在来線版「ドクターイエロー」、医療技術が向上 やはり会えたら幸運? JR東海
「新幹線のお医者さん」とも呼ばれる「ドクターイエロー」。実は在来線にも同様の車両が存在しており、そのひとつであるJR東海の「在来線のお医者さん」が2016年4月、能力を向上させています。果たしてどんな高度な“医療技術”を持ったのか、列車に同乗し、体験してきました。
意外と知られていない「在来線のお医者さん」?
走りながら線路などを検査することから、「新幹線のお医者さん」とも呼ばれている「ドクターイエロー」。メディアで取り上げられることが多いため、知っている人も多いでしょう。しかし在来線にも同様の車両があることを知っている人は、少ないかもしれません。

在来線の「ドクターイエロー」、つまり「在来線のお医者さん」である「ドクター東海」(2016年5月、恵 知仁撮影)。
新幹線で「ドクターイエロー」を使っているJR東海は、在来線用に同様の機能を持つ車両を保有しています。その名もキヤ95形「ドクター東海」。こちらもやはり、黄色が目に付くデザインです。こうした線路の保守作業に関わる車両は夜間、作業員らに目立つよう黄色を使う例が昔から多く見られます。
この「ドクター東海」は、快速「みえ」(名古屋〜伊勢市・鳥羽)などに使われているキハ75形というディーゼルカーをベースに開発されました。最高速度の120km/hで走行しながら、線路を検査できます。

ディーゼルカーだが、パンタグラフを備えている「ドクター東海」(2016年5月、恵 知仁撮影)。
さて、この「ドクター東海」は「ディーゼルカー」、つまり軽油とディーゼルエンジンで走る車両で、線路上空の架線からパンタグラフで電気を取り込み、モーターを回して走る「電車」ではありません。にもかかわらず、「ドクター東海」にはパンタグラフが搭載されています。不思議に思うかもしれませんが、これは「ドクター東海」らしいところのひとつです。
なぜディーゼルカーにパンタグラフ?
「ドクター東海」が「電車」ではなく「ディーゼルカー」である理由は、「どこでも走れるから」です。JR東海管内には架線があり「電化」されている路線以外に、架線がない「非電化」の路線も。「電車」が走れるのは電化路線だけですが、「ディーゼルカー」ならどちらも走れる、つまりどの路線でも使えるため利便性が高いのです。
しかしこうした検査用の車両は、電化区間では「電力関係のチェック」も任務。そのためディーゼルカーながらパンタグラフを搭載し、架線などの検査もできるようになっているのです。走行に電気が必要なわけではありません。

架線やパンタグラフの状況を監視できる「ドクター東海」の「架線観測ドーム」(2016年5月、恵 知仁撮影)。
「ドクター東海」の車内には「架線観測ドーム」が備えられており、目視でパンタグラフと架線の状況を確かめられるほか、監視カメラなどを装備。トロリ線(架線のうちパンタグラフと接触している電線)の摩耗具合や、上下左右方向へのずれなどをチェックすることが可能です。
走行中、「架線観測ドーム」から架線を眺めると、パンタグラフがトロリ線から離れず追従するよう、上下に伸縮しているのがよく分かりました。また、トロリ線が左右に移動するように見えました。
トロリ線は上から見ると、実はまっすぐではなく、柱ごとに左右へずれる形でジグザグに張られています。まっすぐだとパンタグラフの一部分だけがすり減ってしまうので、ジグザグにして、まんべんなくパンタグラフがすり減るようにされているのです。そのため走行中の列車からパンタグラフを見ると、トロリ線があたかも左右へ移動しているかのように見えます。

左のモニターに映るのが、架線をチェックするカメラのもの。従来は右下の映像のみだったが、機能向上で左右からも架線を確認可能に(2016年5月、恵 知仁撮影)。
また「ドクター東海」は今年、2016年4月に機能の向上がはかられ、パンタグラフ部分にカメラを増設。合計4台で架線を死角なくチェックし、使っている金具などの状態についても走りながら確認できるようになったそうです。
さて、一般的な鉄道車両は1両の両端に「台車(車輪のある部分)」がひとつずつあり、車体を支えていますが、「ドクター東海」には、台車が1両にみっつもある車両が存在します。これもまた、「ドクター東海」らしいところのひとつです。
台車がひとつ多い「ドクター東海」2号車の秘密
3両編成の「ドクター東海」、その2両目は線路設備を検査する車両で、台車がみっつあります。一般的な前後ひとつずつの台車ほか、中央にも台車を備え、簡単にいえばこの中央の台車がどれだけ上下左右にずれるかで、線路のゆがみを測定するのです。25cm間隔で、mm単位のずれを測定できるといいます。

