沈黙の先にある「自分の軸」――Sadie・亜季 言葉を慎み、軽さを拒む信条
3月18日、東京・Zepp新宿で結成21周年記念ワンマンライブを開催するSadie。その節目を前に、スポニチアネックスの単独インタビューに応じたベーシスト・亜季は、バンドマンを志した原点や立ちはだかった“壁”、そしてそれとの向き合い方を丁寧に語った。中でも印象に残ったのは、“言葉”について尋ねた瞬間に訪れた長い沈黙だ。簡単な答えを置かない姿勢が、その間合いににじんでいた。(ヴィジュアル系特集取材班)
原点は、映像で観たX JAPAN(当時X)のライブ。激しい演奏の果てに流れた「Endless Rain」のピアノに衝撃を受けた。
「あんなに激しいのに、最後はピアノのバラードなんだって。じゃあ自分もバンドできるかもって思えた」。幼少期からピアノに親しみ、キーボードでの参加を望んだが枠は埋まっていた。空いていたのはベース。「ピアノ弾けるならベースも弾けるよ」という無責任な一言を真に受けたことが、今につながる。
「最初はベースを極めようなんて思ってなかった。バンドがしたかった。そのためのツールだった時期のほうが長かった」
だが壁にぶつかる。ピアノは一人で完結するが、バンドはクリック(一定のテンポを刻む音)に合わせ、人と呼吸をそろえる必要がある。
「全然合わねえって(笑)。人に合わせたことがなかったから」
それでもリズムの奥深さに気づいた。「グルーヴにたどり着くまで時間はかかりました。でも今は、ベースでよかったって胸を張って言えます」
苦しさや悔しさをどう乗り越えてきたのか。問いかけると、視線を落とし、自分の内側を探る時間が流れた。
「……自分の軸を持つことかな」
即答ではない。その言葉は選び抜かれていた。理想の音に届かないこともある。それでも悔しさより課題があることの楽しさが勝る。「課題がなくなったらどうするんだろうって、不安のほうが大きいかも」
さらに続ける。
「比べると感情が生まれる。嫉妬とか羨望とか。その感情で判断すると、後で疑問が残る気がする」。感情は波のようなもの。高まり、やがて静まる。だからこそフラットでいたい。「人間なんで難しいですけど。でも心がけてはいます。特にベースだからかもしれない」。前に出過ぎず、全体を支える低音。その役割は生き方にも重なる。
そして「座右の銘」を尋ねた時だった。再び言葉が止まった。考え、止まり、また考える。1分近い沈黙…時間をかけて口を開いた。
「一番悩んだ質問で…。座右の銘は基本的になくて。言葉自体が好きじゃないのかもしれない」。インタビューでは語るが、SNSは積極的ではない。「言葉に対して不安や抵抗がある。トラブルって、だいたい言葉から生まれるじゃないですか」
流行りのフレーズに乗ることもできる。だが、そこに自分の本質はないと感じている。「軽々しいのが多いなって思うんです。1年前は言ってなかった人が、1年後にはその言葉を使ってたりする。それが言語の面白さなんだろうけど、僕の中にはないのかなって」
そして少し笑って、最後、結論とも仮置きともつかない言葉を口にした。「じゃあ(座右の銘は)“口は災いの元”なのかなあ。余計なことをしゃべらない…。とりあえず今日は、そんな結論にしておきましょう」
整い過ぎた答えを置かない。その姿勢こそが誠実さだろう。
来るZepp Shinjuku。多くを語らない男は低音で語る。流行ではなく自分の軸で鳴らす一音。結成21周年のステージに響くそのベースラインは、熟考の時間を経て選び取られた生き方そのものなのかもしれない。
