普通に働いて、普通に子どもを育てることが、こんなに難しいなんて…地方在住・年収530万円の40歳サラリーマン、中流家庭を待ち受ける「老後破綻」へのカウントダウンに嘆息
40代〜50代の家計は、年収ダウン・教育費ピーク・住宅ローン残高が重なり、「年間100万〜200万円の赤字」に転落する家庭が珍しくありません 。これは特別なケースではなく、平均的な収入の家庭でも十分に起こり得る現実なのです。1級ファイナンシャルプランナー技能士の川淵ゆかりFPのもとへ相談に訪れた40歳のAさんは、家族3人で穏やかに暮らしつつ、将来の金利上昇や教育費に漠然とした不安を抱える一人でした。住宅、教育、老後の「三大費用」が重なる50代をどう乗り切るのか。Aさんの家計を通じて、40代のうちにできる備えと、将来的な資金計画の立て方を解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
50代で家計が崩れる理由
40歳のAさんは、中小企業の企画部に勤める年収530万円のサラリーマンです。34歳のときに3歳年下の女性と結婚し、翌年には長男が誕生。現在は、郊外に戸建て住宅を購入して三人で住んでいます。
仕事はいまのところ順調で、近ごろ「もう一人子どもが欲しい」と、妻とも話すようになりました。しかし、ふと我に返ると自分も40代。ここ数年の物価高や金利上昇のニュースを耳にするたび、夫婦で将来の家計に漠然とした不安を感じるようになったそうです。そこで、筆者のもとへ相談に来られました。はたして、いまの生活レベルを維持しながら、もう一人を迎え入れることは金銭的に可能なのでしょうか。
40歳・年収530万円のサラリーマン、「いまから二人目」は可能か?
将来のことは個人差もあり、わかりにくい部分もありますが、Aさんの情報を加味して、65歳までの年収・支出想定を公的統計からシミュレーションしてみました。
〈シミュレーションの条件〉
・転職や会社の倒産は考慮せず
・子どもは一人のみで算出
・子どもの進学(高校までは公立、大学は私立文系で算出)
・55歳で役職定年
・60歳で定年退職、続けて65歳までの再雇用
・住宅ローン(毎月約10万円の返済、70歳までの35年ローン)
下記は、上記条件をもとにAさんの65歳までの収入・手取り・生活費を簡易グラフ化したものです。
[グラフ]Aさんの年収・手取り・生活費グラフ(26〜65歳) 出所:筆者作成※プライバシー保護のため、相談時に作成したグラフではなく、簡易グラフを表示しています。
50代に訪れる“大きな家計の変化”
グラフの作成により、厳しい50代の現実がみえてきました。50代に入った途端、家計のバランスが急変するのがわかります。Aさんのケースでは、以下のような「4つの負担」が一気に押し寄せてくるのです。
1.子どもの大学進学費用:教育費のピークが到来
2.55歳での役職定年:年収が100〜150万円ほどダウン
3.60歳からの再雇用:さらに年収が100万円以上ダウン
4.住宅ローンの返済:収入が激減しても、月10万円の負担は70歳まで続く
このため、Aさんのように多くの家庭では、50代で年間100万〜200万円の赤字に転落する傾向があります。このグラフ上の赤字を、それまでに貯めた預貯金から毎年50万〜150万円ずつ取り崩して補填していくことになるわけです。一見、定年退職後も再雇用制度の利用で年金受給までの家計は守られそうですが、50代以降は年収ダウンと支出アップにより家計は厳しくなります。ここの危機をどう乗り越えていくかが要なのです。
もちろん、グラフは平均的なモデルパターンをベースにしていますので、個人個人のイメージとは異なる部分もあるかもしれません。ですが、支出が増える時期の50代以降の収入をどのように確保していくか。この点の重要性が可視化しやすいので、是非、読者の方もご自身の家計で将来の収支予想を作ってみてください。
人生の三大費用が“三重苦”になる理由
かつては「50代といえば子どもが独立し、老後資金を本格的に貯める時期」でした。
しかし現代は、晩婚化や出産年齢の高齢化、そして住宅ローンの長期化等により、教育費用・住宅費用・老後費用が大きくなる時期は重なりやすくなっています。ちょうどこのころは住まいの修繕(水回り・屋根・壁など)も必要になる時期です。場合によっては親の介護が必要になる時期でもあるため、出費はさらに嵩みやすくなります。50代での役職定年や転職などによる年収ダウンも当たり前の時代になっており、資産を増やすどころか減らしてしまう家庭も少なくありません。
グラフでみるように独身時代〜40代までは、まだ余裕のある生活が送れるため、趣味や住まいにお金をかけたり、子どもにお金をかけたりすることもできます。しかし、この時期に将来のことを考えて資金計画を立てておかないと、50代で躓いてしまう恐れがあるのです。
資金不足になると、親が子どものために無理をしたり、子どもの希望する進学を断念させたりしてしまうケースも出てきます。教育費の選択肢として「奨学金」がありますが、奨学金は子どもの借金です。借金を抱えさせて社会に送り出すことになりますので、筆者はあまりお勧めしていません。
“人生の三大費用”(教育費用・住宅費用・老後費用)が“人生の三重苦”にならないためには、慎重な計画が必要です。50代で躓かないよう、40代のうちに、
・教育費のピーク
・住宅ローン残高
・役職定年後の収入
を“数字で見える化”しておきましょう。
