イラン情勢について演説するトランプ米大統領(2026年4月2日、写真:ロイター=共同通信社)


 2月28日にアメリカとイスラエルがイランに全面攻撃を仕掛けてから、1カ月余りが過ぎた。

 アメリカのトランプ大統領は、「4〜5週間以上続く」と想定した当初の作戦期間を、「予定を大幅に前倒しできる」(3月9日米CBSテレビのインタビュー)と豪語したが、その楽観論も急速に冷めている。

攻撃を受けたレバノン首都ベイルートの建物(2026年3月31日、写真:共同通信社)


 そして、4月2日に行った国民向け演説では「今後2〜3週間、イランを非常に激しく攻撃する」と強硬姿勢を打ち出した。戦争終結を急ぎたいのか、それともなお軍事的圧力を強めるのか。トランプ氏のメッセージは揺れている。

 イランの最高指導者ハメネイ師を殺害すれば反米政権が大きく揺らぐ、とのトランプ氏の安易な読みは外れ、少なくとも現時点で体制崩壊には至っていない。反米政権はいまだ強固だ。

 逆に原油・LNG(液化天然ガス)のタンカー輸送を行う大動脈・ホルムズ海峡が、イランにより事実上封鎖されるという“返り討ち”に遭う始末で、トランプ氏はガソリン価格に極めて敏感なクルマ社会の米国民から反発を浴びている。現在、原油価格の上昇やガソリン高を通じて、アメリカ経済と世界経済への打撃がますます強くなっている。

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揺れるトランプの真意、ちらつく地上作戦という“奥の手”

 トランプ氏は、戦略目標が「ほぼ達成されつつある」と主張しつつ、どの時点で、どのように軍事関与を縮小するのかについては明確にしていない。早期の幕引きを模索しているようにも見えるが、その一方で、より有利な条件で戦争を終えるため、なお圧力を強める構えも崩していない。

 このまま引き下がれば、トランプ氏が最も嫌う「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも尻込みする )」の大合唱が全米で吹き荒れかねない。

 もっとも、トランプ氏は日々コロコロと言動を変えるため、「早期の幕引き」もすぐに翻しかねず、あまりアテにならない。これまでの心変わりを考えれば、ホルムズ海峡の事実上の封鎖解除や、石油に頼るイラン経済を揺さぶるため、陸軍や海兵隊による地上作戦を突如強行することもあり得るだろう。

 手詰まり感が拭えない現状に対し、限定的な地上作戦でイランに大きな打撃を与えられれば、国内向けには「強い指導者」を演出でき、11月の米中間選挙で共和党の勝利に大いに貢献できる──とトランプ氏が計算していても不思議ではない。

 3月29日、英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに答えたトランプ氏は、「カーグ島を占領するかもしれないし、しないかもしれない。いとも簡単に占領できそうだ」「(目的は)イランの油田を奪うことだ」と語った。

 これではまさに侵略戦争そのもので、19〜20世紀初めの帝国主義が跋扈した時代の「資源争奪競争」と何ら変わりない。

 事実、3月末までに日本駐留の米海兵隊約1800人を乗せた強襲揚陸艦「トリポリ」が中東地域に到着している。また、米西海岸駐留の米海兵隊約2500人を乗せた強襲揚陸艦「ボクサー」も出帆し、数週間後にはアラビア海に入る模様だ。

強襲揚陸艦「トリポリ」。事実上の軽空母でF-35B垂直離陸ステルス戦闘機も多数搭載する(写真:米海軍ウェブサイトより)


米海兵隊の第31海兵遠征部隊。沖縄に駐留し、強襲揚陸艦「トリポリ」に乗艦して中東に展開(写真:米海兵隊ウェブサイトより)


 陸軍の最精鋭、第82空挺(落下傘)師団の一部約2000人や、陸・海軍の特殊部隊も続々と中東入りを果たしたようで、兵力は総勢7000〜8000人に達し、米国側が軍事オプションの幅を広げていることがうかがえる。さらに1万人増派の可能性を報じるメディアもある。

 トランプ氏が侵攻場所として画策するカーグ島(イラン領)はペルシャ湾最奥部、本土の沖合約30kmの小島だ。超大型タンカー(VLCC)数隻に同時対応できる大規模な石油積み出し施設が置かれ、空港も併設する。

イランの主要石油輸出ターミナルであるカーグ島(ⒸAstronaut Provided/Nasa/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)


 イラン原油の約90%がパイプラインを通じてここから輸出されている。仮にカーグ島を奪取すれば、イランとの停戦交渉で強力な取引材料となり、トランプ氏が夢想する石油支配戦略の有力アイテムにもなる。

