歴史を重ねたからこそ味わい深い雰囲気と名物の味、そしていつもそこにあるコーヒーの香り。時代を生き抜いてきた老舗の喫茶店には、知れば知るほど虜になる物語と魅力が詰まっています。いつものカフェとはちょっぴり違う、そんな唯一無二の名喫茶劇場を体験しに出かけませんか。

時代を越えて銀座で愛される心ときめく名喫茶『トリコロール本店』@銀座

遠くからでも目を引く煉瓦造りの2階建て。重厚な回転扉を前にワクワクそわそわ子供になるのは私だけ?

エレガントな西洋家具、一流レストランさながらの接客……ああ、いつだって特別な気分にさせてくれる憧れの喫茶店、昭和11年創業「トリコロール本店」である。コーヒーの普及を目的に始めた店は銀座の街と共に歩んできた。今も愛されるのはそこに“本物”が息づくからだろう。

コーヒーは注文を受けてから豆を挽き、専門の技術者が独自の方式でネルドリップ。豆の味わいを丁寧に抽出したそれは香りと深みが格別だ。

アンティークブレンドコーヒー1070円、アップルパイ(単品)750円※ケーキとドリンクのセット1670円〜

トリコロール本店』(手前)アンティークブレンドコーヒー 1070円 (奥)アップルパイ 単品/750円 ※ケーキとドリンクのセット 1670円〜 ブレンドは昭和30年代に良質な豆が入っていた頃の味を再現

ケーキ類の人気はアップルパイ。リンゴの皮むきから店で手作り、酸味強めのブレンドとの調和を考えて穏やかな酸味の品種を使うとか。

そう、すべてはコーヒーを楽しむため。そこにも初代の心が息づいている。

トリコロール本店』店長 野崎さん

店長:野崎さん「ブレンドは中南米の標高の高い山で収穫した豆を使ってます」

トリコロール本店』創業当初は1杯15銭のコーヒーやエクレアが人気を集めた。終戦後はいち早く営業を再開して長い列ができたとか。現在の建物は昭和57年築の3代目。写真は暖炉や天窓がある2階の店内

[店名]『トリコロール本店』
[住所]東京都中央区銀座5-9-17
[電話]03-3571-1811
[営業時間]8時〜19時(18時半LO※モーニングは8時〜11時半)
[休日]火
[交通]地下鉄銀座線ほか銀座駅A5・A3出口などから徒歩3分

おいしい名物がある文化と芸術の街の画廊喫茶でひと息を『画廊喫茶ミロ』@御茶ノ水

店名は画家ミロの名前から。昭和30年の創業時は喫茶店に画家の名を付けるのが流行っていたそうで、もともと絵画好きでミロの絵を少しずつ収集していた初代が原画を飾るようになった。

数年前に先代が引退して一時休業していたが、店を愛する支援者らの手により昨年8月に再開。机も椅子も、もちろん10点ほどのミロの作品も、昔のままの雰囲気で迎えてくれる。

創業からある「ミラネーズ」はこれしか食べない人もいるオリジナルだ。バターの風味がふわんと香り、シンプルな塩味だけどまたすぐ食べたくなる魅惑の味。プリンも旬の果物を主役級に添えてくれる粋な計らいにうれしくなる。

ブレンド650円、プリン900円

『画廊喫茶ミロ』(手前)ブレンド 650円 (奥)プリン 900円 自家製プリンは滑らかな食感。フルーツはその日によって変わる

店を贔屓にした文化人なら三島由紀夫。ほぼ毎日通い、事務所代わりに使っていたとか。必ず座った定位置は今もそのまま、伝説の席となっている。

『画廊喫茶ミロ』店長 栗田奈緒子さん

店長:栗田奈緒子さん「タイムスリップしたような時間を楽しんでください」

『画廊喫茶ミロ』落ち着いた店内はミロの作品を展示。再開にあたっては昔の味を守りつつよりおいしくなるよう研究もした

[店名]『画廊喫茶ミロ』
[住所]東京都千代田区神田駿河台2-4-6
[電話]03-3291-3088
[営業時間]日によって変わる※SNSでお知らせ
[休日]日・他不定休
[交通]JR中央線ほか御茶ノ水駅御茶ノ水橋口からすぐ

自慢のコーヒーと飴色の空間を楽しむ街のオアシス『珈琲亭ルアン』@大森

その店にしかない空気感を味わえること。昔ながらといわれる喫茶店の魅力のひとつは、たぶんきっとそこにある。この店もそう。アンティークの調度品やランプなど飴色の空間はレトロという言葉では括れない趣だ。昔はお見合いの席でも使われたんだとか。

メニューを見て驚くのは、とにかくコーヒーのバリエーションが多いこと。それは専門店としての矜持だろう。1杯ずつサイフォンで淹れるブレンド、ミルクとコーヒーを高い位置から注ぐカフェオレ……。軽食は向かいの老舗ベーカリーのパンを使うメニューだけというのも潔い。

ホットサンド(チーズ入り)ハムサラミ570円、スペシャルブレンドコーヒー500円

『珈琲亭ルアン』(手前)ホットサンド(チーズ入り)ハムサラミ 570円 (奥)スペシャルブレンドコーヒー 500円 ハムとチーズを挟んだホットサンドはピザソース味。ブレンドのほかコーヒーはグアテマラなど約10種の豆を使い分ける

