「本音を探り合うコミュニケーション、ヘンじゃないですか?」アイクぬわらが感じる日本の礼儀の奇妙さ
敬語表現や上下関係、暗黙のビジネスマナー…。
学生時代の部活や、会社に入ってからも続くこれらの風習ですが、筆者としては「ないほうがいい」と思ってしまうこともあります。
まったく違う文化圏の人から見たら、日本の礼儀やマナーってどうなの?
そんな疑問から、今回はこの方にインタビューしてみました。
【アイクぬわら(あいく・ぬわら)】アメリカ合衆国ニューヨーク州マンハッタン出身、ワシントン州シアトル育ち。ITやエンジニア関係を学ぶためワシントン州の私立工科大学入学。2年飛び級し20歳で卒業。日本でお笑い芸人になるという夢を持って大学卒業1週間後に来日。外資大手証券会社ゴールドマン・サックスでデータセンターエンジニアとして勤務を経て、2011年にオーディションを勝ち抜き「超新塾」に加入
お笑い芸人のアイクぬわらさん。
アメリカで生まれ育ち、20歳のときに来日。2011年に「超新塾」に加入して、現在芸歴9年ということで、海外と「日本の上下関係」の両方を知る人です。
芸能界はかなり礼儀やマナーに厳しい印象がありますが、アイクさんはどんな思いを抱いているのでしょう…?
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
アイクさんがヘンだと思う日本の上下関係
福田:
芸人になって10年弱とのことですが、アイクさんは芸能界の厳しい上下関係や礼儀をどう感じていますか?
アイクさん:
まだまだ適応できてないですね!(笑)
日本独特のマナーや礼儀文化のなかには、いまだに「なんの意味があるんだろう?」と思うことがたくさんあります。
アイクさん:
僕が日本に来たのは、アメリカの大学を卒業してすぐです。学生時代に日本のお笑い番組を見て、日本で芸人になろうと思いました。
24歳のときに芸人の世界に入ったんですが、そこで初めて上下関係を感じましたね。
当時は日本の文化をまったく知らなかったので、「超新塾」のメンバーはかなりイライラしたと思いますよ。
福田:
そのころからアイクさんが思う、日本の上下関係のおかしいところってどんなところでしょうか?
アイクさん:
一言でいうと、「本音を言わない」ところがありますよね。
たとえばある番組の収録前に、みんなで控え室で座りながら話していたんですよ。
でも、若い新人のアイドルの女の子だけはずっと部屋の端っこで立っていて。
僕がその子に席を用意して「座りなよ」って言ったら「先輩が座っているから、私はいいです」って返してきたんです。
意味がわかんなくないですか!?
「座ればいいじゃん!!」
福田:
新人なのに先輩芸人と同じように座ってたら「態度がデカい」みたいに言われるからでは?
アイクさん:
理解できない。
本音で言えば、こっちも新人の子も「一緒に座って話しているほうが楽しい」じゃないですか。
「立ってるほうがいい」って本当に思ってるのか!? って考えちゃいますね。
アイクさん:
あと、先輩から後輩へ“奢る”の文化も不思議です。
あれも、本当に「奢りたい」って思ってる人がいるのかなあと思う。
アメリカで誰かに奢るときは、優しさです。「君は今日頑張ったから、俺が払うよ」みたいな。
それだったらよくわかるじゃないですか。
福田:
芸人の世界だったら、貧乏でも後輩に奢らないといけないと…みたいな話はありますよね。
アイクさん:
先輩が後輩に奢るって、稼げない人からすると「俺の収入じゃ後輩に奢れない」って惨めになるでしょう。
後輩からしても、率直に言えば「お金もそこまでないだろうに、無理をしてまで奢ってもらって申し訳ないな…」って感じなんですよ。
そういうの、ちょっとずつなくなっていけばいいのにと思います。
アイクさん:
あと、「社交辞令」もそうですよね。
街を歩いていると「アイクさんですよね?」って声をかけられるんですけど…
たまに「いつもテレビやSNSで見てます。大ファンです!」って言われて「本当か?」と思うこともあって。
福田:
でも、「たまに見ます」だと失礼な気がしますよね…
アイクさん:
「テレビで見たことあります」だけでいいですよ! そんな程度で嫌ったりしないよ!
そんな上辺だけのサービス精神はいらないです。
「この人はどういう意図でこんなことを言っているんだろう?」って真意を探らなきゃいけないことって、逆にお互いのストレスになるでしょ?
アイクさん:
でも、これからの時代は、どんどん社交辞令とかマナーとかはなくなっていくと思いますね。
福田:
えっ、どうしてですか?
