なぜキャバクラは「経費」になるのに、風俗店はNGなのか…“元No.1ホストの税理士”が解説する、夜の店と税務の不思議なカラクリ
〈丸刈りの野球少年→イケメンすぎる税理士として“ナンバーワンホスト”に→引退……年間3億を売り上げた男性(33)が明かすホスト業界の“暗部”〉から続く
元「ナンバーワンホスト」であり、現在は税理士事務所の代表社員を務める夜野仁さん(33)。彼のもとには、風俗店やキャバクラなどで勤務するナイトワーカーが税務の相談に訪れるという。
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顧客獲得のための整形代や、枕営業による中絶費用は、経費として計上できるのか。あるいは1億円のマンションを譲り受けた場合、贈与税はどれほどかかるのか--。ナイトワーカーが寄せる相談内容は、一般的な昼職とは毛色が異なる。
「無申告が多いと言われているナイトワーカーの税制面を支えたい」。そう語る夜野さんの元に寄せられる相談内容とは、一体どのようなものなのか。

元ナンバーワンホストの夜野仁さん ©石川啓次/文藝春秋
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整形や中絶費用の申請は通る?
--夜野さんは税理士の傍ら2025年までホストとしても活動されていました。これまでの経歴からも、夜野さんの事務所には、キャバクラや風俗などで勤務するナイトワーカーの方が多く訪れるそうですね。
夜野仁さん(以下、夜野) 現在は30人ほどスタッフを抱える税理士事務所の代表社員として勤務しています。今年は大体1000人の確定申告を担当して、そのうち8割近くがナイトワーカーからの依頼でした。
--ナイトワーカーのような方の場合、一般的な個人事業主と比較して、経費申告の際に違いはあるのでしょうか。
夜野 そもそも経費とは、「事業の売上を上げるための支出」であり、どの職業においても共通です。この定義に当てはめると、ナイトワーカーが経費として申告できる範囲は、一般職より広いですね。例えば、化粧品や美容整形などの美容関連費、アクセサリーやバッグなどの衣類関連費なども認められることになります。
キャバクラであれば、エリアや店舗によって最低時給が変わるので、「高い給料の店舗に移籍するため」という理由があれば、整形費用などが必要経費として認められる余地も出てくるでしょう。その他、キャバ嬢が枕営業で妊娠した際の中絶費用。顧客をつなぎ止める手段として証明できれば、法律で枕営業が禁止されているわけではないので、場合によって控除が受けられる可能性もあります。
もちろん大前提として、現実味のある範囲内に限ります。売上1000万円に対して利益が10万円しかなかったり、整形代が売上を超えていたりすると、申請が通らないと考えるのが妥当です。
え、そこまで経費になるの……? 本当にあった「驚きのエピソード」
--夜野さん自身、ホスト時代は年間3億円を稼いでいた時期もあったそうですね。自身の経費はどのように申告していたのでしょうか。
夜野 年間の売上が3億円だと、給料として入ってくるのは約1億5000万円ほどになり、その半分ほどは経費として申請していましたね。
僕の場合であれば、本職の税理士の取引先である社長さんたちもお店に通ってくれたので、そのお礼としての接待費もかさみました。六本木のキャバクラで接待したら、1日で100万〜200万円程度になることもザラにありましたから。あとはプレゼント代や飲食代、ホストとして着飾るため全身ハイブランドで揃えたりすると、経費もあっという間に膨らみました。
--実際に、夜野さんが担当された事例で、珍しい経費の相談について教えてください。
夜野 一例を挙げると、六本木のキャバ嬢が、いわゆる“太客”に2000万円を貸して、600万円しか返済されなかったという相談がありました。
聞けば、お客さんが新規事業を立ち上げる際にキャッシュが必要で、新しいビジネスが軌道に乗れば、もっと売上に貢献できるという話でした。要は、キャバ嬢がお客さんに投資したものの失敗して、全額返済されなかったわけですね。
通常、このようなケースを、損失として計上するのはかなり難しいです。ただ、彼女とお客さんとのLINEから、詳細な金額のやり取りや、明確な投資の意思があったことに加え、相手も自己破産した法的事実が揃っていた。結果的に、彼女の元に戻ってこなかった1400万円は「貸倒損失」として経費に計上できました。
なぜ「キャバクラはOK」で「風俗はNGなのか」
--そんなケースも経費になるんですね……。