脱サラで継いだ2代目の宮沢孝昌さん「真面目に働く姿勢が目に見えない信頼に繋がると思っています」。

地元のおばあちゃんも若いカップルも、同じ空気感を楽しんでいる。これぞ街の名喫茶、大森の宝である。

『珈琲亭ルアン』店主 宮沢孝昌さん

店主:宮沢孝昌さん「おいしかったと喜んでくれるお客様の声が励みになります」

『珈琲亭ルアン』重厚感のある2階の店内。店は昭和46年創業。13時まで提供するモーニングも人気

[店名]『珈琲亭ルアン』
[住所]東京都大田区大森北1-36-2
[電話]03-3761-6077
[営業時間]7時〜19時(18時半LO)、土・日・祝:7時半〜18時(17時半LO)
[休日]水・木
[交通]JR京浜東北線大森駅東口から徒歩3分

味も雰囲気も昔と変わらない純喫茶の魅力『珈琲王城』@上野

かつて「北の玄関口」と呼ばれた上野には多くの純喫茶があった。列車待ちの客や待ち合わせ場所としてのニーズを見込み、初代が駅近に出店したのは昭和50年のこと。古い城をイメージした高貴な装飾は庶民には別世界だったに違いない。そんな往時を想起させる空間と名物の味は今も健在。

厚焼トーストやパフェのグラマラスな容姿を見ればおわかりだろうか、どの料理も量が多めなのは当初からだそう。列車待ちの客が長時間いてもくつろげるようにとの配慮だったが、いやいやこれが半世紀前から?何という斬新さ。

王道はナポリタン。茹でて1日寝かせた麺はもっちりした食感で、自家製トマトソースの大人っぽい酸味にきゅん。

ランチセットメニュー(11時〜15時)自家製ソーススパゲティーセットナポリタン1400円※単品は1200円

『珈琲王城』ランチセットメニュー(11時〜15時)自家製ソーススパゲティーセットナポリタン 1400円 ※単品は1200円 太麺のもっちり感が特徴

3代目の玉山民碩(※民は本来、王に民)さんが店を継いでからはSNSも活用し、変わらぬ昭和の味が令和の若者の心も掴んでいる。

『珈琲王城』3代目オーナー 玉山民碩さん

3代目オーナー:玉山民碩さん「子供の頃から大好きな味を残したいと継ぐ決心をしました」

『珈琲王城』シャンデリアや天井の装飾が目を引く

[店名]『珈琲王城』
[住所]東京都台東区上野6-8-15
[電話]03-3832-2863
[営業時間]8時〜19時
[休日]年末年始、不定休
[交通]JR山手線ほか上野駅広小路口などから徒歩4分

観光客で賑わう浅草にひっそり佇む98年の歴史『珈琲ハトヤ』@浅草

何て控えめな佇まいのサンドイッチだろう。そっとつまめばその指先から伝わるふわふわ感。たった今焼きたての玉子焼きはほんのり温かく、ハムはやや辛子が効いたモダンな味付け。素直においしいなあと思う。正直な味だなあとも思う。

ミックスサンド650円、ブレンドコーヒー450円

『珈琲ハトヤ』(手前)ミックスサンド 650円 (奥)ブレンドコーヒー 450円 地元の老舗「ペリカン」のパンを使う。玉子焼きは塩コショウだけの味付け

ホットケーキだってそうだ。きつね色のてっぺんにバターがひとかけら、それだけ。店主の酒井さん夫妻は「特別な味じゃないんです」とクスッと笑うが、小麦粉は国産、焼くのは丁寧に銅板で1枚ずつ。サンドに使うマヨネーズも手作りだ。

大正時代は軒先でコーヒーや甘味を売り、資金を貯めて昭和2年に店を構えたそう。昔は向かいに劇場があり、浅草芸人や名だたる文士らも通った。そんな歴史ある店を受け継ぐ想いは?

「先代から教わった味をただ守りたくて」。

やっぱり控えめな、夫妻の尊い姿勢だ。

『珈琲ハトヤ』床もモダン。永井荷風やサトウハチローなど多くの著名人が店を贔屓にした

[店名]『珈琲ハトヤ』
[住所]東京都台東区浅草1-23-8
[電話]03-3844-5313
[営業時間]基本10時半〜17時半(17時LO)※日によって変更あり
[休日]不定休
[交通]つくばエクスプレス浅草駅A出口から徒歩3分、地下鉄銀座線ほか浅草駅3番出口から徒歩8分

撮影/浅沼ノア(トリコロール本店、画廊喫茶ミロ)、西崎進也(珈琲亭ルアン、珈琲王城)、谷内啓樹(珈琲ハトヤ)、取材/肥田木奈々

2025年3月号

おとなの週末2025年6月号は「満喫!ニッポンの生ビール

『おとなの週末』2025年6月号
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※2025年3月号発売時点の情報です。

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…つづく「東京の純喫茶「おやつ」6選! ボリュームがたっぷり過ぎるスイーツ」では、ボリュームたっぷりなおやつが揃う純喫茶を実食レポートしています。