タンカーが接岸する岸壁に原油を運ぶパイプライン(カーグ島、写真:共同通信社)


 また、ホルムズ海峡周辺の島々に侵攻するのではないかとの見方もある。海峡入り口の比較的大きなケシュム島を筆頭に、ホルムズ島、ララク島、湾内のアブムサ島、大トンブ・小トンブ両島などが挙げられる。

 イラン軍守備隊を一掃して島を占領し、事実上の海峡封鎖を解除。タンカーの自由航行を確保するとともに、カーグ島攻略をバックアップする米艦艇がペルシャ湾内に進出できるようにする目的があるのかもしれない。

 規模を限定した着上陸作戦で、戦闘機・攻撃機、戦闘ヘリコプターなど空からの強力な支援のもと、オスプレイ垂直離着陸輸送機や輸送ヘリコプター、上陸用舟艇、エア・クッション型揚陸艇(LCAC)、水陸両用装甲車などが島嶼に殺到し、一気に制圧するスタイルを想定している可能性もある。

世界最強の米軍でも楽勝ではない、ドローン時代の上陸戦

 こうした侵攻作戦は世界最強の米軍ならたやすいと思われがちだ。確かに、イランの海・空軍をほぼ壊滅させ、制海権と制空権(航空優勢)の大部分を握る現状なら、一昔前であれば楽勝だったはずだ。

 ところが、2020年代に入りドローン兵器が台頭し、戦場の景色は一変した。制海・制空権を握っても、格安でコストパフォーマンスに勝る「使い捨て」の自爆型無人航空機(UAV)、無人水上艇(USV)、無人水中艇(UUV)が、ゲリラ的にしかも蚊の大群のように襲いかかる飽和攻撃(スウォーム攻撃)を完璧に撃退するのは至難の業だ。

 米軍は味方部隊を守るため、強力・長射程の対空ミサイル(SAM)を多数装備するイージス艦を複数差し向けて、イランが誇るシャヘド大型ドローンを迎撃するだろう。

 イージス艦は高性能のスタンダードSAMを100発前後、垂直発射装置(VLS)に収納するが、1機数十万円〜数百万円のドローンに対し、スタンダードは1発数億円と極めて高価だ。しかも確実に撃墜するためには、1目標に対し2発撃ち込むのが普通である。つまり、ドローン50機程度に対処するのが精いっぱいで、かなり非効率といえる。

 イランにとっては、アメリカに割の合わない戦闘を強いる非対称戦こそが真骨頂である。イージス艦は短距離SAMや対空機関砲、艦砲も装備し、これらによる迎撃も可能だが、あくまでも護身用で、中小型ドローン相手で限定的だろう。

 さらにスタンダードの再装填は、補給艦を横付けにした洋上補給が現状では不可能だ。インド洋の場合、バーレーンが補給の最有力候補だが、補給中にイランからの攻撃を受ける不安は拭えない。このため、数千km以上離れた英領ディエゴガルシア島(米軍の大規模前進基地がある)や、豪州のパース、スエズ運河を抜けたNATO諸国の軍港まで下がらなければならない。

 ミサイルを収納したコンテナを積載した補給艦を友好国の港に停泊させ、イージス艦を横付けし、クレーンを使って補給する“裏ワザ”もあるが、いずれにせよ防空上、イランから数千km離れた港湾となる。

 イージス艦の補給活動も一苦労だが、補給のため戦線離脱する艦と交代するイージス艦も用意しなければならず、隻数のやりくりも大変だ。加えてドローンは近年、ジャミング(電子妨害/妨害電波)への耐性をアップさせ、ウクライナ戦争で進化するFPV(一人称視点)型が急浮上している。

 さらに、入力した画像データに従い、戦場上空で目当ての目標を求めて何時間も滞空し、発見したら突進して自爆する徘徊型兵器(ロイタリング・ミュニション)まで登場している。仮に米軍部隊が島を占拠できたとしても、イランの命中率に優れた長距離ミサイルや、多種多様なドローン攻撃の洗礼を受けることになるだろう。

 迎撃手段としては、対ドローン用のドローンやショットガン、機関銃、さらには実用化一歩手前のマイクロ波兵器やレーザー兵器くらいしかない。

 カーグ島やホルムズ海峡周辺の島嶼はイラン本土からも近いため、無数のドローンが連日連夜急襲し、米軍に多数の死傷者が出る恐れもある。

海軍特殊部隊のSEALS。米軍最強の特殊部隊ともいわれる(写真:米海軍ウェブサイトより)


