仕事でわからないことがあっても相談してこず、自己判断で進めてしまう部下は、どう指導したらいいのか。臨床心理士の中島美鈴さんは「部下が情報の『入力』『処理』『出力』のうちどのプロセスでつまずいているのか、仮説を立てたうえでヒアリングすることで、効果的な改善策を見つけることができる」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、中島美鈴『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)の一部を再編集したものです。 

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■部下にどう伝えて注意すればいいのか

40代会社員のツバサさん。部下のことで悩んでいます。部下はなぜか仕事でわからないことをツバサさんに確認せずに、自己判断で進めてしまうところがあります。
取引先からの電話でそれを知って、青ざめることもあります。部下にどう伝え、どう注意すればよいでしょう。

「わからなかったらなんでも聞いて」とあれほど言っておいたのに、何にも聞かずに自己判断で仕事を進める部下に困っていませんか。一方で、自分で全く考えずになんでもかんでも、「ちょっといいですか」と質問してきて、こちらが仕事にならないという部下もいます。

管理職になると、自分の仕事以上に、マネジメントの負荷がかかります。そのぐらい誰かをマネジメントするのは大変なことです。自己判断してしまう部下を、マイクロマネジメントして、四六時中管理するわけにもいきません。パワハラにならないように気遣いながら、どう接したらよいのでしょうか。

これは上司と部下というだけでなく、「どうも話が伝わらない」と思った時にも応用できるテクニックです。

相談の要点
・部下が自己判断して勝手に仕事を進めてしまう
・部下をどう指導していいかわからない

■どのプロセスでつまずいているのか

物事の捉え方(認知)や対処の仕方(行動)を見直す、認知行動療法では、カウンセリングの際に、まずアセスメント(客観的にみて判断・評価すること)をしてから、その人の「ここがうまくいっていない」というところを見つけ、介入していきます。ここでは、その手法を活かします。

人間の一連の思考の流れを「情報処理モデル」という見方で見ていきます。情報処理モデルとは、人の認知を「情報の入力→処理→出力」という三つのプロセスで捉えたものです。処理には、判断、推理、意思決定などが含まれています。今回の状況をこの三つのプロセスで分解してみます。

入力 上司から仕事の指示があった
↓
処理 自分なりに考えたがわからず、上司に確認しようとした
↓
出力 上司に確認した

三つのプロセスすべてが滞りなくできていれば、部下が自分勝手に判断することはないわけです。このどこかが抜け落ちていると、質問しない、あるいはできない、ということになります。

ツバサさんは、部下にヒアリングして、どのプロセスに支障が出ているのかを聞く必要があります。

■仮説を立ててからヒアリングする

各プロセスで起こりうるトラブルについて仮説を立ててから、ヒアリングすることをおすすめします。

仮説1 入力のプロセスで何か支障があった

部下は、そもそも指示受けの時点でよく聞き取れていなかった、記憶できていなかった。

仮説2 処理のプロセスで何か支障があった

部下は、仕事の裁量権は上司や会社でなく自分にあると思い込んでいる。だから聞く必要はないと思っていた。

仮説3 出力のプロセスで何か支障があった

部下は、上司に質問するタイミングがわからなかった。メールや電話での敬語が苦手だった。忙しそうで気を遣った。

このように、ある程度仮説を立ててから、部下にヒアリングしてみましょう。相手が責められているようなやりとりを避けられます。情報処理モデルの枠組みを示して、「どこでつまずいているんだろう」と持ちかけることで、部下とのズレもなくなります。

ここで、管理職のみなさんに注意です。部下にヒアリングする際に、必要以上に介入しないようにしてください。上司はカウンセラーではありません。このようなモデルを示したり、ヒアリングするのはあくまで職務を遂行するためです。業務と関係ない悩みを聞いたり、あるいは、プライベートなことを聞くことはやめましょう。

■プレッシャーを与える聞き方はしない

では、ツバサさんと部下のカウンセリングを見ていきましょう。前提として、相手にプレッシャーを与えるような聞き方は避けましょう。

避けたい対応 「なんで確認しないの?」
おすすめの対応 (情報処理プロセスを提示し)「どのプロセスでつまずいた? それに応じて対策を考えよう」

こう言いながら、仮説を示して、イエス/ノーで答えられるようにしましょう。

■テクニック①認知スタイルを知る

もし、入力のプロセスでつまずいている場合には、部下にとって入力しやすい「感覚」(耳、目、実際にやってみること)を通した指示を与えるようにするといいでしょう。この個人差を認知スタイルと呼んでいて、視覚型、聴覚型、体得型に分かれます。

