上司や取引先とのコミュニケーションで注意する言葉は何か。元スタバCEOの岩田松雄氏は「目上の人や取引先が言った冗談は、笑いながらも真剣に聞いておいたほうがいい」という――。

※本稿は、岩田松雄『新版「君にまかせたい」と言われる人になる51の考え方』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

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■リーダーだって周囲から認められたい

リーダーとの付き合いはどうも苦手だと感じている人もいるかもしれません。媚びを売ったり、ゴマをすったりはしたくない。

ただ、リーダーに対して「すごいな」「かなわないな」と思うこともある。それを口にしてしまうと、媚びやゴマすりと思われるのが嫌。同僚からもそう思われるかもしれない。それで、思っていることも飲み込んでしまう。

まず、ぜひ知っておいてほしいことは、リーダーもメンバーに承認されたい、と思っていることです。リーダーも、メンバーから認めてもらって、褒めてもらいたいと思っています。良いリーダーだと思われたいのです。

だから、ついつい自慢話のようなことも言ってしまう。自分を大きく見せたくなる。だからこそ、メンバーも無理に身構えることはありません。もちろん、思ってもいないことや嘘(うそ)を言ってしまったら、これは媚びやゴマすりになるでしょうし、リーダーや他のメンバーにもバレてしまいます。そうでなければ、素直な思いは口に出していいと思います。「○○さん、すごいですね」と。

■褒めることと媚びを売ることは違う

ときどき勘違いしている人がいます。自分はリーダーに一切媚びを売らないんだ、ゴマをすらないんだと肩肘を張ってしまっている。むしろ、つっけんどんに接したりする。

しかし、リーダーだって同じ人間です。それこそいいなと思うことを口にするのは、ビジネスマナーではないでしょうか。マナーは、リーダーとの間でも、あってしかるべきだと思います。

それは、本当に心から思っているなら、媚(こ)びやゴマすりとは違います。

誰かと話をしているとき、素敵だな、と思ったら、素敵だと口にするものでしょう。すごいな、と思ったら、すごいな、と口にする。そうしなければ、相手に自分の気持ちは伝わりません。

同じようにリーダーにも、良いと思っていることは、きちんと伝えるべきだと思います。そうすることが、対人間としてのコミュニケーションの潤滑油になります。

そして見え見えの嘘でなければ、言われてうれしくないリーダーはいません。

自然体でリーダーに接すればいいと思います。卑屈になってお世辞を言っているのではなく、自然に言葉が出てきたなら、それでいい。そして結果的に、仕事がやりやすくなり、リーダーとの信頼関係も増していくはずです。

■リーダーが弱音を吐いたらどうするか

リーダーが何か冗談を言ったときに、「きっと笑ってほしいんだろうな」「ちょっと突っ込んでほしいんだろうな」と思ったなら、返してあげればいい。友だち同士のやりとりでも、そうしているでしょう。

そして、できればリーダーに好意を持ってあげてほしい。リーダーも人間なのです。自分に好意を持っている人間と、そうでない人間と、どちらを大切にするか。それは、やはり前者だと思います。

好意を持つとは、言い換えれば「リーダーとして慕う」ということです。

仕事のみならず、プライベートなことでも相談をされたりすれば、やっぱりリーダーとしてはうれしいものです。何かこの人の役に立ちたい、と思える。かわいげがあるな、と感じる。

メンバーが想像しているほど、リーダーは特殊な存在ではないのです。ただの「普通の人間」なのです。

それこそ、リーダーが弱音を吐いてくれたら、それはあなたを信頼している証拠です。ぜひ励ましてあげてください。

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■相手のジョークに隠されているもの

長くサラリーマンをやっていて、気づいたことがあります。それは、リーダーの冗談には、本音が隠れていることがしばしばある、ということです。冗談は、意外に怖いもの、なのです。

リーダーとメンバーの間で、冗談がやりとりされることはよくあります。ジョークは、コミュニケーションの潤滑油ですから、とても大切です。場も明るくなるし、楽しい雰囲気を作ることもできます。

ときには「オヤジギャグ」と揶揄(やゆ)されることもありますが、多くのリーダーがジョークを好んで使っているのではないかと思います。

リーダーが冗談を言えば、その場では笑いが起きて、「何言ってるんですか〜⁉」などと聞き流されてしまうことが普通です。しかし、いろいろな経験をしてきた結果、実はそれは聞き流さないほうがいいと感じています。

