森保監督はなぜ“残り20分”守りに徹したのか。イングランド戦の良好な流れを分断した指揮官の逃げ腰采配
約70分間、日本は理想的な試合運びで勝利へ向かっていた。
「良い守備から良い攻撃」を掲げるチームの指針に則り、プレッシングで圧力をかけ、ボールを奪うと鋭いカウンターを仕掛け続けた。先制ゴールも、中村敬斗のパスが嫌な奪われ方をした直後に、三笘薫がプレスバックしてコール・パーマーから奪い返し、流麗な攻撃を結実させている。
試合前からイングランドへの勝算は小さくなかった。対戦相手としての相性は決して悪くはなく、過去3戦は現在よりはるかに実力差が大きく互いにベストメンバーだったが、2試合が1点差負けで2004年にはマンチェスター・シティのホームスタジアムで堂々と分けている。
今回、イングランドは連戦で戦力を分散し、ハリー・ケインもジュード・ベリンガムも不在。トーマス・トゥヘル監督は苦肉の策として、実質ゼロトップを採用し、パーマーとフィル・フォーデンが中盤深めの位置まで下がり構築に参加してきたので、本来両翼のアンソニー・ゴードンとモーガン・ロジャーズは前方の空いたスペースへ飛び出そうと内側にポジションを取り、前半はあまり幅を活かせず日本に脅威を与えるに至らなかった。
イングランドにボールを持たれても、日本は一切動揺もなく個々が落ち着き払ってプレーしていた。上田は完璧とまではいかなくても十分に起点になり、プレミアで戦う三笘と鎌田大地は自信に満ちて違いを表現し、佐野海舟はことごとく危険な芽を摘み取る。
渡辺剛はコンパクトゾーンの中で早めに厳しい潰しを心掛け、伊藤洋輝もレフティならではの特性を活かし、鈴木彩艶は日本で唯一無二のハイボールの安定とロングキックで多大に貢献。攻守に目覚ましい働きを見せた中村は、適正クラブへのステップアップをアピールできたに違いない。
ところが72分、森保一監督の采配で日本の良好な流れは完全に分断された。
攻撃のキーマンとしてシャドーでプレーしてきた三笘を下げて、DFの鈴木淳之介をウイングバックに起用。同時に右ウイングバックの堂安律を下げて、田中碧をボランチに組み込む。
明らかに意識は5バックで逃げ切りへと傾いた。イングランドが、後半に入りドミニク・ソランケを送り込み、中央にターゲットを用意してワイドからの攻撃を仕掛け始めたタイミングだったこともあり、日本は守勢一辺倒に回った。
残り約20分間、日本は古典的な守備練習のように、イングランドの攻撃をはね返し続けた。イングランドは後半だけで16本のクロスを送り込み、ペナルティエリア内から10本のシュートを浴びせている。マーカス・ラッシュフォードのシュートがGKの正面を突き、至近距離からフリーで放ったロジャーズが枠を外したのは幸運でしかなかった。
日本は伝統ある古豪ではない。少なくともワールドカップで「優勝を目ざす」と公言するなら、どんな試合でも1分も無駄にせず、チャレンジし成長し続ける必要がある。そしてチャレンジャーを指揮する監督に求められるのは、常に選手たちの長所を最大限に引き出すビジョンと姿勢だ。
歴史を俯瞰すれば、日本は五輪で何度かの奇跡を繰り返してきた。1936年ベルリン大会ではスウェーデン、64年東京大会ではアルゼンチン、96年アトランタ大会ではブラジルに勝ったが、その都度話題は提供しても必ずしも大きな飛躍には繋がらなかった。
20分間も守りに徹して、もし逃げ切りに失敗すれば、待っているのは後悔だけだ。それにテストマッチ終盤でなりふり構わずハリー・マグワイアを最前線に上げてパワープレーに走ったトゥヘル采配もどうかとは思うが、例えば本大会で戦うオランダならもっと強烈な空中戦を仕掛けてくる。
最大の収穫は、早めに守りを固めて逃げ切ろうとする消極策が、いかに不毛かを確認できたことだったかもしれない。
文●加部究(スポーツライター)
【画像】日本代表のイングランド戦出場18選手&監督の採点を一挙紹介!最高点は鮮烈決勝弾の7番と圧巻プレー連発のボランチ
