わが子の「ハレの日」の着物はマナー違反なのか…卒業式の親の着物姿に批判が相次いだ

写真拡大

 卒業式や入学式という、華やかな「ハレの日」のシーズン。SNS上では今、保護者の装いを巡る議論がたびたび白熱している。なかでも、着物で参列した母親が「Threads(スレッズ)」などにその姿を投稿すると、たちまちバッシングの標的になるケースが後を絶たない。

***

【写真を見る】「人前で服薬はNG」「ビデオ会議の退出は上司優先」…マナー講師もビックリの珍マナー続出

 その内容は「子どもが主役なのに親が目立ちすぎ」「一人だけ張り切りすぎ」「場をわきまえていない」といった手厳しい声から、着付けの乱れや格を細かく指摘する、いわゆる“着物警察”からの批判まで多岐にわたる。

 なぜ、日本の伝統正装であるはずの着物が、これほどまでに風当たりが強いものとなってしまうのか。

わが子の「ハレの日」の着物はマナー違反なのか…卒業式の親の着物姿に批判が相次いだ

「子どもの卒入学式に親が着物を着ることは、マナー違反ではありません」

 とは、マナー講師の西出ひろ子氏だ。同じく着物での卒入学式出席を奨励する着物情報サイト運営者の話を元に、この不毛な論争の背景を読み解きたい。

時代と共に変わる式典の装い

 そもそも、かつての式典における母親の装いは、現在とは少し異なるものだった。

「昭和30年代から50年頃までは、色無地や小紋の上に黒の羽織を重ねるスタイルが一般的でした。黒い羽織には、華やかな色味を落ち着かせ、同時に格式を上げるという役割があったのです」

 そう教えてくれたのは、情報サイト「着物ライフスタイル」の栗秋氏。黒羽織は、たとえ式服にふさわしい着物や帯を持っていなくとも、羽織るだけで落ち着きある、式にふさわしい装いになれる便利アイテムだったため、大流行したそう。

 それが昭和50年代以降は、羽織を重ねない「訪問着」へとシフトしていった。

 現代では着物を着る人自体が激減したため、たとえ控えめな色や柄を選んだとしても、着物姿というだけで周囲の洋装から浮いて見えてしまうのかもしれない、と栗秋氏は分析する。

 この、着物姿の希少性ゆえの目立ちが、一部の層には「主役である子どもを食っている」と映り、いわれなき批判の火種となっているようだ。

「子どもの節目である式典に着物を着るのは伝統的な文化で、批判されるようなことではない。ただし選び方をまちがえると、それは悪目立ちになるでしょう」(栗秋氏)

 正しい着物選びを教わった。

賢く着こなす「失敗しない」着物選び

 失敗しないための着物選びには、伝統的なマナーと現代の空気感をバランスよく取り入れることが大切、と栗秋氏。まず基本となるのが、式典にふさわしい着物の種類(格)を正しく選ぶことだ。卒入学式において最も万能で「間違いない」とされるのは、訪問着や付け下げ。

「特に訪問着は、フォーマルな場にふさわしい品格がありつつも、色留袖や黒留袖ほど仰々しくなりすぎないため、保護者の装いとして最も適しています」(栗秋氏)

「浴衣は論外として、カジュアルとされる小紋や紬も式典には控えるほうが無難です。ただし、小紋でも遠目からは無地に見える柄の細かい江戸小紋は、紋入りだと格が上がると言われています」

 と教えてくれたのは、前出のマナー講師・西出氏。

「大切なのはTPOに合わせた格選び。色味を抑えた訪問着などを選び、着崩れないよう美しく着こなしていれば、堂々と参列してよいのです」(西出氏)

 気になる色や柄の選び方に関しては。

「ラメ感の強いものやキラキラしすぎたものはやりすぎかもしれません。若干、地味目のものを選ぶと安心です。黒や濃い紫などの強い色も避けて。昔からピンクやブルーなどは定番ですし、色で『これじゃなきゃダメ』という決まりはありません。派手に感じる場合は、羽織を組み合わせて全体を落ち着かせるのも手です」 (栗秋氏)

