都内タワマンに家賃を支払わずに住む「原発避難者」 福島県との訴訟に「最高裁判決」、それぞれの言い分
2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災から15年になる。この年に生まれた子どもは今、高校1年生か中学3年生だ。それゆえ読売新聞が2月上旬に行った世論調査では、被災地に対する関心が薄れていると「感じる」と答えた人が79%にものぼった。ところが、東京・江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」に自主避難した住民と退去を求める福島県との争いは今も続いている。
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デイリー新潮は3月11日がやってくると東雲住宅を巡る問題について報じてきた。そして今年1月9日、東雲住宅を巡る最高裁の判決が初めて下された。

15年前の震災時、災害救助法に基づいて避難者に無償提供された建物の一つが、36階建ての新築タワマン公務員宿舎・東雲住宅だった。東京都が財務省から無償で借り受け、福島第一原子力発電所周辺の被災者を中心に福島県を通じて提供された。最大時には357世帯、約1000人が移り住んだ。
無償期間は2017年3月末で打ち切られることになっていたが、それ以降は国家公務員と同額の家賃を支払うことで2年間の猶予期間が設けられた。もっとも、家賃とは言っても国家公務員宿舎であるから、1LDKで1万7000円、3LDKでも5万9000円と、タワマンが立ち並ぶ江東区のみならず都内でも破格の安さだった。そして、期限を越えた場合は家賃の2倍に相当する損害金を支払うことも約束されていた。
ほとんどの住民が猶予期限の前に立ち退いたが、その後も約80世帯が住み続けた。福島県は約束どおり損害金を求めたが、それでもまだ半数の約40世帯が残った。そのうち5世帯は猶予期間の家賃の支払いすら拒んでいた。つまり1円も払っていなかったのだ。その家賃を肩代わりしてきたのが福島県だった。それらは県民の税金である。そのため20年3月、福島県はこの5世帯を相手取って提訴に及んだ。
当時、県生活拠点課はデイリー新潮の取材にこう答えている。
4世帯を提訴したが
《「19年9月期の県議会で提訴の議案は可決されましたが、その後も住民に対し説得を続け、年末には5世帯にも会うことができました。そこで、1世帯は自主的に退去されました。自ら移転先を見つけ、東京から転出されています。損害金についても毎月滞りなく納めてくれています。残る4世帯については明け渡しに応じていただけなかったため、提訴ということになったのです」》(「福島県は提訴 東京のタワマンにタダで住み続ける原発避難民はどうなった?」2021年3月11日配信)
県は4世帯を提訴したが、2世帯とは和解する。福島地裁は残る2世帯に対して宿舎退去と損害賠償の支払いを命じた。これに納得しない2世帯は24年1月に仙台高裁に控訴したが、ここでも福島県側の主張が認められた。朝日新聞はこう報じている。
《高裁は控訴審判決で、「無償使用の継続を許さない限り、生存権が保障されないかのような避難者側の主張は採用できない」と認定。「県は住宅の供与に代わる支援措置を設けている」とも指摘し、一審の判断を支持した》(朝日新聞:24年1月16日)
そして2世帯は最高裁に上告したのである。生活拠点課の担当者は言う。
「2世帯のうち1世帯については上告不受理となり、高裁判決が確定しました。残る1世帯についての判決が今年1月のものでした」
異例の反対意見
判決の主文は《本件上告を棄却する》というものだった。つまり、一、二審と同様、福島県の主張が通り、退去と家賃相当分の賠償を命じる判決が確定したのだ。
ただし、全25ページある判決文の後半16ページは、4人いる裁判官のうちの1人、三浦守裁判長からの反対意見だった。最高裁第二小法廷で「上告を棄却する」と読み上げたのは三浦裁判長だったが、その判決に反対意見を述べたのも裁判長というのは異例の事態である。
反対意見の冒頭は以下の通りだ。
《私は、多数意見と異なり、被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、原判決中、被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当と考える。また、仮に、被上告人が上記原告適格を有するとしても、原審の判断には、災害救助法等の法令の解釈適用を誤った結果、必要な審理を尽くさなかった違法があり、これは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中、上記建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分について事件を原裁判所に差し戻すのが相当である》
一体、どういうことなのか。上告した1世帯(50代女性)の代理人のひとり大口昭彦弁護士に聞いた。
訴える資格がない
「この裁判の問題点の一つが原告適格です。今回、福島県が原告となって住民を訴えたわけですが、東雲住宅は福島県の持ち物ではありません。当事者は財務省ですから、日本国家の持ち物なんです。不法占拠を訴えるなら、建物の所有者が行うのが原則です」(大口弁護士)
本来なら国が住民を訴えるべきということだ。
「直接的には財務省になると思いますが、福島県が訴えたことには根本的な問題が残ると思います。そこをツッコまれると、福島県は東雲住宅を日本国から借りて避難者に貸したという立場であるから、本来、国が持っているはずの追い出し請求権を代理できる、つまり、債権者代位権を行使していると主張してきました」(大口弁護士)
一審も二審も、そして最終的には最高裁も、それを認めた格好だ。
「それを三浦裁判長は、認められない、差し戻すべきとまで言っているわけです。当然の正論です。高く評価されるべきです」(大口弁護士)
そして裁判長は、原発事故被災者の救済のあり方にも踏み込んだ。
「反対意見では《被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる》と避難者の居住権を位置づけています。東雲住宅の問題を人権問題として据えているわけです。今回、福島県が訴えた方は、いずれも福島県民です。県は本来、地方自治体として、県民の福祉を実現する責任があると思います。それをせずに、原発から20キロ圏内かそうでないか、行政が引いた線の内側か外側かを基準にして自主避難者を訴えるというのは、行政の裁量権を大きく逸脱していると思います」(大口弁護士)
上告した50代女性は現在、都内でホテルのサービス業に従事。生活支援のヘルパーの助けも借りながら生活しているという。
まだ7世帯
住民を訴える資格、原告適格がないというと反対意見の指摘を、福島県はどう考えているのか。前出の県生活拠点課の担当者は言う。
「県としては一審から適格があることを訴えており、最高裁でも3人の裁判官が支持するとのことで、上告棄却の判決になったと考えております。そのため、反対意見について県から述べることはありません」(生活拠点課)
上告を棄却された50代女性は震災時、南相馬市に居住していた。南相馬は県内でも被害が最も大きかったところである。それには同情を禁じ得ないが、
「震災後に苦労したのは被告の50代女性ばかりではありません。反対意見の中には、無償期間が切れる17年3月までに除染特別地域や汚染状況重点調査地域の指定を解除したのは県内5町村にとどまるため、避難の継続に《合理的な根拠がある》との指摘がありました。一つのご意見としては承りますが、反対意見で《汚染が著しい》とあった福島市に私も居住しておりますし……受け止め方は人によるかもしれません」(生活拠点課)
そして担当者は、福島県に戻れと強要したわけではなく、東雲住宅からの退去を申し入れてきたが受け入れてもらえなかったため裁判となったと主張する。
「国家財産に無償で住み続けることができるわけでもありません。福島県では復興公営住宅の対象を自主避難者にも広げて応募を受け付けています。退去するための物件探しなどの相談にも乗っております。移転サポートなども利用していただきたいのですが……」(生活拠点課)
現在、東雲住宅の入居者はどうなっているのだろう。
「7世帯が入居されています。いずれの方にも退去を求めています」(生活拠点課)
デイリー新潮編集部