なぜなら、その冗談には意外に本音が含まれていることがあるからです。

こんな話を聞いたことがあります。ある人が、人材採用の面接をお手伝いすることになりました。その人は実は転職で入社したのですが、ちょっとこの会社は違うかもしれない、と思いはじめていたのだそうです。

そして面接のお手伝いをするために、人事部長と立ち話をしていて、「採用も大変ですよね」と振ったら、返ってきたのが冗談でした。

「面接だけはうまくて、入社しても仕事をしない人間もいますからね(笑)」

その人は、内心ドキッとしたのだそうです。あまり仕事に身を入れていなかった自分のことを言っているのではないか、と。

その人事部長としては入社後の頑張りに不満があった。ただ、それを直接、面と向かって言う代わりに、冗談っぽく、この場で切り返してきたのではないか、と。

■言えないことを冗談に昇華している

リーダーをしていると、メンバーに言いたくても言えないことがあるものです。それを、お酒の席やちょっとした会話で、冗談にカモフラージュして言うことがあります。ブラックジョークのように見せかけて、さらりと口にする。ときにリーダーはそういうこともするのだと覚えておいたほうがいいと思います。

岩田松雄『新版「君にまかせたい」と言われる人になる51の考え方』(サンマーク出版)

意識の中にいつもメンバーに対するちょっとした不満があって、でも面と向かって言うほどのことではない。それでつい、冗談っぽく言っているという場合がよくあるのです。

リーダーとしては、冗談を口にするとき、少しは気がついてくれるかなと思っています。相手が気づいたか、気づいていないかは微妙だけれども、本音を口に出したことで、少なくともリーダーの気持ちはスッキリします。

お酒の席で、「そろそろ君も海外にでも異動するか」なんてリーダーが声をかけてくることがあります。「勘弁してくださいよ」と笑いながら切り返して、一同大笑い、なんてことがよくありますが、これは本音では、リーダーはそのメンバーを動かしたいということなのかもしれません。あるいはそういう話が人事から来ているのかもしれません。

冗談というのは、けっこう怖いものなのです。

写真=iStock.com/kazuma seki
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■取引先の「冗談」にも要注意

そしてこの冗談の怖さは、リーダーとの関係に限りません。取引先の冗談にも、要注意です。

「ずっと御社にお世話になってきたけど、今回他に浮気したりして……。あ、冗談ですよ」

担当者からこんな話が飛び出したときには、本当に他社とコンタクトを取っている可能性があると思います。

いきなり他の会社と取引を始めたことがわかったりすると、感情的にももつれるかもしれません。そこで冗談でジャブを飛ばして、反応を見ておく。そんな意図があるのかもしれません。火のないところに煙は立たないのです。

言いづらい本音を冗談めかしてほのめかす。ジョークにして、ぼかして伝える。ブラックジョークで脅すようなことを言う。人は無意識に、ときには意識的にするものだと思います。

これは仕事の場だけではなく、夫婦関係から友人関係まで、人と人とのコミュニケーションすべてに当てはまります。

冗談は、意外に怖いものです。注意深く聞いておく必要があります。冗談を聞き流さず、相手の本音、裏の意図を考えてみることが大切です。

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岩田 松雄(いわた・まつお)
リーダーシップコンサルティング代表
リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。元立教大学特任教授。元早稲田大学非常勤講師。実践女子大学客員教授。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。セールスから財務に至るまで幅広く経験し、UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系戦略コンサルティング会社、コカ・コーラビバレッジサービス役員を経て、アトラスの代表取締役社長として3期連続赤字企業を再生。さらに、タカラ常務取締役を経て「THE BODY SHOP」を運営するイオンフォレストの代表取締役社長に就任し、売り上げを約2倍に拡大させる。2009年、スターバックス コーヒー ジャパンのCEOに就任し、次々に改革を断行して業績を向上。UCLAビジネススクールよりAlumni 100 Points of Impactに選出される。2011年、リーダー育成のためのリーダーシップコンサルティングを設立し、現在に至る。早稲田大学より2022年度秋学期のティーチングアワードを受賞した。
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(リーダーシップコンサルティング代表 岩田 松雄)