星のカービィ』シリーズ、『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』などの制作で知られるゲームメーカーの株式会社ハル研究所が、2022年に労働基準監督署の是正勧告を受けていたことが本誌の取材で明らかになった。テレワークをしていた従業員に対し、時間外手当および深夜手当の未払いがあったという。

ゲーム制作会社「株式会社ハル研究所」(通称:ハル研)は、PC関連の開発企業として1980年に神田・秋葉原で創業。任天堂の代表取締役社長を務めた岩田聡氏も設立に関わった。

「転機は1983年の『ファミリーコンピュータ』発売で、ハル研もサードパーティとしてソフト開発に注力しましたが、資金繰りがうまくいかなくなり’92年に倒産。再建後に起死回生の一本として作った『星のカービィ 夢の泉の物語』が世界的にヒットし、カービィは同社を代表するキャラクターになりました」(全国紙経済部記者)

『スーパーファミコン』では『MOTHER2 ギーグの逆襲』、『NINTENDO64』では『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』など、ハル研は任天堂の歴代ハードでヒット作を生み出すトップメーカーとなった。山梨と東京・神田にオフィスを構え、現在は『Nintendo Switch』内蔵のブラウザなど、ゲームソフト以外の開発も手がけている。

そのハル研に労基署の「臨検(立ち入り調査)」が入ったのは’22年のこと。同社の関係者が言う。

「’20年9月頃から、中途入社でゲームの内蔵ブラウザ開発に加わったスタッフAがいました。チームで業務を分担していたのですが、ひとりでは対応できない分量の仕事を押し付けられる、本来の業務とは関係のない仕事まで回ってくるなどの状況が続き、Aは次第に体調を崩していきました。それでもゲームに携われることにやりがいを感じ、我慢しながら仕事を続けていたそうです。

’21年の緊急事態宣言が出された際に、Aはテレワークを命じられました。こんな労働環境ですから、定時では終わらないことも日常茶飯事。会議や打ち合わせが定時外に指定してあるのも当たり前。なので残業でタスクを処理していた……のですが、勤怠申請で異変に気付きました。在宅期間中は定時での申請しかできず、正規の時間を入力しようとすると承認の途中で棄却されてしまったのです」

残業しているにもかかわらず、時間外手当や深夜手当が支払われないーー。Aは退職後、ハル研に未払いの手当について支払うように申し出たところ、「在宅勤務中は残業禁止という命令を確かにしており、『事業場外みなし勤務制度』を適用していたため、支払う必要はない」と応じなかったという。

「そんな命令は一切聞いていないし、就業規則にも契約書にも書かれていなかったそうです。仮に残業禁止だったとしても、とても定時で終わる量ではないタスクを抱えていました。自身で記録していた正確な勤務時間をもとに、労働基準法第37条違反を労基署に申告。結果、臨検(立ち入り検査)が入ることになりました」(同前)

労基署の臨検の結果、Aは中途入社だったために在宅禁止の命令を知らされていなかったことや、事業場外みなし残業時間の雇用体系について周知が徹底されていなかったことが判明。修正された勤怠とは別に、本来の時間で打刻された勤務管理表も保管されていたという。同社には是正勧告が下された。

「支払われてしかるべき手当を『払う必要はない』と回答したことで、ハル研に対する不信感は強まったそうです。労基署の臨検後、ようやく未払いだった手当が支払われたといいます」(同前)

長時間労働なのに低賃金、「やりがい搾取」が指摘されることも多いエンタメ業界。こうした体質が見過ごされれば、業界を志す若者が減り、シュリンクしていく可能性もある。過労死が見落とされる危険性も増える。

ハル研は本誌取材に対し、事実をおおむね認め、以下の通り回答した。

――労基署の臨検があった事実について

〈本件につきましては、労基署に対しデータの開示・事実説明等を行うとともに、労基署を通じ当該元従業員との事実確認等を行い、当該元従業員・労基署との合意形成のもと、当該元従業員が主張する時間外労働に対して手当を支給した結果、労基署からも既に「事実確認及びその対応も含め、本事案は終了」とのご連絡を頂いております〉

――残業禁止の周知徹底について

〈当該元従業員はこれらのルール導入後に中途入社しており、労基署より当該元従業員に対する『説明が不明確だったのではないか』と指摘を受けたことは事実でございます。そのため、労基署を交えた協議の結果、当該元従業員が主張する時間外労働に対して手当を支給しております〉

――勤怠の修正について

〈コロナ禍の状況を受けて緊急に対応した在宅勤務においてはシステム対応が不十分で、従業員自身が就業開始を申告できるシステムはあったものの、それを根拠に勤務時間を算定しておりませんでした。また、システム対応が不十分な時期においては、正確な就業時間の把握が難しかったことから、従業員がサービス残業等を行わないよう残業禁止のルールを設定しておりました〉

”第二のA”が現れないことを切に願う。