中途採用の「リファレンスチェック」増、適切な人材確保狙い…無断調査には法的リスク
転職希望者が1000万人を上回る中、求職者の働きぶりや人柄などを出身会社に照会する「リファレンスチェック」を取り入れる動きが企業に広がっている。
履歴書や面接などに加え、第三者に評価を聞き、適切な人材を確保する狙いがある。ただ、調査には本人の同意が求められており、有識者は「不意打ちの調査はあってはならない」と注意を促している。(林信登)
大阪市のシステム開発会社「Mico(ミコ)」は、AI(人工知能)を活用したコミュニケーションツール開発などの事業拡大に向けて採用増に乗り出した2022年、リファレンスチェックを導入した。中途採用者が短期で退職したケースがあり、面接と適性検査による従来の選考に限界を感じていたためという。
昨年7月に中途入社した男性(39)は、リファレンスチェックで当時勤めていた会社の上司ら2人の評価を受けた。「面接で自分の強みを十分に伝えられたか自信がなかったので、上司らの評価が追い風になったと思う」と話す。
この4年で約40人から約280人まで増えた社員の9割が中途採用者で、多くがリファレンスチェックを経て採用した。今年に入ってからも最終面接を受ける月10人ほどに実施しており、人事の担当者は「会社にあう人材かどうかを細かく確認できるようになった」と語る。
転職市場活発
総務省の労働力調査では、15年に812万人だった転職希望者は23年以降1000万人台となり、25年は1023万人に達した。実際の転職者も15年前より約50万人多い330万人に上っており、転職市場は活発化している。
慢性的な人手不足を背景に、企業側は求人広告など採用活動に多額の費用をかけている。1社平均で年650万円との調査もあり、採用のミスマッチは避けたいのが本音だ。
大手人材サービス会社「エン」(東京)が20年、リファレンスチェックの代行サービスを始めると、申し込みが相次ぎ、グループ会社分を含めると、これまでにミコなど7000社以上が利用した。22年に参入した就職情報会社「マイナビ」(同)でも、利用企業は数百社に上っている。
企業が求職者の働きぶりや評判をツテを使って以前の職場などから非公式に聞くケースはこれまでもあった。しかし、無断調査は法的なリスクがある。職業安定法に関する厚生労働省指針は、求人側が第三者から個人情報を収集する場合は本人の同意を義務づけているためだ。人種や出身地、思想や信条など、業務能力に直接関係しない情報の調査も禁じられている。
経歴詐称判明
求職者にとっては、履歴書などによる自己申告を正確に行う必要性が一段と高まる。
エンが利用企業のうち200社に尋ねたところ、6割で職歴や勤務実績などの虚偽が判明した。調査で経歴詐称を把握した企業が内定を取り消したケースも報道されている。
他方、求職者には不利な情報が伝わらないかと身構える人も少なくない。選考が進んだ段階で企業からチェックを打診されたら、断りにくいのも心情だ。
労働問題に詳しい佐々木亮弁護士(東京弁護士会)の話「企業は、リファレンスチェックの有無と調査内容を募集要項などで事前に明示し、本人が自発的に同意した場合に行うべきだ。第三者による評価は主観に引っ張られる部分もある。企業は本人との面接なども踏まえ、総合的に評価をした方が良いだろう」
人柄・勤務態度、上司らが回答
リファレンスチェックは、欧米では定着しているとされ、国内でも外資系企業から、大手や新興企業へと利用が広がっている。リファレンスには、英語で「照会、問い合わせ」の意味がある。
エンやマイナビによると、求職者の同意を得て本人が選んだ上司、同僚、部下らにオンラインで答えてもらうのが通常だ。主な確認項目は職務内容などの履歴のほか、仕事への責任感、ハラスメント傾向を含めた職務態度、退職に至る経緯、上司や部下とのコミュニケーション能力などだ。回答は本人に開示されない。
最終選考の前後が一般的だが、在職中の転職活動を知られたくない場合などは、内定後に行われることもある。