 また、意外と見落としがちなのが、小物やヘアスタイルのまとめ方だ。

「着物自体が華やかであるため、アクセサリーや大きな髪飾りは控えめにし、ワンポイント程度に留めるのが上品に見せるコツです」(栗秋氏)

 式典はあくまで子どもが主役の場であることを念頭に置き、過度な露出や奇抜なスタイルを避けて、トータルバランスを整えることが、結果として周囲からも肯定的に見られる着こなしに繋がる。

「卒業式と入学式で着物を分けるべきか悩まれる方も多いですが、基本的には同じ着物で通して全く問題ありません。もし変化をつけたいのであれば、帯や帯締め、帯揚げといった小物を変えるといいでしょう」(同前)

マナーのプロが説く、批判の背景

 現在のSNSでの叩き合いに対し、マナーの専門家である西出氏は「マナーの本質とは、相手の立場に立ち、お互いがプラスになること。SNSでマイナスな言葉が飛び交うのは残念」と警鐘を鳴らす。

 西出氏によれば、服装にもマナーがあるように、言葉の伝え方にもマナーがあるという。

「相手のためを思ったアドバイスであっても、相手を傷つけるような言い方では本末転倒です。一方で、着る側にも一定の配慮は求められます。“絶対にこうでなければいけない”ということはありませんが、“周囲に合わせる”ことも大切なマナーの一つ。あまりに周囲から浮いてしまうリスクを避けたいのであれば、式典当日は洋装を選び、記念写真は別途着物で撮るといった選択肢もありだと思います」

 近年では「紺やグレーのダークスーツでの参列」が暗黙の了解になっている私立の学校や地域もある。

「学校側から推奨されているスタイルがあるのであれば、それに従うと安心ですね。特に入学式は、これからその学校でお世話になる第一歩。周囲との調和を意識することは大事だと思います」(西出氏)

 地域や学校によってカラーは異なるため、迷ったときは先輩ママなどに相談してみるのも一つの手。そして、何より忘れてはならないのが「お子さんがどう思うか」という視点だと西出氏は続ける。

「自分の装いによって子どもが周囲から何か言われたり、嫌な思いをしたりしないか。主役であるお子さんの気持ちを最優先に考え、家族で後悔のない選択をすることが、親としてのマナーといえるでしょう」

現実には9割は肯定的か

 SNSでは声の大きい批判ばかりが目立つが、現実は少し異なるという。

SNSでは批判を口にする人は一定数いますが、実際の現場で面と向かって批判されることはまずありません。むしろ9割以上の方は肯定的に見ていると思います。批判を恐れずに、自信を持って着てほしいですね」(栗秋氏)

 着物は日本の民族衣装であり、人生の節目を彩る素晴らしい文化。一部の層による過度な「着物警察」的な論調や、それに対する過剰な反応は、結果として着物文化そのものを衰退させかねない。

 SNSでの見えない刃に怯えて、大切なハレの日の装いを諦めてしまうのはあまりに惜しいこと。マナーを守り、周囲や家族への最低限の配慮を済ませたなら、あとは自信を持って、一生に一度のお祝いを家族で楽しんでみてはいかがだろうか。

西出ひろ子
マナー講師、解説者。大学卒業後、国会議員等の秘書を経てマナー講師として独立。英国での起業や社交界での経験も有する、日本におけるマナー講師の第一人者。企業研修や講師育成に尽力する傍ら、著書・監修書籍は累計100冊を超え、メディア出演も多数。

着物ライフスタイル
創業50年の老舗貸衣裳店が作ったネットレンタル専門店「レンタル衣裳マイセレクト」が運営する着物にまつわる情報を発信するサイト

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部