企業のグローバル競争力を根底から蝕む可能性も…「2026年韓国春闘」の無法地帯度
その発端はSKハイニックス
韓国経済界が、大企業労働組合による異例の報酬要求と親労働組合的な立法が組み合わさった、いわゆる「2026年春闘リスク」に苦しんでいる。
半導体市況の回復に伴うSKハイニックスの破格の成果給支給が触発した大企業間の「報酬競争」は、いまや産業界全体の賃金体系を揺るがす水準に達した。ここに、李在明(イ・ジェミョン)政権が強行導入した労働組合法改正案(黄色い封筒法)が施行からわずか一ヶ月で企業の生産現場を「無法地帯」へと変え、経済界の不確実性を極限まで追い込んでいる。
例年になく激しい2026年の韓国労働界の春闘、その発端はSKハイニックスの成果給であった。サムスン電子と共に韓国半導体産業の両「大山脈」と呼ばれるSKハイニックスが、AIブームによる歴代最高級の営業利益を記録し、営業利益の10%を財源として全社員に破格の成果給を支給したことで、他の企業労組の心理的トリガーを引いたのである。
今年2月に支給されたハイニックスの成果給は、社員1人あたり平均約1億4820万ウォン(約1600万円)。ここに、グローバル投資銀行マッコーリー証券が、2026年の実績基準で来年初めの支給分は約7億ウォン、2027年実績基準の2028年初めには約13億ウォンに達するというバラ色の展望を出したことで、他社の労組を強く刺激した。特に「韓国最高」という自負が強いサムスン電子の労組は、営業利益の15%を成果給として支給することを要求し、激しい闘争に突入している。
サムソンへの延焼
サムスン電子労組側の要求の核心は、半導体成果給の財源を営業利益の15%に拡大し、成果給の上限を完全に撤廃することである。今年のサムスン電子の年間営業利益の見通しが約305兆ウォンに達するだけに、この要求が貫徹されれば、支給すべき成果給総額は実に45兆ウォンに上る。1人あたり平均5億ウォン(約5410万円)台に達する規模だ。会社側は営業利益の10%以上を長期保有株式で補填する案を提示したが、即座に拒否された。労組は一回限りの補償ではなく、明確な制度化を要求し、ゼネストを予告している。
労組側は4月23日に平沢(ピョンテク)事業所での3万7000人規模の決起集会に続き、5月21日から6月7日までの18日間、5つの事業所の半導体ラインの全面停止を予告している。労組側は23日の集会当日、ファウンドリ部門の夜間の生産実績が58.1%急落し、メモリ生産実績は18.4%落ちたとし、これが集会参加の影響であると警告した。労組側は、ゼネストが現実化すればグローバルDRAM供給が3〜4%減少し、サムスン電子には少なくとも30兆ウォンの損失が発生すると会社側を強く圧迫している。
交渉というより「脅迫」に近い労組の行為に、韓国内でも非難が殺到している。専門家らは「供給の不確実性が高まれば、顧客が代替供給先の検討に乗り出しかねない」「国家の成長動力を毀損する事態だ」と懸念を表明しているが、労組は意に介さない。ストライキが企業のグローバルな信頼失墜と未来価値の下落に繋がろうとも、今は「自分の取り分」を確保したいということなのだ。
サムスングループのバイオ医薬品企業であるサムスンバイオロジクスも、5月1日から5日間のゼネストを予告している。労組の要求は、平均14%の賃上げ、1人あたり3000万ウォンの激励金、営業利益の20%の成果給配当、3年間の自社株配分に加え、採用・昇進・懲戒など主要な経営・人事権の行使時に労組の事前同意を義務付けることである。
バイオ医薬品の連続工程は生細胞を扱う特性上、一段階でも停止すれば数ヶ月分の原料を全量廃棄しなければならない。グローバル製薬会社への納品スケジュールへの直撃は不可避だ。ファイザーやモデルナなど15社以上のメガファーマを顧客に持ち、昨年1年間で5兆5000億ウォンの受注を達成した同社が、供給に支障をきたせば、ロンザや富士フイルムといった競合他社に市場を奪われることになるとの警告が出ている。
競争的に上がるハードル
サムスンが火を付けると、他社労組も競争的に要求のハードルを上げている。特に現代自動車労組の要求はサムスンを上回る。今回の賃金交渉で月額基本給14万9600ウォンの引き上げ、賞与金を現行の750%から800%への拡大、さらに前年度純利益の30%を成果給として支給するよう要求した。昨年の純利益が約10兆ウォンであったことを考慮すると、要求額は3兆ウォンを上回る。しかし昨年、トランプ政権の関税政策の影響で同社の営業利益と純利益は前年比20%前後減少した。実績が落ちた年に、史上最高水準の成果給を求めているわけだ。
現代自動車グループの事態は、李在明政権が導入した「黄色い封筒法」と相まって、さらに複雑化している。同法は労働組合法2・3条の改正案で、争議行為に対する使用者の損害賠償請求を事実上封じ込め、下請け・協力会社の労働者が元請けに対して直接交渉を要求できるよう「使用者」の範囲を大幅に拡大した法律だ。この法を根拠に、現代自動車、現代モービスなど主要5法人の下請け労組が元請けの現代自動車に直接交渉を要求し、7月の同盟ゼネストを予告した。個別ストではなくグループ単位の同時多発ストという、史上初の実力行使だ。彼らの要求はただ一つ、鄭義宣(チョン・ウィソン)現代自動車会長が直接交渉のテーブルに出ることである。
韓国最大、世界4位の鉄鋼メーカーであるポスコの状況はさらに深刻だ。黄色い封筒法施行後、ポスコは3つの下請け労組とそれぞれ個別に交渉しなければならない立場に置かれた。元請けが一年中交渉だけに追われるという最悪のシナリオが現実化している。この他にもハンファオーシャン、HD現代重工業、韓国タイヤ、韓国GMなど、韓国を代表する企業でも下請け労組による直接交渉要求が相次ぎ、生産現場の混乱が加速している。
これは悲劇の序章か
SKハイニックスの成果給は、AI半導体スーパーサイクルという特殊な条件下で生まれた極めて稀なケースである。これを産業界全体の基準にせよと要求すること自体が、「市場論理を度外視した、極めて偏向した」処事である。ましてや現代自動車のように、実績が減少した年にさらなる報酬を求めるのは理にかなわない。
中小企業労働者の2倍以上の年収を得ている大企業労組の過度な要求は、中小企業の働き手や就職難に苦しむ若者たちに深い格差感情を与える。同時に、企業のイメージを失墜させ、韓国経済を崖っぷちへと追いやっている。
弱者保護を名目に掲げた「黄色い封筒法」は、肥大化した韓国労組の手にさらなる武器を握らせ、「産業現場を無法地帯」へと変貌させた。李在明政権の残り4年間、韓国労働界の春闘はより熾烈に、そして破壊的に繰り返されるだろう。こうした「賃金発コストショック」と「経営権の無力化」は、韓国企業のグローバル競争力を根底から蝕む悲劇の序幕となるに違いない。
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