TVドラマでは珍しい競馬ものとして注目されている日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS)。エンタメに詳しいライターの武井保之さんは「JRAが全面協力し、ロケ映像や騎手の出演などがウケているが、そのPRでは終わらない要素も重要だ」という――。
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■秋ドラマ首位、3回連続で視聴率10%超え

セリ鑑定人「2億6000万、2億7000万、2億7000万」
栗須栄治(妻夫木聡)「社長、すでに予算を1億もオーバーしています」
山王耕造(佐藤浩市)「(2億7000万円の提示にコールし、2億9000万円までコール)」
鑑定人「さあ、大台3億円がビットされました、3億1000万円、ございませんか。最強の父を持つ男馬でございます」
栗須「社長、これ以上は……」
山王「(3億1000万円でビット)」

日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS)第3話より

ポジティブもネガティブも含めて話題の多い秋ドラマ。そのなかで視聴率も話題性もトップを走っているのがTBS日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」だ。競馬の世界を舞台に、競走馬の育成とレースに人生をかける人たちの王道の成功物語であり、馬主の秘書を務める主人公は毎話のラストで熱い涙を流すが、それはありがちな熱血ドラマではない。

劇中でもJRA(日本中央競馬会)のG1レースが華やかに盛り上がるが、その裏側にある、地方のサラブレッド生産、育成における現場の苦境をリアルに映しながら、競馬界にエールを送る。そんなドラマを多くの競馬ファンが支持している。

本作の世帯平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、初回11.7%から第2話10.4%、第3話10.3%、第4話9.0%と、放送開始から3週連続で10%台をキープ。11月2日放送の4週目で少し下がったものの、秋ドラマのなかで9%以上を維持するのは、本作と「相棒 season24」くらい。数字でもネットニュースやSNSの話題性でも今期ナンバーワンのドラマになっている。

■競馬事業にこだわる社長を佐藤浩市が怪演

本作は、山本周五郎賞やJRA賞馬事文化賞などを受賞した、早見和真氏の同名小説を原作にする、競馬の世界でひたすら夢を追い続けた熱き大人たちの物語。家族や仲間たちとの絆で、数々の奇跡を起こしていく人と競走馬の20年にわたる壮大なストーリーが描かれる。

主人公は、元大手税理士法人勤務の税理士・栗須栄治(妻夫木聡)。顧客企業・ロイヤルヒューマン社の不採算事業である競馬事業部の実態調査依頼を受けたことから、同社を一代で築き上げた創業社長であり、競馬事業部を取り仕切る山王耕造(佐藤浩市)と出会い、人生が変わる。

彼の人柄と競馬の世界に惹き込まれた栗須は、耕造の選任秘書に転身して競馬の世界に踏み入れ、彼とともに年末のG1レース・有馬記念での勝利を目指す。そこでは、セリ(買い手が競って価格を決める取引)や生産ファームでの競走馬の買い付けから、調教師による厩舎での育成、地方競馬を経て中央競馬のレースへの出走、そして競馬界の最高峰・G1レースへの出場と、ひとつずつステップアップして頂上へたどり着くまでの軌跡が描かれる。

■JRAの全面協力の下競馬の舞台裏を映す

本作の特徴のひとつが、レースにおける出走前からレース後までの競走馬の動きが詳細に映されるほか、パドックやオーナー席などを含めて、実際の競馬場で撮影を行っていること。

加えて、生産牧場やそこでのセリの様子、育成厩舎での調教師のスケジュールや競走馬のトレーニングの模様など、ふだんなかなか見ることができない競馬界の裏側を、JRAの全面協力の下、まるでドキュメンタリーかタイアップ的な映像コンテンツのように、リアルに映し出している。

ときにそこからJRAのPR的な要素を感じないでもないが、視聴者のSNSのリアクションはおおむねポジティブだ。多くの競馬ファンは、華やかな競馬場のあまり陽の当たらない部分や、騎手だけでなく馬主や調教師といった裏方にスポットを当てるドラマになっていることを好意的に捉えているようだ。

写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト
第59回スプリンターズステークス・ウインカーネリアンでレースを制した騎手三浦皇成(中央)、「ザ・ロイヤルファミリー」の出演者・佐藤浩市と松本若菜、2025年9月28日、東京・中山競馬場 - 写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト

■王道の成功物語だがそれだけではない

そんな本作のベースは、どん底から数々の困難を乗り越えて、目標を成し遂げるまでの険しい道のりを描く王道のサクセスストーリーだ。それは日曜劇場枠の定番でもあり、これまでにも、メガバンクを舞台にした「半沢直樹」、メーカーのラグビーチームを描いた「ノーサイド・ゲーム」など、業界や業種を変えながら繰り返し描かれてきた鉄板の人気ジャンルになる。

そんななかで本作が異なるのは、登場人物たちの仕事や人生だけでなく、競走馬という動物の生死がかかる特殊な業界における、人と馬のチームによる勝負の世界を舞台にすること。

競争馬の生産に携わる牧場のスタッフ、育成厩舎の調教師など馬側の人間たちと、レースの勝負とビジネスの理論の世界に生きる馬主は、ひとつのチームでありながら、それぞれの感情と理論のぶつかり合いから、ときに対立もする。いくつもの摩擦や軋轢がありながら、それを乗り越えて一致団結してひとつの目標に向かって進んでいく。そこに競馬の世界を描くドラマならではの熱量が生じる。

栗須は毎話のラストで涙を流す。いまどき珍しいくらい暑苦しいドラマなのだが、同時に人と馬の絆を描く熱いドラマでもあり、視聴者の心にスッと入って感情を揺さぶる力がある。

その作品力には、無愛想で口が悪く偏屈だが実は情に厚い社長・耕造を体現する佐藤浩市の存在が大きく影響している。彼の芝居と圧倒的な存在感を放つ人間的な魅力が、物語に重厚感とリアリティを与える。そして、耕造を支える、実直で真面目な栗須の存在も光っている。気づいたら2人を応援していたという視聴者は多いに違いない。

■第4話でSnow Manの目黒蓮も投入された

本作の人気の要因のなかで、佐藤浩市と妻夫木聡のバディへの愛着や共感は大きいだろう。加えて、第4話からは、ついに目黒蓮(アイドルグループSnow Manのメンバー)が登場した。その役どころはまだ明かされていないが、原作小説の第2部の主人公となる耕造の婚外子と思われる。

ドラマは中盤に差し掛かるが、後半からは目黒演じる耕造の血を引く男が物語の中心になっていくかもしれない。人気と芝居の実力を兼ね備える目黒が、本作の注目度や話題性をさらに上げていくことが期待される。

■JRAの売り上げは4年連続で3兆円超え

競馬はいま売り上げも動員も伸ばしている。JRAの売り上げ金額は、オグリキャップやメジロマックイーン、トウカイテイオーなど伝説のサラブレッドが社会的ブームを巻き起こした1990年代をピークに、2000年代には下降を続けたが、クレジットカードでインターネットから馬券が購入できるようになった2010年代に入って、右肩上がりで回復する。

2021年には、2003年以来となる売り上げ額3兆円を突破し、2024年まで4年連続で前年比増の3兆円超え。“令和の競馬ブーム”とも呼ばれるなか、競馬開催場入場人員は、競馬場や場外馬券売り場が閉鎖されたコロナ禍以降、急回復を遂げており、ネット馬券購入者も含めた総参加人員は2011年以降、コロナ禍を除いて右肩上がりの上昇傾向が続いている。

いま競馬場を訪れると、若い世代が目立つ。過去には少年誌の競馬マンガがブームを生み出していた時期もあるが、2020年代の競馬ファンの増加は、ゲームからアニメになり、イベントなどのメディアミックスで大人気となった「ウマ娘 プリティーダービー」の影響が大きいだろう。現在も同作の漫画を原作にするテレビアニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」(TBS系)が放送中だが、そこを入口に若者層が流入している。

昨今のG1レースの指定席券はネット予約の抽選になり、入手困難なプラチナチケット化しているほか、人気レースは当日入場が制限されるほどの盛況ぶり。2024年の年間競馬開催場入場人員は500万人を超えているが、最近では週末のレジャー的に競馬場で過ごす時間を楽しむ若い世代も増えている。

ちなみに、アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」と「ザ・ロイヤルファミリー」とのコラボから、劇中のロイヤルホープ(耕造が馬主になった競走馬)がアニメキャラクターになったコラボビジュアルが発表されて人気を呼んでいる。アニメとドラマをクロスオーバーさせたTBSの宣伝戦略もドラマ視聴者の裾野を広げている。