カーグ島は陽動か、揺れるトランプ発言に透ける“本命”

 カーグ島占領を示唆するトランプ氏だが、その発言自体が“本命”を隠すための陽動ではないかとの見方も出ている。

 同島はイランにとって最重要拠点のため、早くから米軍の侵攻を予見し、籠城して徹底抗戦を図るために、地下トンネルを張り巡らせて要塞化している可能性がある。そして、島の周囲には、上陸作戦阻止のため地雷や仕掛け爆弾、ブービートラップ(わな)を無数に配置しているだろう。

 イラン側の守備隊はすでに最高警戒態勢に入っており、米軍の襲来を手ぐすねを引いて待ち構えていると考えるのが自然だ。

 着上陸してきた米軍部隊をいきなりは迎撃せず、できるだけ多くの敵を内陸へとおびき寄せ、退路を遮断すると同時に包囲し、十字砲火を浴びせて大きな犠牲を強いるというのが軍事のセオリーだ。

米陸軍の第82空挺師団。18時間以内に世界のどこにでも展開可能な緊急展開部隊(写真:米陸軍ウェブサイトより)


 実際、第2次大戦では圧倒的に優勢だった米軍が、硫黄島や沖縄本島の上陸作戦で、この戦法を用いた日本軍により多大な犠牲を出している。

 占領作戦よりも難しいのは、占領した地域を保持することで、占領部隊への食料・弾薬・水を供給し続ける兵站(へいたん:後方支援、ロジスティクス)の構築が不可欠だ。だが、イランの島々は本土から数十kmしか離れていないため、兵站を担う輸送機が飛行場に駐機したり、補給艦・貨物船が桟橋に停泊していたりすると、すぐさまドローンに狙い撃ちされるだろう。

 各種ドローンによる「無人兵站部隊」を本格導入するのでは、との見方もあるが、数千人を維持するだけの物量を間断なくピストン輸送する実力はまだなく、補助的使用にとどまるはずだ。

 加えて、ペルシャ湾の幅は平均200km程度と狭いため、米艦艇はイラン軍が放つUSV、UUVの攻撃に遭う危険性が高い。

 これらを考えると、カーグ島はもちろん、ホルムズ海峡周辺の島々への着上陸作戦の「ほのめかし」は、トランプ政権の巧妙な欺瞞といえるかもしれない。このため、一部では、誰もが考えないような、全く違う場所で上陸作戦を仕掛けるのではないかとも推測されている。

 その1つが、オマーン湾に面したジャースク港で、ホルムズ海峡を通らなくても、イラン原油を輸出できる石油積み出し基地として、イラン政府が整備を進めている。

 ジャースク港は岬のような地形で、外洋にも面しているため、比較的着上陸作戦がしやすく、またイラン政権に対するインパクトも強力ではないかと想定できるが、真相はどうだろうか。

 3月31日、トランプ氏は米CBSの取材に対し「米軍の撤収はまだ準備できてはいない」とコメントしている。CBSはこの発言を踏まえ、海兵隊や第82空挺師団とともに、海軍特殊部隊のSEALSや、陸軍の精鋭・レンジャー部隊も中東に展開しており、トランプ政権は戦争範囲を拡大する可能性を示唆している、と分析する。

訓練する米海軍特殊部隊のSEALS(2004年5月撮影、写真:ゲッティ=共同通信社)


第75レンジャー連隊。米陸軍の精鋭部隊の1つで、通常戦闘と特殊任務の両方をこなせるのが特徴(写真:米陸軍ウェブサイトより)


 しかもトランプ氏の発信は、ここにきて一段と揺れている。3月31日には「2〜3週間で戦争を終えられるかもしれない」と早期収束をにおわせた一方、4月2日に行った国民向け演説では、2〜3週間の間にイランを「石器時代へと逆戻りさせる」ほどの打撃を与えるとまで言い切ったトランプ氏。そこから読み取れるのは、「早く終わらせたい」と「終わるまでは徹底的に打つ」を同時に発していることだ。

 これは、早期撤収に向けた地ならしというより、軍事的圧力を最大化したうえで、より有利な条件で幕引きを図ろうとするシグナルと見るべきだろう。もっとも、その圧力強化が限定的な航空・ミサイル攻撃にとどまるのか、あるいは地上戦オプションの誇示まで含むのかは、なお見極めが必要だ。

 トランプ氏の“奥の手”は、相手を屈服させる切り札というより、自らも飲み込まれかねない危ういカードともいえる。

筆者:深川 孝行