■「視覚型」「聴覚型」「体得型」

次のチェックリストにいくつ当てはまりますか? 最もチェックの多いものがあなたの得意な認知スタイルになります。

視覚型
□ 議事録やホワイトボードの図解があると理解しやすい
□ マニュアルや資料を読み込んでから行動するのが安心
□ 相手の服装や身振り、会議室のレイアウトなどをよく覚えている
聴覚型
□ 会議や打ち合わせで口頭で説明を受けると頭に入りやすい
□ 電話や音声メッセージのほうがコミュニケーションしやすい
□ 自分の声で説明したり口に出して確認すると理解が深まる
体得型
□ とりあえず手を動かしてやってみることで覚える
□ 現場に足を運んで体感することで状況をつかめる
□ 座って長時間会議をするよりも双方向のディスカッションのほうがよい

部下にヒアリングして、得意な認知スタイルを共有し、その部下にあった方法を用いながら、仕事の指示を出してみましょう。

写真=iStock.com/Laikwunfai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Laikwunfai

■部下に合ったスタイルで指示をする

視覚型の部下なら、口頭指示よりメールや文書での指示が望ましいでしょう。やむを得ず口頭になる時には、メモを取るように促すといいでしょう。

聴覚型の部下なら、マニュアルを読み込むように指示するよりは、研修に参加してもらったり、周囲の人に教えてもらいながら仕事をする方が向いています。

体得型の部下なら、前置きを長々と説明するよりも、実際に手を動かして覚えてもらうとうまくいきます。

部下に相応しい方法で仕事の指示を届けること(入力)を、まずは目指します。

中には、感覚器によっては入力はできても、記憶に残りにくい人もいます。特に視覚型の人が口頭指示、資料を用いないままの商談、画面共有のないままのウェブ会議で重要なことを言われる場面などに直面すると、情報が抜け落ちやすくなります。

写真=iStock.com/liza5450
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■テクニック②説明の仕方を変える

人によっては、仕事の裁量権は上司や会社でなく、この案件は自分が決めてもよい、と思い込んでいる場合もあります。

もし、処理のプロセスでつまずいている場合には、仕事の裁量権について丁寧に説明していくことになるでしょう。一般的な説明で腑に落ちない様子が見られる場合には、その部下が既に経験したことで例示するのがポイントです。

例えば、ゲーム好きの部下に対して、「もしも自分がゲームをする時のように、自分の好きに仕事を進めたらどうなると思いますか」と尋ねてみましょう。仕事はゲームのように、自分の好きな時間に始められるわけではないですし、したくなくてもしないといけないこともあります。自分勝手に決定できないのです。伝え方を工夫すると、部下が理解できるということもあるのです。

■テクニック③「確認の場」を作る

上司からの指示受けがうまくできていたとしても、実行(出力)の段階でうまくいかないこともあります。例えば、このようなことがあるでしょう。

・上司に質問するタイミングがわからなかった
・メールや電話で敬語を使うのが苦手だった
・思っていることを言葉にまとめて話すのが苦手
・上司が忙しそうで気を遣った

こうしてみてみると、コミュニケーションの問題が多くみられますね。コミュニケーション力そのものを上げていく必要はありますが、少し時間がかかります。そこですぐに使える「仕組み」を準備することをおすすめします。

中島美鈴『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)

具体的には、「この仕事をしていて不明点があれば、次のミーティングで聞いてください」というように、仕事の指示を伝える際に、「確認の場」を作るのです。そうすれば、上司の忙しさに気を遣ったり、敬語が苦手という理由でコミュニケーションを避けることがなくなります。

実際、カウンセリングで支援している方々から、定期的なミーティングを持つようになったら、部下とのやりとりにズレがなくなった、効果的だったという声をいただいています。

部下に、これまでに紹介した方法を伝えてみるのもいいでしょう。仕事の指示受けの方法やタスクの分解、問題解決技法などが使えるでしょう。

情報処理モデルを使って、部下がどこでつまずいてしまうのかヒアリングを行ったツバサさん。部下に威圧感を与えずに、ミスを一緒に分析して効果的な対策ができるようになりました。

部下は典型的な視覚型だったので、口頭指示だけでは難しかったこと、質問のタイミングを計りかねていたこともわかったので、仕事の指示は、メールやチャット、場合によってはメモにして渡すようにしました。定期的にミーティングを設けると、部下も安心して質問してくるようになり、自己判断をしなくなりました。

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中島 美鈴(なかしま・みすず)
臨床心理士
福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。
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(臨床心理士 中島 美鈴)