夜野 先ほどお話ししたように、経費が認められるかどうかは「収入を得るために必要だったかどうか」に尽きます。そこに合理性や、客観的な証拠があるかどうかを考慮して、税務調査官が判断していくわけですね。
最近だと、東京大学の元教授が、民間団体の代表理事から都内の高級クラブやソープランドで接待を受けていた汚職事件が話題になりました。本件の場合、国立大学の教授は公的な扱いに近いため、そもそも接待を受けること自体が問題ですし、民間団体の代表理事も有罪判決が下りました。
ただ、キャバクラやガールズバーは接待費で落ちるのに、なぜ風俗は通らないのか--。ふと疑問に感じて調べてみたんです。
--確かに、気になります。
キャバクラが経費として認められやすいワケ
夜野 キャバクラなどの場合は、卓上で取引先と会話をするので、場が盛り上がって商談成立の後押しになれば正当性が認められる。一方で、ソープランドであれば、まず取引先と一緒にプレイすることは考えづらいので、業務上の必要性を証明するのが難しい。いわば「会話があればOK」という曖昧な基準で、経費が計上できるかどうかが変わってくることが分かりました。
このように経費申告は、明確な基準額や項目がないので、グレーゾーンである場合も散見されます。今回のケースであれば、「ピンクコンパニオンはどうなのか」「風俗でも複数プレイであれば認められるのか」など判断が難しいケースもあるので、疑問に感じたら税理士に相談するのがベターです。
「無申告」の依頼人に頼まれ、税務署の特殊部隊と相対することも
--夜の業界は無申告が多いと言われていますが、莫大な追徴課税が発生するケースもあるのでしょうか。
夜野 無申告や脱税の場合、国税局の税務調査に入られる確率が高くなり、追徴課税が発生します。本税(本来納めるべき税金)に加え、期間内に申告しなかった罰則として本税の15〜20%、意図的な隠蔽などの場合は本税の40%、そこに延滞の利息がつくため、かなりまとまった追徴が課されるケースが多いです。
--実際に無申告や脱税がバレた場合、どうなるのでしょうか。
夜野 年間1億円を売り上げながらも、確定申告をしていないホストを請け負ったことがあります。彼の場合、店舗に税務調査が入り、芋づる式に従業員にもメスが入ったようで、「東京国税局の資料調査課から電話が来ている」とウチに駆け込んできました。
ちなみに資料調査課とは「リョウチョウ」と呼ばれる、追徴課税を徴収する専門部隊のことです。税務署では扱えないような大口や、悪質な不正が疑われる事案を専門に調査する集団で、正直厳しい戦いになると予想していました。
ただ、彼が当該期間の領収書を保管していたこともあり、証拠を提示して税務調査に臨めたのが、不幸中の幸いでした。もちろん調査官からは「領収書を保管しておいたということは、確定申告を知っていたのでは」というツッコミがありながらも、意図的な隠蔽性は低いと証明でき、後日提示された納税額は約4000万円。申告を手伝わなければ、もっと納税額がかさんでいたでしょう。
パパ活に対する税務署の目は、今まで以上に厳しくなっている
--2022年には、ギャラ飲みアプリ「pato」の運営会社に東京国税局の調査が入り、登録している女性たちの申告漏れが発覚する事態もありましたね。
夜野 いくら手渡しでギャラをもらっていても、国税局にはSNSでの投稿を監視する専門部隊があり、そこから無申告が発覚するケースをよく聞きます。特に最近は、AIによって口座の照合作業も高度化しているので、税務調査は厳格になっています。
それこそパパ活や水商売であれば、顧客からのギャラやプレゼントは、贈与税の対象になります。仮に、1億円のマンションを購入してもらった場合、約4000万円の贈与税が発生します。最近の傾向としては、“パパ側”の口座履歴から、申告漏れが発覚するケースも聞きます。
--ある意味、いまは税務調査が厳しくなっていく過渡期なのかもしれません。
夜野 もともと水商売は、給料が手渡しだったところが主流だったため、申告しなくても大丈夫だろうという雰囲気があったと思うんです。
そうした体質が、ギャラ飲みアプリの調査や、風営法改正による取り締まり強化により見直されつつあります。世間一般的にも、インボイス制度の導入が始まり、マイナンバーカードによるデジタル化でお金の流れも可視化されやすくなっている。
そうした転換期で、ホストと税理士を兼業してきた僕のような存在が、ナイトワーカーの税務面の橋渡しをできたらと思いますね。税制面について無知だと、突然莫大な追徴を求められ、社会的な信用も失われてしまう。自分の身を守るためにも、まずは相談から始めてほしいですね。
(佐藤 隼秀)