台車が1両にみっつある「ドクター東海」の2号車(2016年5月、恵 知仁撮影)。
この線路設備の検査についても、今年4月に機能向上が図られました。レールはボルトで、地上側に置かれた枕木などと締結されています。このボルトの緩みについて従来は、白線を横にひいたキャップをボルトにかぶせ、その白線がどれだけ回転したか、「ドクター東海」からカメラ画像をチェックする形で確認していました。しかしこの方法では、ボルトにキャップをかぶせなくてはなりません。
そこで「ドクター東海」は今回、2次元レーザーを使ってボルトの高さを測定し、緩みを確認する方式に変更しました。これにより、JR東海の各在来線合計で660万個も使われているキャップが不要になるため、年間およそ1600万円のコスト削減が実現するとのこと。ちなみに、ボルトの高さは0.1mm単位でチェックできるそうです。

線路設備を検査する「ドクター東海」2両目の車内。機器やモニターが並ぶ(2016年5月、恵 知仁撮影)。
また「線路」は、レールがバラスト(石)などの上に敷かれる形で構成されていますが、このレールの下にある部分(道床)についても今回、その断面形状を測定できるようになりました。バラストの積みかたに異常がないかなど、走りながら確認が可能です。このほかレールのつぎ目にある隙間や、レール同士を連結するボルトのチェック機能も強化されています。
「ドクターイエロー」同様、出会えると幸せになれるレアキャラ?
「ドクター東海」は、運転席部分にカメラが設置されています。倒れそうな木がないかなど、線路脇の状況をチェックするためです。このカメラも今回、40万画素から200万画素にグレードアップし、より細部まで確認できるようになったといいます。

「ドクター東海」の運転席にあるカメラ。映像は車内で確認できる(2016年5月、恵 知仁撮影)。
さて、新幹線の「ドクターイエロー」といえば運行時刻が発表されておらず、約10日ごとに1往復程度の走行なため、「出会えると幸せになれる」とも言われます。では、こちらの「在来線のお医者さん」はいったい、どのくらいの頻度で出会えるものなのでしょうか。
「ドクター東海」には、線路設備と信号通信設備を検査できる「I」と、線路設備のほかパンタグラフを備え電力設備も検査できる「II」の2編成があり、手分けをしてJR東海の全在来線を走りますが、現れるのは基本的に、線路設備の検査走行を実施する月2回。やはり「出会えたら幸運」と言えそうです。
また「ドクター東海」は線路設備のほか年に2回、各路線で信号通信設備を、電化区間では年に3回、電力設備を合わせて検査。その“診断結果”を生かし、関係各所が線路などをメンテナンスします。

パンタグラフを持つのは、電力設備を検査できる「ドクター東海」の「II」(2016年5月、恵 知仁撮影)。
2編成ある「ドクター東海」のうち今回、機能向上が果たされたのは「II」で、「I」も今後、改修される予定です。ただ、JR東海の担当者は次のように話します。
「より細かいチェックができるようになりましたが、最後は人の目が重要です。高性能な機械の力に頼らず、社員の意識と技量を高めて安全運行に努めなければなりません」(JR東海 東海鉄道事業本部 工務部保線課 小川浩司課長代理)
2016年3月26日、豪雨災害から約6年半ぶりに三重県の名松線が運行を再開した際にも、その前に、この「ドクター東海」が走行。線路の安全を確認しました。日々、何気なく列車が走る裏側には、こうした検査車両と、それに関わる大勢の人たちの活躍があるわけです。
ちなみにJR東海以外でも、JR東日本のキヤE193系「East i-D」など、同様の在来線用検査車両を導入している会社があります。
