トランプは首脳会談で習近平に対日関係改善を働きかけはしないし台湾姿勢も変えはしない

写真拡大 (全4枚)

ou今週、トランプ大統領は北京を訪問する予定である。もともと3月に予定されていた訪中は、イラン戦争の勃発によって延期された。現在、アメリカとイランは停戦に向けた交渉を進めているものの、最終合意には至っていない。そのため、一部のウォッチャーからは、トランプ大統領が再び訪中を延期する可能性も指摘されている。

しかし、トランプ大統領本人は延期する考えを持っていないようであり、12日にはワシントンを出発した。予定通り5月14日と15日に北京を訪問する。

トランプ・習近平会談では何が議論されるのか

今回のトランプ・習近平会談は、2025年10月に韓国で行われた会談に続く2回目の直接会談となる。

この1年間、トランプ政権2.0が打ち出した対中関税政策は、中国経済に大きな打撃を与えてきた。その影響は単なる関税負担にとどまらない。より深刻なのは、中国に集中していた多国籍企業のサプライチェーンが、東南アジアやインドなど中国以外の地域へ分散し始めている点である。中国経済はすでに減速局面に入っており、外資企業の撤退が進めば、その減速はさらに深刻化する可能性が高い。

したがって、習近平主席は今回の首脳会談で、トランプ大統領に対し、追加関税の引き上げを抑制するよう強く求めるとみられる。

一方、トランプ大統領にとって最大の関心事は、秋の中間選挙である。とりわけ農業州の支持を失いたくないトランプ大統領は、中国側に対して、大豆をはじめとするアメリカ産農産物の大量購入を要求するだろう。

むろん、米中両首脳のディールはそれだけでは終わらない。

習近平主席は、2027年秋の党大会で4期目続投を目指しているとみられている。そのためには、「国家統一」を掲げる強硬姿勢を国内に示し続ける必要がある。特に台湾問題は、その政治的正統性を支える重要なテーマである。

したがって、今回の会談でも、習近平主席はトランプ大統領に対し、「一つの中国」原則を堅持するよう求めると同時に、台湾への武器売却停止を要求する可能性が高い。

もっとも、トランプ大統領が「一つの中国」政策そのものを否定する可能性は低い。しかしその一方で、武力による現状変更には反対する姿勢も維持するとみられる。加えて、トランプ政権アメリカ軍需産業との関係を考えれば、台湾向け武器輸出を停止する可能性も極めて低い。

実際には、今回の首脳会談の背後には、もう一つ重要なテーマが存在する。それがイラン戦争である。

習近平政権は公式には「主権国家に対する軍事行動に反対する」との立場を取っている。しかし、その一方で、中国政府はロシアによるウクライナ侵略を明確に批判してこなかった。つまり、中国はアメリカによるイラン攻撃には反対しながら、ロシアの軍事行動には沈黙するという、典型的なダブルスタンダードを取っているのである。

イラン戦争をめぐる米中の思惑の違い

そのような中で、習近平政権はイラン戦争の早期停戦を強く望んでいると考えられる。

中国の石油輸入依存度は約70%とされ、その半分近くを中東地域に依存している。イラン戦争をきっかけにホルムズ海峡の安全保障リスクが高まれば、中国の原油調達にも深刻な支障が生じる。

さらに、中国にとってイランは単なる産油国ではない。地政学上の重要なパートナーでもある。戦争が長期化し、現在のイラン政権が崩壊すれば、中国は中東における重要な戦略拠点を失うことになる。

仮にイランで親米政権が誕生すれば、中国はこれまで築いてきた政治的・経済的利権を大きく失う可能性が高い。

今年に入ってから、トランプ政権はベネズエラのマドゥロ政権に対して強硬姿勢を強め、さらにイランへの軍事攻撃にも踏み切った。中国はこれまで、ベネズエラやイランから、国際価格より安価な石油を大量に輸入してきた。その多くは人民元決済で行われていたとされる。

しかし、これら反米政権が弱体化すれば、中国は安価な資源供給網を失うことになる。

一方、トランプ政権の狙いは何なのか。

アメリカはすでにエネルギー面で一定程度の自給能力を持っている。したがって、今回の対イラン軍事行動は、単純に石油利権を獲得するためではないだろう。より本質的には、中東地域における覇権を再構築することにあると考えられる。そして、その戦略を全面的に支援しているのがイスラエルである。

このようにみれば、中東をめぐって米中両国は根本的に対立している。

しかし同時に、トランプ政権がイランに対して大規模な地上軍を投入する可能性は高くない。トランプ大統領自身、長期戦による「第二のイラク戦争」を避けたいはずである。

現在のところ、トランプ政権が目指しているのは、短期決戦によってイランを屈服させるシナリオだろう。しかし、ハメネイ師への攻撃が行われても、イラン政権そのものは崩壊していない。仮に戦争が長期化すれば、アメリカが泥沼化した戦争に引きずり込まれる可能性もある。

そして、それは中間選挙を控えるトランプ大統領にとって大きな政治的リスクとなる。

短期的には、イラン問題をめぐる米中対立は一時的に抑制される可能性がある。しかし、イランの反米政権が存続する限り、中東をめぐる米中対立そのものが解消されることはないだろう。

米中首脳会談日中関係にどのような影響を与えるか

結論から言えば、短期的に日中関係が大きく改善する可能性は低い。しかし同時に、これ以上急激に悪化する可能性も高くない。現在の日中関係は、ある意味で「新常態(ニューノーマル)」として定着しつつあるとみるべきである。

日本国内には、「トランプ大統領が習近平主席に対し、日中関係改善へ向けた働きかけを行うのではないか」と期待する声もある。しかし、その可能性は極めて低い。

トランプ大統領からみれば、現在の東アジア情勢は、ただちに危機的状況にあるわけではない。したがって、日本と中国の関係改善を優先課題として扱う理由も乏しい。

そもそもトランプ大統領は、多国間協調の枠組みそのものに強い関心を持つタイプの政治家ではない。彼が重視しているのは、あくまで二国間ディールである。したがって、トランプ政権にとって重要なのは日中関係そのものではなく、日米関係である。

現時点で日米関係に深刻な不安定要因は存在していない。そのため、トランプ大統領が習近平主席との会談で、あえて日中関係に深く踏み込む可能性は低いだろう。

したがって、日本政府としては、トランプ政権に過度な期待を寄せ、中国への圧力強化を待つのではなく、日本独自の対中戦略を構築する必要がある。

【あわせて読む】中国も「失われた数十年」に突入するのか? 「デフレ」「低成長」「消費低迷」で習近平政権が直面する「歴史的分水嶺」

【あわせて読む】中国も「失われた数十年」に突入するのか? 「デフレ」「低成長」「消費低迷」で習近平政権が直面する「歴史的分水嶺」