JRA企業情報より編集部作成
JRA企業情報より編集部作成

■PR効果だけではなく、競馬界の厳しい現実も

近年の競馬シーンの盛り上がりのなか、いま競馬ファンの多くが「ザ・ロイヤルファミリー」に注目している。その理由は、ただ単に競馬を取り上げるからではなく、競馬界の光と影の現実を映す視点にある。

G1レースをはじめ、JRAの中央競馬が華やかに盛り上がる一方、多くの地方競馬は経営的に厳しい状況にある。とくに競走馬の生産牧場や育成を担う厩舎は、スタッフの高齢化と後継者問題、人材不足による過酷な労働環境などが重なり、存続の危機に直面している中小ファームも少なくない。

そんな現実をドラマはそのまま描いている。第3話では、優れた競走馬を数多く生産し、大規模なセリを開催する大手の北陵ファームと、家族経営で事業継続の危機に瀕するノザキファームが、対照的に映された。

劇中の北陵ファームは、日本最大のサラブレッドオークション「セレクトセール」が開催されるノーザンファームと、ロケ地でもある社台ファームを有する、社台グループがモデルではないかと見られている。一方、ノザキファームは、競走馬の産地として知られる北海道・日高地方の中小の牧場の現実を投影している。

ドラマは、現実と物語をリンクさせて、華やかな競馬界の見えざる裏側を取り上げることで、現状の競馬界の課題を提起しつつ、未来へ向けてエールを送る。そんな姿勢に競馬ファンは好感を得ているようだ。

写真=iStock.com/yasuhisa0914
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yasuhisa0914

■競馬ファンをくすぐるネタ的な仕込み

加えて、ドラマの細かなネタ的な仕込みが、競馬ファンの心をくすぐっている。

劇中では、伝説の名馬の実際の写真や映像が紹介されたり、武豊騎手や戸崎圭太騎手など現役のトップ騎手が本人役で出演するほか、元騎手が競馬場のパドックのシーンで主人公の後ろに映っていたりする。

また、第3話の北陵ファームのシーンでは、ロケ地の社台ファームの副代表・吉田哲哉氏が、施設スタッフとして椎名(沢村一樹)の横に映り込んでいたことがSNSでバズっていた。

競馬ファンの間では、ドラマのクレジットに名前が入る競馬関係者がどこに出演していたかが毎話リアルタイムで話題になる。しっかり探さなければわからないほどのチョイ役が多いが、それがまたいいようだ。ドラマは、競馬ファンのツボをしっかりと押さえている。

■競馬ファン以外にも見てもらえるかが今後の鍵

本作は、王道の成功物語でありながら、前述のようなそれ以外の要素が多く詰め込まれている。そして、それらがリンクし合うことで、ドラマファンも競馬ファンも、一般層も楽しめるドラマになっている。

数億円のサラブレッドを何頭も所有するスーパー富裕層である馬主たちのドラマに、意外にも広く共感が集まっている背景には、現代日本の社会課題にも通じる競馬界の苦境をリアルに映していることがあるだろう。そして、ドラマが送るエールは、競馬界だけでなく、それぞれの人生を必死に生きる我々にも向けられているから、心に響く。

本作には、競馬を取り巻く人たちの息吹があり、彼らを支えるファンを含めたすべての関係者への深い愛情と熱量が宿る。そんな物語だから、自然に視聴者の心を掴んでいくのだろう。

ただ、第4話を観て気になったのは、山王の率いる「ロイヤルファミリー」の馬が勝利するラストが、「そのまま!」と首位で逃げ切るほうか、「させ!」と追い上げるほうかの違いはあったとはいえ、第2話と似たパターンだったこと。レースの勝利も熱い涙も、既視感があるとスッと引いてしまう瞬間がある。そのシーンはこれからも続くこのドラマの肝になるだろう。だからこそ、通り一遍ではない演出が重要になってくることを感じさせられた。

20年にわたる物語は、これからが本番だ。ここから物語が進むに連れて、競馬ファンの支持を軸にして一般層を広く巻き込み、さらに大きく盛り上がっていくことが期待される。

----------
武井 保之(たけい・やすゆき)
ライター
エンターテインメントビジネス・ライター、編集者。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスで活動中。映画、テレビ、音楽、お笑いを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを分析や考察する。
----------

(ライター 武井 保之)