・はかたや社長が外国人スタッフに託す「おせっかいな夢」の先
創業から「一杯290円」を50年間、維持する福岡のチェーン「博多ラーメン はかたや」。福岡の地元民を支える激安食ですが、澄川誠社長が見据えるのはさらなる未来です。といっても、それは単なる「事業拡大」ではありません。「店で働く若者たちを、単なる労働力として使い捨てにしたくない」。そう語る澄川社長の視線の先にあるのは、日本のラーメンを通じて、外国人スタッフの未来も、世界の暮らしも変えていくという「世界一おせっかいな夢」でした。
【写真】「これで290円!?」スタッフの人生さえ変える、はかたや渾身の一杯(全8枚)
一杯3000円は日常ではない。狙う「真逆のマーケット」
── 福岡で10店舗を展開する人気のラーメン店「はかたや」。290円の破格値を実現している一方、日本のみならず世界では今、ラーメンの「高級化」が加速しています。国内企業がニューヨークやロンドンなどの大都市に運営する店舗では、一杯3000円を超えることも珍しくありません。
澄川さん:大手チェーンが海外で成功を収めているのは素晴らしいことです。でも、高額ゆえに一部の裕福な方しか味わえないものになってしまっているのではないでしょうか。私の使命は、誰もがいつでも食べられる「日常の一杯」を提供することです。
「はかたや」で構築した、一杯290円でも利益が出せる低価格高品質なビジネスモデルは、国内の他地域はもちろん、将来的には海外でも通用すると確信しています。ただし、私が狙うのは欧米ではなく、東南アジアに代表される発展途上国です。現地の誰もが気軽に立ち寄れる「当たり前のファストフード」のひとつとして海外に根付かせ、食文化を変えていきたいのです。
そうした考えで日本食を提供している企業はほとんど見当たらず、まだ誰も手を差し伸べていない場所です。ビジネスとしても、大きなチャンスなのは間違いないですよ。
「人手不足の穴埋め」ではない。学びに来た弟子の将来見据え
── 東南アジアへの進出。その大きな足掛かりとなるのが、今お店で働いている外国人スタッフの存在だそうですね。
澄川さん:はい。「はかたや」ではベトナムやネパールといった国々のスタッフが多数働いています。彼らは非常に優秀で、仕事の飲み込みも早い。生産性が高いわけです。一杯290円のラーメンを実現できているのは、優秀な外国人スタッフの存在があってこそなんです。
でも、彼らを単なる「人手不足を補うための労働力」だと思ったことは一度もありません。彼らは大きな夢を持って日本に来た若者たちです。私は彼らに、ラーメン作りのノウハウや経営の仕組みを惜しみなく教えます。
── それは、彼らが母国に帰ったあとのことまで見据えて?
澄川さん:その通りです。うちで手に職をつけた彼らが、いつか自国に帰り、「はかたや」の暖簾(のれん)を掲げてお店を開く。現地の雇用を生み、現地の暮らしを豊かにしていく。彼らの自立を後押しすることで、結果として「290円の仕組み」が世界へ広がっていく。そんなウィンウィンの関係がベストだと思っています。
290円のラーメンが、誰かの人生の「一歩」を支える
──「誰もが安く食べられる」という仕組みが、巡り巡って世界の貧困や課題を救うことにつながる、と。
澄川さん:私が海外展開でベンチマークにしているのは、イタリアンの「サイゼリヤ」さんです。彼らが中国や東南アジアなど海外に挑戦したのは、「一部の層に占有されているイタリア料理を、多くの人が楽しめるように変えたい」という想いからだったようです。その姿勢に深く共感します。
東南アジアには、まだ貧困な暮らしを余儀なくされている人たちがいます。「はかたや」のラーメンが、現地の日常食として広まり、人々の生活を少しでも底上げできれば…。地域に住む人たちの毎日を豊かにするのが、チェーンストアの存在意義ですから。
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「単なる労働力ではなく、夢を持ってきた弟子」。 澄川社長が教え込んでいるのは、ラーメンの技術以上に、一杯の丼から未来を切り拓けるという「希望」そのものなのかもしれません。
私たちが何気なく口にしている「安くて美味しい」の裏側には、誰かの情熱や、遠い国へと続く夢が溶け込んでいます。 今日、あなたが受け取ったその一皿の向こう側に、どんな人の「一生懸命」が隠れているか。次に暖簾をくぐるときは、少しだけ想像してみませんか。
取材・文:百瀬康司 写真:博多ラーメン はかたや