40代〜50代のキャリアが脅かされるワケ
これからの時代、過去のデータを参考にしたグラフのような収入が確保できる保障もありませんし、赤字は節約だけで埋められるものでもありません。さらに、40代〜50代の世代を脅かしているのは、制度や支出の変化だけではないのです。若手世代との「スキルの差」も無視できないリスクとなっています。
まもなく、ITスキル(プログラミング・データ分析・セキュリティなど)を高校時代に学んだ「情報I」世代が社会に出てきます。情報I世代は、若くてITに強いため、企業も彼らの獲得に動いています。すでに一部企業では、40代以上のホワイトカラーに対し、ITスキルの有無で配置転換や昇進判断が行われはじめているのが実情です。リタイアまでの収入の土台を維持するためにも、ミドル層こそITリテラシーという武器が欠かせません。
日本は“失われた30年”でITスキルがすっかり低くなってしまい、67ヵ国中31位です(IMD「世界デジタル競争力ランキング」2024年版)。世界からみると“中位のやや下寄り”という位置づけのため、国も高校生の教育に力を入れています。サイバー攻撃を受ける企業がこの3年間で500社を超え、DXを進める企業も増えていることから、ITスキルの有無もホワイトカラーとして生き残るためには重要になってくるでしょう。
AIも進化するいま、ホワイトカラーが企業から求められる姿は数年で大きく変わってきていますので、現状維持では、この先の転職や再就職が厳しくなっていきます。
金利上昇、住宅ローンの返済額アップを可視化すると…
変動金利型ローンの利用者は、金利上昇による返済額の変化にも注意が必要です。金利上昇を考えたシミュレーションで、次の時期の返済額やローン残高を確認しておきましょう。
・子どもの大学進学時期
・収入がダウンするそれぞれの時期(役職定年・定年退職・完全リタイア)
住まいを購入しようと思う時期は“家計に余裕のある時期”です。住宅ローンを組む際には、先々の教育費用の出費や収入ダウンのことまで具体的に考える人は少ないでしょうが、将来の収支の変化をあまり考えずに「繰上げ返済で早めに完済しよう」と思っているうちに50代になり、ローンが残ったまま定年退職を迎えてしまうケースは少なくありません。
Aさんの場合、住宅ローンの返済額は金利上昇により、次のように変化します。
借入額4,000万円、35年変動金利型ローン(元利均等返済)、ボーナス返済なし
●これまでの金利上昇での資産
月の返済額10万3,834円 → 12万318円(2029年4月〜完済まで)
・子どもの大学入学時のローン残高:2,201万6,591円
・役職定年時(55歳)のローン残高:1,969万3,495円
・再雇用時(60歳)のローン残高:1,360万3,944円
・リタイア時(65歳)のローン残高:708万9,400円
現状はこのとおりですが、今年も金利上昇がありそうです。もし、今年と来年、半年ごとに0.25%ずつの計4回、さらに金利上昇があると予想した場合もシミュレーションしてみましょう。
●今後2年間(2026・2027年)の金利上昇を予想したケース
※金利上昇によって月の返済額が増えた場合に、その上昇幅が前回の返済額の125%を超えないようにする「125%ルール」の適用となってしまいます。
月の返済額10万3,834円 → 12万9,792円(2029年4月〜5年間)→ 14万1,454円(2034年4月〜完済まで)
・子どもの大学入学時のローン残高:2,386万4,911円
・役職定年時(55歳)のローン残高:2,153万9,726円
・再雇用時(60歳)のローン残高:1,522万5,904円
・リタイア時(65歳)のローン残高:812万5,677円
5年ルールや125%ルールは返済の先延ばしとなりますので、50代以降の負担は大きくなります。また、Aさんの場合は35年ローンですが、最近利用が増えてきた「50年ローン」の場合は、さらに50代以降の負担が大きくなります。住宅ローンを組む場合、50代以降の負担も考えて借りるようにしましょう。
Aさんの感想
Aさんは、シミュレーションの結果から「子どもをもう一人欲しかったけれど、諦めないとダメかなぁ。普通に働いて、普通に子どもを育てることが、こんなに難しいなんて…」と大きくため息をつきました。Aさんのような子どもが好きな人が、将来を不安に思わなければならないいまの社会を、国や企業ももっと真剣に考えてほしいと願わずにはいられません。安心して家族を増やせるような社会が、将来の国や企業の発展につながると筆者は思っています。
一方で、収支グラフは暫定値です。Aさんのこれからの努力で大きく変えることができます。そのためにも50歳までの10年間をどう過ごすかが非常に重要になってくるのです。
・支出の無駄を省き、貯蓄のペースを上げる
・ITスキルを身につけ、50代以降の収入の落ち込みを最小限にする
・金利上昇を見越した、より精緻な資金繰りを立てる
これらを行うためにも、40代のうちに「将来の収支表」を作り、数字で未来を直視することを強くお勧めします。Aさんのように「家族を増やしたい」と思ったときにも判断できるよう、50代で家計が崩れるか、理想の生き方に近づけられるかは、40代のうちに“数字で未来を見える化”できるかで決まります。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