アイクさん:
SNSがどんどん社会の中心になっているからです。
SNSは日本のメディアがコントロールできないプラットフォームであり、海外の文化がたくさん流れてきます。
今『おはスタ!』でいろんな子どもたちと接していますけど、もうすでにみんなSNSを使いこなしているんですよ。
福田:
確かに…
アイクさん:
小学生とかが海外のコンテンツにたくさん触れることで、自然と英語も覚えるし、文化もどんどんインターナショナルになっていくんですよ。
そしたら海外のコミュニケーションのフランクさを覚えて、「マナーや礼儀なんて意味わかんない!」ってなるはず。
いつかその子たちが大人になるころには変わっている気がしますね。
逆に、アメリカでは上下関係やマナーはどうなってるの…?
アイクさん:
僕は、来日した当初は敬語も「意味わかんない」と思ってましたよ!
福田:
日本じゃ敬語を使わないなんて考えられないです…
ちなみに、アメリカでは大物の人とどうやって接するんですか?
アイクさん:
変わりませんよ。
敬語みたいなのは英語にはないので、スーパースターと話すときも、友だちと話すようにフランクです。
えっ、本当ですか…!?
福田:
じゃあ、上下関係はどんな感じなんですか?
アメリカにも「先輩の言うことは絶対」みたいな関係性ってあるんでしょうか…?
アイクさん:
年上のほうがエラいみたいな文化は存在しません。
福田:
じゃあ上下関係もない?
アイクさん:
アメリカは基本、年齢よりも実力重視です。
学校では、チアリーダーやアメフトチームメンバーがヒエラルキーの高いところにいましたね。
あとはおしゃべり上手な人。コメディアンみたいな人も、学校では強いパワーを持ってました。
福田:
へええ! そしたらアイクさんもかなりの人気者だったんじゃないですか?
アイクさん:
いえまったく。僕は学校が終わったらすぐに帰って、ずっと暗い部屋でパソコンをいじってました。
アイクさんは大学を飛び級している秀才…勉強しているほうが好きだったんですね
そんなアイクさんがマナーについて怒られた先輩芸人
アイクさん:
ちなみにロッチの中岡さんには、日本のマナーについて1000回くらい怒ってくれています。
福田:
そうなんですか! 中岡さんが怒っているイメージがわかない…
アイクさん:
一緒に映画を見に行ったとき、映画の途中で僕が興奮して、「中岡さん、この人死んでしまうかもしれませんよ! どう思います!!」とか「危ない! 危ない!」って言っていたら「うるさい! 黙って!」って怒られました。
福田:
それはマナー以前の問題では…?
アイクさん:
アメリカでは普通だったから!
しかもエンドロールが流れているときに帰ろうとしたら、「最後まで見よう」って言われたんです。
そこで「エンドロールは英語ですよ? 中岡さん読めないでしょ?」って返したら、めちゃくちゃ説教されました。
やっぱりそれはマナー以前の問題だと思います
アイク流の「先輩に好かれるコミュニケーション」はあるんですか?
福田:
かなりストレートな意見をいただけましたが…一方で、アイクさんが日本の上下関係でいいなと思うことはあるんですかね…?
アイクさん:
うーん、難しいな。
でも、上下関係があると、相手は簡単に尊敬されている気持ちになるので、目上の人にとってはありがたいのかもって思います。
敬語を使うとか、お酌をするとかは「あなたのことを尊重しています」というわかりやすいサインになる。
福田:
たしかに…上下関係も社交辞令も本音ではないかもしれないけど、「相手に嫌われにくい」コミュニケーションなんですよね。
もし社交辞令をしないなら、アイクさんはどうやってエラい人や先輩に好かれているんですか?
アイクさん:
とにかくグイグイ話しかけにいくんですよ!
福田:
それはハードル高いな…アイクさんだからできるんですよ…
アイクさん:
そうですかね? シンプルな気持ちを伝えればいいと思うんですよ。
「あなたが好きです」 「先輩の活躍を見ました! 良かったです!」って心から言えればいい。
「あなたの力になりたい」とアピールをするとか、そういうことが大事だと思うんですよね。
アイクさん:
でも結局、敬語も上下関係も礼儀も「日本の文化」なんですよね。おかしいとは思っていてもリスペクトはあります。
…まあ、心の底では「そんなものいらない」と思っていますけどね。
話を聞いていたマネージャーさん:
でも、アイクは後輩が挨拶しなかったら「あいつ、俺に全然挨拶してこないんですよ。おかしくないですか?」ってよく言いますけどね…
アイクさん:
だって…俺は中岡さんたちにそういうふうに教えこまれたんですよ!!
後輩のほうから挨拶してよ!!!
福田:
日本の上下関係に適応してる…!!
しっかりオチがつきました
「このインタビューにあたって、答えをしっかり考えてきたんですよ」と丁寧に取材に応じてくれたアイクさん。
敬語や上下関係の礼儀は「あなたのことを尊敬しています」というわかりやすいサイン、というのは納得しました。
でも、僕らR25世代は後輩たちに上下関係をを意識させないフランクな存在でいられるよう意識していきたいですね…!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=森カズシゲ〉
アイクぬわら(超新塾)/Twitter
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