『相続探偵』©日本テレビ

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「あんたの遺産は泣かせねえぜ」

参考:赤楚衛二のイメージを更新し続けてきたキャリア 『相続探偵』では“緩急ある演技”に期待

 バシッと決まった台詞、重い前髪の奥に見えるその瞳に心を射抜かれた! 1月25日からスタートした連続ドラマ『相続探偵』(日本テレビ系)。初回の放送から、約45分間、主演・赤楚衛二の表情に魅せられっぱなしだった。

 本作は、相続探偵・灰江七生(赤楚衛二)が個性豊かな仲間と共に、相続にまつわる事件をコミカルに、痛快に、時に大真面目に解き明かすミステリーだ。原作は、『イブニング』(講談社)で連載された原作・西荻弓絵、作画・幾田羊による同名漫画。日本ドラマ史に残る名作『ケイゾク』(TBS系)や『SPEC』シリーズ(TBS系)の生みの親としても知られる西荻自らが脚本を手がける。

 彼女が描く物語の特徴は、何といっても主人公が魅力的な点にある。風変わりだけど、天才で、カリスマ性があり、ミステリアス。本作の主人公である灰江もまた然りだ。人間は死から逃れられない生き物であり、誰しもいつかは必ず死ぬ。死んだら荼毘に付され、肉体はこの世から消える。一方で、預金、土地、家、自動車、貴金属などは、いくら生前大事にしていても、あの世には持っていけず、それを誰が受け継ぐかで身内同士が争うことも。

 灰江は、そんな誰の身にも起こりうる相続トラブルを専門に扱う探偵。ある日、彼はワイン仲間だった大物ミステリー作家・今畠(橋爪功)が残した莫大な遺産を巡る争いに遭遇する。争いの種となったのは、今畠が生前、ビデオに残した遺言だ。

 それは、自身の財産を血の繋がった長女・市香(佐藤仁美)、次女・双葉(うらじぬの)、三女・美樹(松井愛莉)の三姉妹ではなく、長年秘書として仕えてきた桜庭(髙嶋政伸)にすべて相続させるという衝撃の内容だった。

 しかし、問題はビデオでの遺言が法的に無効だということ。ミステリー作家である今畠がそのことを知らないはずはなく、彼は正式な遺言書を顧問弁護士の福士(落合モトキ)に託していた。だが、内容はビデオと全く同じ。なぜ、今畠は書面で遺言書を用意した上で、わざわざ同じ内容のビデオを撮ったのか。灰江は鋭い観察眼で、今畠の視線の動きや腕に残る傷など、ビデオから些細な違和感を見つけ、鮮やかな推理でその謎を解き明かしていく。

 そんな灰江をサポートするのが、アシスタントの令子(桜田ひより)と朝永(矢本悠馬)だ。医大を休学中の令子による遺体の検視と、元警視庁科捜研のエースである朝永による鑑識が、灰江の推理を補強する。どちらも灰江に負けず劣らずの変わり者だが、腕は確か。

 その結果、今畠は桜庭に虐待を受け、自分の意思に反した遺言書を書かされていたことが明らかになる。ビデオメッセージを残したのは虐待の事実、そして本物の遺言書のありかを伝えるため。そこには、財産を三姉妹でも桜庭でもなく、家政婦の下島(田中真弓)に1億円を相続させ、残りは貧困国の生活向上や、ワイン醸造施設の設営に尽力している団体に全額寄付するという内容が記されていた。

 身近な人をモデルに小説を書いていた今畠。その代表作の一つである『SM夫婦探偵』シリーズの主人公・桜田慎二は桜田がモデルであり、作品を通じてSM趣味を暴露された彼は家族を失った。それでも、敬愛する今畠の作品世界に生きている喜びを感じていた桜田だが、突如、今畠は「飽きた」と『SM夫婦探偵』シリーズの打ち切りを決定。それに逆上した桜田は今畠を暴力で支配し、自分に有利な遺言書を強要したのだ。

 娘たちは財産を食い潰すだけで見舞いにも来ず、信頼していた秘書には裏切られ、今畠の心の支えは真摯に自分の身の回りの世話をしてくれた下島だけだったのではないだろうか。欲をかいたばかりに結局は1円も手に入らなかった三姉妹と桜庭。だが、三姉妹は今畠の遺言書から「自分たちの力で生きていけ」というメッセージを自分たちで見出す。本当のところは今畠にしかわからないが、遺言書には相続の行方だけではなく、自分が遺していく人たちへの思いも隠されているのだろう。

 ところで、なぜ灰江は“探偵”なのか。相続トラブルは普通、弁護士か司法書士が請け負うもの。灰江も元弁護士だが、福士曰く彼はある老人の財産を横領し、弁護士会を追放されたという。「死体の匂いを嗅ぎつけては喰らいにくるハイエナ」と灰江を呼ぶ福士。確かに灰江は飄々としていて怪しさ満点だが、「遺産はもともと今畠先生が稼いだものだ。それを泣かせるような真似は俺が許さねえよ!」と桜庭たちに怒りを露わにした瞬間や、あの世にいる今畠に語りかける穏やかな表情から人間味が垣間見えた。

 灰江は誰よりも故人に寄り添う。そんな彼の姿勢には何かしらの過去が隠されていそうだ。『灰江家』と書かれた墓石に手を合わし、「父さんの無念は、必ず晴らす」と告げる灰江の瞳に復讐の火が灯る。今畠が次回作の主人公のモデルにしていたのにも納得するほど、いろんな表情を見せてくれる灰江から目が離せない。

(文=苫とり子)